帰郷5








死にたくない

死にたくない

終わりたくない、こんなところで


たとえ、寿命があと一年だと言われたとしても、今閉じることより遥かに歓迎する



( ─── )



…何も、伝えられていない

口にしたことさえ






「…ああ、そんな顔をしなくても、許しますよ…そのくらいの欠点。もう、私しかいないんです。きっと、あなたの心は、私で占められる」

「………」

幸村の瞳から、スゥッと光が消えた。


「──せぬ」
「…?」

幸村は低い声で、


「きっと、そうはなりませぬ。あなたの入る隙など、どこにもござらん。…あなたは、間違っておる。その執心の対象は、某ではない。某のことを何一つ知らぬし、見ておらぬ」


「っ、なに…を、」

狼狽する彼に、幸村は微笑みさえし、


「こんなものは、違いまするよ。某は、知っておりまする。それは、何よりも温かい…」


自分は、よく知っている

それが、どんなに温かくて熱いのか


どんなに惹き付けられ、こちらをも熱くするのか

どれだけ、相手の幸せを築こうとするのか


苦しみながらも、自身より相手を優先するのは

…自分のことよりも、ずっとずっと大切にしようとするのは



『お前は知ってる。…分かってるよ』



(──ああ、本当だ…)


あの言葉を思い出し、幸村は頬を緩めた。



「…今は、分かってもらえなくて結構ですよ」

彼はまた冷静な様子に戻り、あの偽のケータイを弄ぶ。


「──私は、猿飛様がドアを開けるのを一番望んでいますね」

「………」


「写真の通りにしてやりたかったですが、予定が押してしまって」

…彼が佐助を特に嫌う理由は、幸村でも予想できた。


「あの方には、本当に苦労させられましたよ。常にあなたの傍を離れず、家に送ってまで。…外国へ渡っていた一月は、とても幸せでした。あのまま、戻らなければ良かったのに」



(佐助…)


──また、知らぬ間に世話になっていた。

自分を呼ぶ声が聞こえてくるようで、心の中で幾度も返す。


「彼さえ、いなければ…」



『ドンドンドン!』


「!」

突如鳴り響いた音に、幸村も彼も視線を同じくする。

──音は、ドアの向こうから伝わってくるもの。


「開けないで下され!」

幸村は大声で叫ぶが、


「こちらの声は聞こえませんよ。防音に造り変えましたからね」
「っ!では、あなたが──」

このときのために、わざわざ家を買い取り…


(こんなことのために…ッ)


昔や、少し前までの彼の優しい姿が頭に浮かび、哀しみがよぎる。

──が、今の自分は、それより何よりも、


「後でお会いできるのを、心待ちにしていますね」

ふわりと笑うと、彼は離れた場所に置かれたソファに腰を下ろした。


『ドンドン!』
『ガチャガチャガチャッ』


ひっきりなしに鳴らされる、ドアを叩いたり、乱暴にノブをひねる音。


「やめて下され!開けてはなりませぬ…!」

聞こえないと分かっていながら、叫ばずにはいられない。



(死にたくない…っ)


枷まで遺して。

…しかも、自分の手による。


その幸せに陰を落とす──…など



(嫌だ…!)





──音が止んだ。


代わりに、



『カチャリ』


…乾いた音が響く。



渾身の力で声を上げたつもりだったのに、それどころか、周り全ての音が幸村の耳から消えた。







‐2012.1.13 up‐

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

捏造云々よりひどい、なんじゃこらな展開。全て申し訳ない。

美少女美紅殿がパソコンで喋ってたのは、あれのちょっと前に、録画していたということで…; タイマーでスイッチオンみたいな。
で、その後お別れの儀式した。どんな儀式よって、自分でも思うのですが(--;)

穴だらけでやんす。

美紅殿は、自分も言ってますが不器用なんで…失敗しまくりの、詰めも弱々。かなり適当。


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