歓待2


「そうなのだ、言っておらんかったな、すまぬ佐助。今度、皆で一緒にあの店に行こうぞっ?本当に美味くてな…!片倉園も、楽しゅうござるよ?蘭丸殿も、次はいかがで?」

「「えー…、まぁ“旦那/幸村”がそう言うなら、行ってあげても…」」


「………」
「………」

見事にかぶる二人に、つい黙ってしまう幸村といつき。


「「ちょっと、真似しっ…」」

またもや同時になり、二人とも苦い顔で言葉を詰まらせる。


「…やはり、二人は似ておる…」
「だべなぁ」

幸村が堪えながらも少し唇を歪めてしまうと、いつきはケラケラと明るく笑った。


「「………」」

二人は、むぅっと口を曲げていたが、この話題にそれ以上触れるのをやめることで、自身の機嫌を損なうのを食い止めた。


「オラからは、これ!片倉園で採れた野菜で作った、お菓子だべっ」
「おおお…!これを、いつき殿が…!?」


(何ぃ?手作りとは卑怯な…!)


蘭丸はともかく、自分を棚に上げ、佐助も噛み付きそうな顔で見ていた。


「中等部に入ったら、園に特別入部させてくれるって言ってくれただよ。兄ちゃんのお陰だ、ありがとうな?」
「いやいや、いつき殿の情熱が、先生に伝わったからでござるよ。しかし、良かったですなぁ」
「うん!早く四月が来ないか、楽しみでなぁ…!」

「相変わらず、相手にされてないけどね。背も、全然伸びてないしさ」
「うるさいだ。中等部からが勝負だべ。…とりあえず、兄ちゃんを越えねぇと」

むん、と力を入れる彼女に、幸村と佐助は顔を見合わせ、


「いつき殿、そこまで…」
「うん…そんなに大っきくなくても、良いんじゃない?」

と、フォローする。
二人とも、いつきは小さく可愛らしくいて欲しい…という、兄心を隠しつつの言動なのだが、


「身長はともかく、兄ちゃんより格好良くて可愛くならねぇと、小十」

──目にも止まらぬ早さで、佐助がいつきの口を押さえた。


「?」
「旦那、いつきちゃんは、凛々しい女の子になりたいみたいよ、旦那が憧れなんだって。…そーいうことだよね?理由はさておき」

「…必死だべなー」

ぷはっと息を吐き、「(小十郎先生、格好良いもんなぁ…)」と、佐助へ含み笑う。

対し、「(分かってんなら、余計なことは言わないでおこうか?)」と、威圧的な笑顔を押し付ける佐助。


「某などを目指しておったら、とんでもない荒くれ者になりまするぞ」

幸村が笑い他の三人も笑うが、彼らの心の中には、それぞれ違うものが浮かんでいた…。


「──そうだ、パンフレット、格好良かったべよ?兄ちゃんも姉ちゃんも、すごく似合ってたべ!皆、『何年生なんだろう?』『会えるかな?』って言ってたけんど」

「はは…光栄でござるな」

蘭丸が止めるので、きっと、正体は明かさなかったのだろう…と、佐助はすぐに予想していた。


「でな、オラたちも真似してみただ」

と、いつきが写真を取り出し、幸村たちに披露する。

もうすぐ毎日着ることになるであろう、中等部の制服姿の、彼女と蘭丸が写っていた。


「おお、二人ともよくお似合いですぞ!…これも、いつき殿?」
「うん、中等部からどんなので行こうかなぁって、考え中なんだ」

「(ほぉ…)」

その写真のいつきは、髪を下ろしていたのだが──三つ編みの跡でふわふわになり、いつもと雰囲気が全く違う。


「何やら、…一気に、大人になったように見えまするな」
「えっ」

幸村は、少し照れたように笑い、


「驚き申した…、き…れい、…になりまするなぁ、いつき殿は…──あ、いや!今も充分、可愛らしい、が、」

似合わぬことを、とすぐに後悔し、もごもごし始める。


「兄ちゃん…」

いつきも、釣られたように赤面し、「その顔は狡いべ…」と、頬に手を当てた。



「──浮気者。言い付けちゃおっかなー」
「(そーだそーだ。…その将来性は、あの強面相手だけに使って。お願い)」

口を尖らせ言う蘭丸に、少なからず同調している者が一人。

「ちっ、違うだ…!」と否定するいつきを押しのけ、蘭丸も幸村に近寄り、


「ねぇ幸村、蘭丸はどう?蘭丸も、大きくなって、格好良くなる?」

「!ああ、それはもちろん…!某も、このくらいの頃は、同じような背でな──蘭丸殿は、足が大きいゆえ、某より大きくなるやも知れぬな」

「本当!?うわぁ、嬉しいな!」

悪気がないと分かる言い方だったので、幸村も素直に笑い返す。


「蘭丸さ、この『お兄さん』とか、あと、あの大っきいお兄さんたちより大きくなって、誰よりも格好良くなるからね?楽しみにしてて!」
「ああ…それは、楽しみでござるな」

彼の真意を分かっていない幸村は、佐助に視線をやり、からかうように笑った。


「──ホント…楽しみね…」

ははは、と乾いた笑いで、佐助は二人を見比べる。



「小十郎先生もだけんど、兄ちゃんも『罪な男』だべ」

未だに少し染めた頬で、いつきが呟く。

…正にその通り、と佐助は深々と頷いた。



「二人とも、本当にありがとう。中等部の入学式が終わった後、晴れ姿を見に行かせて頂きまするな?お祝いに、団子をごちそう致しましょう!」

「本当だか!?待ってるべな?」
「やったぁ!別に、蘭丸だけで良いんだけど」
「なぁ、他の皆も一緒で良いだか?…実は、友達できたんだよな〜?兄ちゃんにも紹介するべさ」
「はぁー?」

「おお、それは是非!」

幸村が顔を輝かせれば、蘭丸も渋々──だが、そうしたかっただろう本心を、少し覗かせる。



(…素直じゃないねぇ)


佐助は呆れながらも、どこかで見たような彼の顔に、苦笑いするしかなかった…。

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