懐旧4



「──あ」
「ん?どしたの?」

教室に戻ると、まだ誰もいなかったのだが、


(何と…)


幸村は、机の中から、それを取り出した。

ほどよい大きさの、リボンの掛かった…


「マジで?こりゃ、昨日の放課後にでも入れたんだろね」

(俺様、一月もいなかったもんな。ガードが甘くなっちゃったか…)


佐助は口を尖らせ、幸村は恥ずかしそうにバッグへ入れる。


「結構デカいね。中身チョコだけじゃないよ、きっと」

(ブツで勝負かぁぁ…?)


「………」

幸村は、上手い返答もできない。


「旦那、どーする?袋とか持ってる?帰り、すごい量になってたりして」

(百パー阻止するけど)


「そんなわけ…」
「今日は、一人にならない方が良いかもよ?」

(てか、させねー)


「考え過ぎだ、佐助…。それより、自分の心配をした方が良いのではないか?」

幸村は、冗談でなく言った。

他の友人たちも、大変なことになるのでは、と頭をよぎる。


「俺様は大丈夫よ。義理以外、断るし」
「?」

佐助は笑い、

「だって、本命いんだから。好きな人いるのに、受け取れないっしょ」

「…っ!」

またもやの不意討ちに、幸村は赤面せざるを得ない。

自然な動作のつもりで、隠すよう眉の上へ手を置く。…下から、佐助の幸せそうな笑顔が見えた。


「今日は、ありがとね。朝から、良い思い沢山しちゃったよ」


(佐助…)


彼が笑うと、この上なく嬉しくて幸せになる。それは、以前も今も変わらない。

さらに、自分がそれを為せるというならば、これ以上に幸せなことはないのでは。


(政宗殿には、それよりも自分の我儘を通したくせに…)


だが、もう認めるしかないようだ。…既に、分かっていたようにも思えるが。

ずっと以前から、もう。


佐助は、




──『特別』だ──





「…俺の方こそ。ありがとう、佐助」

幸村も、心からの笑みを贈る。


間もなく二人だけの時間は終わり、教室の中には、日常風景が広がっていった。













幸村の予想とは異なり、友人たちの周りは静かなものだった。

人気ランキングの後、片っ端から断り続けていたのが仇となったか…特に佐助と政宗は、義理チョコすら回って来ない有り様。

(彼ら曰く、全員が本気だったからだ──とのことだが)


そんな中、家康のチョコの数は、凄まじかった。
顔が広く、誰に対しても明るく誠実で友好的なため、年を積むごとにその量も増えていくらしい。

今日なら、本多先生が飛び立つ姿が拝めるかも知れない。でなくとも、彼が荷物持ちになることは間違いない。

そして、家康に似たような人間関係を持っているのが…


「慶ちゃ〜ん、チョコだよ〜?」
「これ、こないだのお礼!受け取って!」
「お返しは良いからねー」

「おー、ありがとな〜」

廊下で、キャイキャイさざめく輪の中心で、慶次が屈託のない笑顔を見せる。

彼は顔が広い上に、通称・恋愛の神様。相談から成就(カップル成立)まで、何件もの実績を誇る。
その結果、義理チョコはお中元かお歳暮(もしくは願掛け)のような扱いにまでなっていた。

放課後になっても、その勢いは衰えない。

彼と、元就の生徒会が終わるのを待つメンバーたちは、机に着き、各々好き勝手していた。

(廊下を見ないのは、決して羨ましいからではない…という、妙なオーラも出ていた)


「皆さん、受け取って下さ〜い」

ニコニコと、鶴姫が彼らのもとへやって来る。
手には紙袋を提げ、中から包装された小箱を取り出した。


「おっ?鶴の字、分かってんじゃねーか!」

元親が、こちらも分かりやすいほど、明るい顔になる。


「何と、孫市姉さまとかすがちゃんと、協同合作です!レアですよぉ?」

「手作りかよ!」
「Hey、大丈夫かぁ…?」

また一言多い政宗を、鶴姫の隣にいたかすがが睨む。


「生徒会の皆さんにも、お作りしたんですよ〜。孫市姉さまに、お願いしました」

「うっそ、そりゃ喜ぶわー!特に黒ちゃん」

「孫市姉さま、渡してから生徒会へ行けば良いのに…照れ屋さんですから。──はい、真田さん!」

「あ、ありがとうございまする」

手を差し出さんばかりに待っていた政宗と元親が、漫画の如くガクッとなる。


「この間頂いたお土産を真似して、ラッピングも変えてみました!中身も、真田さん仕様で甘甘なんです〜」

「おおおお…!!」

赤やピンク系のそれに、幸村は目を輝かせた。

「本当にありがとうございまする!後で、孫市殿にも礼を」

「あっ!じゃあ、メールでしてあげちゃったり出来ます?絶対喜ぶと思うんですっ」

鶴姫は、佐助や政宗の不穏な雰囲気も、何のそのである。

他のメンバーのものも、それぞれ包装の色使いが違っていたが、中身はほとんど変わらないらしい。


「ただ普通に作るのもつまらないので、ハズレを入れておきましたっ☆楽しんで下さいね」

「ハズレ…」

「激辛とか激甘とか激酸とか」

「す!?まさか酢入れたんじゃねーだろな。レモンとかならまだしも、オメー」

「お返しは、きちんと三人それぞれにするんだぞ」

「あー!?」
「親ちゃん、モテないよ?」

佐助が、胡散臭そうな笑顔で、彼を抑える。


「幸、かすがちゃん、お迎えだよー」

もらったチョコを自分の席に置き、慶次が廊下を示した。

武田家の使用人の男性が、二人に会釈する。

いつもは外で待っているので、幸村たちは驚きつつ彼に寄った。
まだ職員室にいる信玄に用があったらしく、ついでに覗いてみたらしい。


「前の運転手さん、引退?」

佐助が聞けば、

「いや、あの方は他の用事が多いのでな。ここの迎えだけ、彼にお願いしているのだ」

と、幸村がその若い使用人を紹介した。


今日は、ほとんど回復している信玄の母親と彼の妻と、観劇に行くらしい。
『女性だけで行こう!』との話になったらしく、幸村は今日は歩きであるのだと。

それを聞き、佐助と慶次は他二人に比べ、上々機嫌に変わった。

慶次のバイト先は、バレンタイン期間中は短期のバイトが雇用されるため、今日もシフトは入っていない。

かすがは使用人の彼と出て行き、ついでにと、鶴姫も皆に手を振った。

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