懐旧2



「──だね。二人見てたら、嫌ってくらい分かる…」

佐助は、わざと悔しげに笑う。



(…良かった)

良かった、……本当に。


(ああ、ホントらしくもない…)


天を仰ぎ、少しだけ耐えた。

自分の髪色と同じ空が、その目に降り注ぐ。


「…でも、本当にそうかもね」
「ん?」

「旦那の初恋。かすがちゃんかもよ」
「──へぇ?」

かすがは、馬鹿にしたような顔で聞き返した。
佐助の言葉を、皮肉か何かと捉えている。


「昔、言ってたよ。『かすが殿は、日の本一の姫だ』ってさ。綺麗で情が厚くて、真面目で──とかって」

「──……」

かすがは本気で驚いたようで、口を開けたまま。


(まぁ、そう思った理由は、教えてやれないけど)

心中でほくそ笑み、


「かすがちゃん、ありがとね」
「…何が」

「色々と。…あ、旦那を育ててくれて?」
「殴られたいのか?」

上がった腕を避け、「んじゃ、ここで〜」と、手を小さく振る。


「ったく。……またな」

舌打ちでもしそうな顔をしていたが、かすがは帰路へと向いた。



──“またな”


昔もよく、彼女から言われた…



「………」

その背をしばらく見送り、佐助も今度こそは自宅への道を行った。













佐助がホームステイしている間、信玄の母親が、体調を崩して入院をしていたらしい。

幸村とかすがにとっては祖母のような存在なので、放課後は毎日病院へ通っていたとのことで。
迎えは武田家の車が…で、今は退院したが、二人は変わらず家に顔を出しているようだ。


よって、幸村の姿は既にない。

帰国後の、休み明けの放課後──



「ね〜、慶ちゃん。うちの父親のメルアド、どうやって知ったの?今頃なんだけど」

「えっ?…えー…っと…」

「てかさ、見たよ。何よ、あのメール…。どうせ出すなら、代表者決めなよ。人格崩壊してんじゃん。親ちゃんと就ちゃん、ずーっとバトってるし」

「うあ、もうバレちまったのかよ。お前、幸村に言ったわけ?」

元親が、渋い顔になる。


「いーやー?旦那喜んでたし、もらっとくわ。ありがと、株上げてくれて」

「Haha…残念だったなぁ?頃合い見て、全部バラしてやる。上がるのはこっちの株、お前のはダダ下がり」

「別に良いけどー。そんときゃ、慶ちゃんに脅されたって言う。でも、『俺様も毎日心の中では送ってた』って本心言やぁ、多分旦那、分かってくれると思うんだよね」

「脅してはないだろー?」

佐助は、じとっと睨み、


「徳ちゃんに頼んだんだってね。すぐ、そうだと思ったけどさ…そういうの詳しいし。しかも、父親のメルアドも調べさせたって?」

「あはは…。たった二日でバレちゃうとはなぁ。電話だと、すぐ切られそうだと思ってさ」

慶次が苦笑いで、ゴメンゴメンと手を合わせる。


「誰かさんがフラれたってことも、秘密にしてさ〜。慶ちゃんには騙されたわ」

(しゃあしゃあと、嘘ついて…)


「だって、早く帰って欲しかったし。メールだけじゃ、本当の元気は出ないよ」

「………」

時々、彼にプライドの有無を尋ねたくなってしまう佐助だった。


「ほら、オメーの分。俺が預かっといてやった」

政宗が、あのデートの際の、幸村の戦利品を出す。──迷彩柄の小物を着けた、皆とお揃いのキャラクターマスコット。


「えー、何でアンタが?呪いでも仕込んでんじゃねーの」

「Haーhaーhaー……」

政宗も、笑いながら青筋を立てるという特技の持ち主。ただし、佐助と違い見るからに凶暴だが。


「どーせ、旦那に持たせたくなかっただけでしょ。でも、お笑いだよねぇ、俺らが『一応』友達?とかさ」

「どうりで、ハナからムカついてたわけだろ?」
「ねー!謎が解けたわぁ。まぁ、気にもしてなかったけど」

「…今日は、テメーん家行くかぁ」
「は?」

「あ、良いねぇ!元就迎え行って、皆でそうしよ!」
「修学旅行の話、聞かせてやるよ」

政宗の急な提案に、慶次も元親も俄然乗り気になる。


(まー…良いか…)


ホームステイに行く前を合わせても、久しくやっていなかった。


…記憶が戻っても、皆の態度は変わらない。

幸村の話を聞き、政宗への接し方が固くなるかと思ったが、全く問題なかった。

むしろ、今まで以上にカンに障るし、…まぁ、似てるってのも、少しは認めてやろうか…くらいは思った。…かも知れない。


「お前も、元就様にイビられろ。明日休みたくなるくれーまで、ツブしてやらぁ」

政宗が、楽しそうにニヤニヤ笑う。

外国で聞いた慶次の話では、彼と元就も最近『仲が良い』らしい。…やはり、良いコンビだったのか。


「な…何?」

慶次が、面食らったように佐助を見る。

生徒会室へゾロゾロ向かう途中、佐助が慶次の肩先に鼻を寄せた。


「…別にィ…」
「え、何、何っ?臭い!?」

「まぁ、慶ちゃんはクサいよねぇ」
「──あ、そーいう意味?ビビった…」

慶次は、冷や汗寸前である。


「クサいし、ウザい?」

苦笑し、「さっけも気を付けた方がいーよ?」

「はぁ?」

自分にそんな性質などない、と自負している佐助。力一杯、怪訝な顔で見返した。


「俺らって、キモいらしいよ?幸見る目」
「はー…?」

慶次が、一月前に政宗たちから言われた、あの言葉を伝えてやる。


「てか、写真見たい!ズルい!え〜…知ってたら、一昨日見せてもらったのにー」

「だからさ、そーいうのもダメなんだぜ、きっと。こっちにそんなつもりはなくても、怒らすみてーで」

「んなこと言っても、しゃーないじゃんねぇ、可愛いし綺麗だし、好きだしで」

「だよなぁー…」

大きく頷く慶次。


その後、写真がどうだったのか、そういやアンタ実物見てんじゃん、一番ムカつく、いや俺のせいじゃないじゃん──などの言い合いに発展する。


(………)


その様子を、前を歩く政宗と元親は、ぼーっと眺めていた。


(ウザさは良い勝負…)


ほどよく元就のS気を引き出してくれることだろう、と勝利を確信した…。

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