懐旧5
「ハズレ入り、面白いな!なぁ、開けてみねぇ?皆でやった方が楽しそうじゃん」
慶次が、ワクワクとした顔で小箱を示す。
「何か、生徒会でもやってそう」
「だなー。元就がハズレ引いたとこ、見てみてぇー」
「Ha、やめとけ。どーせ、返り討ちに遭うだけだろ」
「えっ、本当に開けるのですか…」
箱の中身は、美味しそうにしか見えない品揃え。
ワイワイやりながら、食していると、
「…うわ、就ちゃんから呼び出し。こわ」
「御愁傷様ー。あ、チョコ持ってけよ」
一緒に帰るときは、彼らの方から元就を迎えに『上がる』のが常(識)なので、佐助は荷物を手にし、
「(絶対、旦那を一人にしないでよ!)」
と他三人に囁き、教室を出て行った。
…元親以外の二人は、言われなくともそのつもりである。
ハズレには中々当たらず、段々単なるダベリに発展する四人。
「トイレ」
「あ、俺も」
「Haー?この歳で?空気読めよ、テメー。時間ズラせ、バカ」
「読めてねーのは、オメーだろ」
ぎゃんぎゃん言いながら、政宗と元親が席を立つ。
…気が付けば、教室には他に誰もいない。
あからさまな気の遣いように、少々恥ずかしくなる慶次だった。
「慶次殿?」
「──あ。…えーと、何話してたんだっけ」
「お二人が、バイクの話を」
「あ、そっか(…何話そう…)」
慶次が思案していると、
「慶次殿、本当にありがとうございました」
幸村が頭を下げ、驚く彼の相槌を待たぬまま、
「佐助のこと…。慶次殿の仰っておったのは、全て当たっておりました…」
と、続ける。
「ああ──だったろ?良かった」
何だ、という風に慶次は笑った。
「また、お世話になり申した…あちらに、行かれてまで。思えば、失礼な物言いを多くしてしまい…」
「どこが?」
慶次は苦笑し、
「全然失礼じゃなかったけど、お前のそーいうとこ見られて、俺は嬉しかったよ。だって、一人で隠そうとしてんだもんな。
それに、向こうでは、しっかり楽しんで来たし。メイン、そっちだったんだから」
だが、幸村は小難しい顔になり、
「…某、本当に甘えておりまする。慶次殿が怒らぬことに、胡座をかいておるのだろうと…」
「んなことねーって。むしろ、嬉しんだけどなぁ、俺は。甘えられたり、思うまま言われたりすんの。自分見せてくれてる気がして」
「──…」
(そういえば、)
自分も、佐助や元就がそうしてくれることに、喜びを感じていた。
慶次が言っているのも、同様の…?
(だとすれば、良いのであろうか…これで)
幸村は、力を抜いたように笑い、
「しかし、後悔するやも知れませぬぞ。調子に乗って、ますます酷くなり…『言うんじゃなかった』──と」
「そりゃー無いなぁ」
カラッと笑う慶次に、『そうでしょう?』と言おうとすれば、
「絶対無いな。後悔?あり得ねー。だいたいそれ多分、俺が悪ぃんだからさ。俺がいつも、腹立つことばっかするから。幸をも怒らす俺、ホントひでぇ」
と、今度は苦笑いで返される。
「それは違いまする、某の未熟な…」
「…なぁ、何かキリなさそーじゃねぇ?もう、やめない?」
「──…ですな」
慶次がまた笑うと、幸村も自然そうなった。
「…あのさ。あれ全部、義理チョコだから…」
少し心地悪そうに言う慶次を、幸村はすぐに察することができ、
「分かっておりまする。想う方がおられるのだから、そうでないチョコは受け取らぬ──のですよな」
「そ…そう」
相当に意外だったようで、慶次は目を瞬かせる。
「慶次殿は…」
「…うん、もうすぐ言えるかも知れない」
「えっ?」
慶次は、「あ、いや…」と一瞬言いよどんだが、
「ごめん、勝手にその話かと。…俺もさ、もうすぐ伝えられそう。頑張るな」
「──っ、は、い…」
ようやく何のことか分かった幸村が、慌てて応える。
焦りついでに、再び残りのチョコを口に入れ始めた。
「まぁ、チョコはもらえないけどなー。思い付きもしないだろうしさ」
にこやかに笑う顔に、また苦しくなる。
(しかし、もしかしたら来年から、もらえるようになるのかも)
……その方に。
そう言えば、慶次が喜ぶのでは…と、思ったのだが。
「俺、真っ先にお前に言うな?そのときが来たら」
慶次が微笑み、幸村の頭に軽く手を乗せる。
──ざり
中で妙な音がしたかと思うと、
「〜〜〜〜ッッ!!!」
「幸!?」
幸村が口と鼻を押さえ、何かに耐えるよう目をギュッとつぶった。
苦しそうに片手を握る姿を見て、
「──あ!『ハズレ』かぁ!大丈夫か!?」
と言いつつ、明らかに楽しんでいる慶次。
ポンポンと肩を叩いてくるが、何の役にも立たない。
幸村は、運やタイミングの悪さが、憎らしくてならなかった。
何とか目を開けると、涙の滝が二本完成。
「うわ!相当なんだな…」
さすがに、慶次の笑いも少しずつ弱まる。
「大丈夫か〜?あ、水買って来るわ。甘いヤツのが良いかな」
と立ち上がるが、幸村が腕を掴んで止め、
ジェスチャーで『自分で』と伝え、猛ダッシュで自販機へ駆けた。
(あああ、もう!何故、こんなときに!そもそも、自分が食べたのが悪い!)
戒めるよう、片手でもう一方の手の甲を、ベシベシ叩く。
冷たいジュースが入っていた、空のペットボトルをギュウッと握り締める。
涙がひっきりなしに流れ、ハンカチ(かすがにいつも持たされる)は、グシャグシャになっていた。
(痛い痛い痛い痛い…)
自販機前のベンチで、身体を折る。
一気に飲んだせいで冷えてしまい、ブルリと震えた。
(治まらぬ…)
…もう拭いても同じことなので、やめた。
「──平気?」
「(ぬぁ!?)」
心配そうな慶次の姿が背後から現れ、幸村は飛び上がる。
「寒!よく居られるな、こんなとこ。早く戻ろうよ(一人にできねーし)」
「………」
このような姿を見られたくないという気持ちを、頼むから分かってくれ…と思う幸村。
「すげー仕込んでたんだな…食べるの怖くなってきた」
慶次が恐々と言う。
口の中の炎は、既にもう治まっていた。
…が、涙は一向に止まない。
あろうことか、勢いが増した気までする。
(──痛い…)
鼻を啜り、今度は背中をさするという明後日な介抱をする慶次の隣を、俯いたまま歩いた。
‐2011.12.20 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
また、ゴチャゴチャですみません。
お館様、恐らくもう出番ない気がするんですが、それもまた口惜しや(;_;) 好きなのに、全然登場させられない…。二人の殴り愛は、学園の日常風景の一つです。
この長編、下書きは幸村とかすがの出会いが序章だったり。戦国もそうでしたが、必ず彼女から入るという(^^;
かすがちゃんと幸村を仲良くさせられて、とても自己満足しとります。
佐助の腕は、スウィーツも素晴らしく。味は三つの中で一番だったようです。が、幸村の中では、三つとも比べられないほどの宝物。
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