警鐘5
かすがの誕生パーティーの日、幸村は一人先にマンションへ戻っていた。
あの、信玄からのプレゼントを、準備しておくためである。(と言っても、箱から出しておくくらいだが)
今日は、いよいよあのドレスを着て、馳せ参じるというわけで。
慶次はバイトが終わってから駆け付ける予定だが、他の皆は、伊達家の車で武田家に向かっている。
ポストにあの封筒が入っていないことを確認すると、心なしか安堵が湧く。
他の郵便物を手に、急ぎ足でエレベーターへ乗り込んだ。
(──うむ、やはり良い色だ…)
ドレスをハンガーに掛け、うっとり眺めているとケータイが鳴った。
『すみません、ご自分のパーティーですのに、お嬢様手伝われると仰られて…』
「分かり申した、お待ちしておりまする」
かすがらしい──と、通話を切った後で笑みが湧く。
プレゼントの話はひた隠しにしてきたので、家に寄る必要はないと、彼女も一緒に向かったらしい。
幸村は適当な理由を付けて、先に出たのだが。
結局、ドレスはあちらでのサプライズになりそうだ。
幸村は、再び箱にしまい、いつでも出られる準備をしておいた。
迎えを待っている間、郵便物に目を通し暇を潰すことにする。
(…?)
よく見るダイレクトメールの封筒の中から、いつもとは違うものが出て来た。
それは再び封筒で、真っ赤な色が目を引くが、外側には何も印字されていない。
(何だ?)
封筒は、ところどころ膨らんでいる。
開けると、便箋は入っておらず…
逆さまにして振ると、パララッと軽い音をたて、テーブルの上に紙片が舞った。
マンションのロビーにあるインターホンを鳴らし、使用人の彼は応答を待った。
(…?)
なかなか出ない、と思っていると繋がり、
「あ…、の…っ」
「幸村様…?」
──何か、ひどく動揺している。
悪化させないため、彼はいつものように落ち着いた声で、
「荷物も多いでしょうし、取りに伺いますので」
「…っあ、はい、今…ッ」
即座に扉が開く。
彼は、急いでエレベーターのボタンを押した。
「…少し遅れるやも知れぬ、準備で──ああ、では後で…」
受話器を置き、幸村は深い溜め息をついた。
「警察にも寄り、事情を話しておきましょう」
「…ですが、相手にされるかどうか…」
「今度こそは、聞いてくれるかも知れません。彼の警護も、人員を増やすよう手配しておきましたので」
「ありがとうございまする…」
幸村は、テーブルに散らばった紙片へ、恐ろしいものを見る目を向けた。
先ほどの電話の相手は、武田家で他の皆と待っている佐助。
いつもの明るい声を聞き、幸村の身体中の緊張は、少しずつほぐれていった。
紙片の正体は、写真を手で大まかに破ったと見える残骸だった。
そこに写っていた人物は、一人のみ。…髪の色だけで、彼だとすぐに分かる。
『美紅』の名は、どこにも記されていない。
だが、真っ赤な封筒に、写真──しかも自分はおらず、彼だけのものをあのように…
戦慄する恐怖に、全身が固まった。
それを救ってくれたのが、先のチャイムの音だったのだ。
幸村は動転するまま、彼に手紙のことを全て話し、実物も見せる。
使用人は驚いてはいたが、幸村の考えを否定せず、むしろ心配してくれた。
武田家に電話をかけ、佐助と話すよう勧めたのは彼だ。
事情は後でゆっくり話そう、今晩は武田家に一緒に泊まらせてもらおう、などと思いながら、佐助の無事な声に胸を撫で下ろしたのだった。
「大丈夫ですか?」
「はい…すみませぬ」
使用人が渡してくれた水をあおり、幸村は頭を下げる。
ドレスの箱は彼に預け、幸村はバッグの中に、『美紅殿』からの手紙と写真を全部入れた。
「では、先に警察署へ行きますので」
「お願い致しまする」
マンションからは武田家の方が近いので、少し遠くはなるのだが。
「──しかし、やはり『彼女』は、幸村様のファンなのではないでしょうか」
「え…?」
唐突な言葉に、幸村が返せずにいると、
「彼女が、犯人であるのなら…の話ですが。…幸村様に好意を抱き過ぎて、親しい友人たちから奪いたくなったのかも知れません。彼らを傷付けることで、幸村様が手に入ると…」
「そんな…」
到底理解できない考えに、幸村は戸惑いを隠せない。
だが、どちらにしろ自分が原因であることには変わりない。…瞳の奥に、悔しさからの熱が滲むのを感じた。
(…あの車、マンションに着く前から周りにいたような…)
使用人は、バックミラーに映る、隣の車線の数台後ろを走る一台に、視線をやった。
持つ人の多い車種なので、気のせいなのかも分からないが。
「すみません、幸村様。少し揺れるかも…」
念のため向こうの視界から離れておくか、と助手席に声をかけたのだが、幸村は目を閉じ、寝息をたてていた。
まとまった睡眠を、取れていなかったのだろう。…察するに、手紙に疑いを持ち始めた頃から。
(………)
疑わしい例の車は、一定の間隔で同じ方向へ走っている。
こちらが武田家への道とは違うルートを取ると、素早く車線変更し、同じ方へ曲がった。
(狙われているのは、猿飛様だけではない…?)
ハンドルを握る手に、かすかに汗が湧く。
──彼は、力強くアクセルを踏んだ。
‐2012.1.6 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
展開、無理やり押し込んだ感が激しいですよね…; 自覚はあったのですが、えぇいとやっちまいました。
グッチャグチャで、本当にすみません
(ノд<。)゜。
『何だって──』等の台詞は、アニキが言ったつもりで上げました。ゲームのとは、全然違う言い回しだと思うんですが、確認する余力がなくて…m(__)m
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