連繋5


「あー、もうそんな時期かぁ。早いねぇ」

それは、桜をイメージした香りらしい。世は、受験シーズン真っ只中である。


「かすがちゃんが選んだの?」
「いや、俺が。すごいのだ、色んな種類があってな…。元就殿も、好きかも知れぬな」

「…ふーん」

佐助は、ダルマの缶と今飲んでいるものの缶とを見比べ、

「ねー、どっちの先に手にした?」
「え?」
「どっちを先に見付けてくれたの」
「…?」

幸村は、妙な質問に首を傾げるが、

「確かこちらだな。その後で、季節物のコーナーに回って…」

「──勝った」

よし、と片方の拳を握る佐助に、ますます疑問が湧く。…が、彼に説明する気はないらしい。


「今度、俺様も買いに行こうかな。旦那っぽいの、見付けて来るよ」
「おお、それは…」

幸村が破顔すると、佐助はスッと立ち上がる。

「佐助?」
「…ちゃんと確認しとこうと思って」

素早く幸村の背後で膝を着き、彼に腕を回す佐助。
うなじに鼻先を付け、すぅっと息を吸う。


「な、何を…っ?」
「ん?旦那の匂い。これと同じの探すためにさ、ほら」

そこから首筋へと顔をずらし、吸った空気を吐き出す。


(ひ、ゃ…ッ)


小さな悲鳴を上げそうになるのを、幸村は何とか堪え、その耳は真っ赤に染まった。
それからも、しつこく鼻を利かす佐助。


「ん〜…何回もかいでたら、分かんなくなっちゃった。どーしよう」
「もう、良い…っ、ど、け…!?」

腕を下げ、佐助の手をどかそうとすると、突然胸に当てられた。


「…すっごいドキドキいってんね」
「──ッ」

幸村の顔から、一瞬で湯気が沸く。


「すげー嬉しい。俺様のが、移ってくれたのかな」
「な、な…」

佐助は手を離すと、今度は優しく抱き締めてきた。


「ずっとしてりゃ、旦那も騙されてくれるかなぁ…とかさ」

「………」


(佐助…)


強張った幸村の身体が、少しずつほぐれていく。


「ごめんね。政宗のこと…実は喜んでたりもしてさ。…分かったときで良いから、答えてくれないかな。──じゃなくて、」

ようやく腕を外し、佐助は幸村を自分に向かせた。


「もう一度チャンスを頂戴。今度こそ、旦那を…」

「──…」


瞳の中、静かに燃える黒い焔。

幸村は、見惚れてしまっている自身の姿を、その中に見ていた。













(危なかった…)



佐助は、未だに止まぬ胸の動悸に、冷や汗をかく。
どさくさ紛れに抱き付いたりしてみたが、色々と本当に…


(ぅあー…)


…何故に、あんなにも可愛い?

いや、現実は分かっている。単に緊張して、ああなったのだということくらいは。

しかし、嬉しくてたまらない。
勘違いもいい加減にしろとは思うのだが、自分の中ででなら良いじゃないか、と。誰に迷惑をかけるでもなし。

もちろん、胸中には複雑なものばかりが渦巻いている。

政宗は、彼だけの繋がりを手に入れた。
…否、もうずっと以前から、その糸は切れていなかった。これからも、一生見せ付けられることになるのだろう。

そして、あの馬鹿げたメール。
早速、どういった経緯でそうなったか、問い詰めなくては。わざわざ、外国から送ったように見せかけてまで…

(旦那にゃ、そこまでのネットの知識ないのに)

だが、しっかりその功績はもらっておくことにした。…負けた気分は大きいが。
まぁ、確かに自分が言いそうな内容がほとんどだったので、送りたかった己の気持ちを昇華したと思い込んでおこう。


──最後に、あの茶葉…

政宗が振られた今、最大の敵となった彼。


(俺様だって、愛ハンパないし、しつこさでも劣らないよ…)


今日のことだけで、大きな糧をもらえた気がする。

どこか清々しい顔で、佐助はマンションのロビーから歩を踏み出した。











(驚いた…)



幸村は、やっと落ち着きを取り戻していた。


(本当に佐助か…?)


疑いたくなってしまうような、変わりよう。
いや、その言い方はあまりしっくり来ない。何というか…

…あれが『素』なのかも知れない。


今日は、びっくりすることが多過ぎて、頭の中では嵐が吹き荒れていた。
てっきり、『彼女』の話等々かと思ってみれば…

しかし、政宗のことがあったときに思ったのだ。当分、自分にはそのような機会はないと。

だが政宗に、

『俺のことを気にして、そういうのを避けるのは絶対やめろ』

と、強く念を押されている。
さらに、

『んなことしてみろ?また押し倒してやるからな』

などと、結構効き目のある脅しまで。(めちゃくちゃな発言だが)


政宗からは尊い絆をもらった。
彼を幸せにすることより、それを望んだ自分がはっきりと分かったゆえに。

だが、佐助は。

…何より望んでいた彼の幸せは、つまり、


(──俺が、)


もしや…できるのか?
そのように…


誰にもそうできないことが、苦しかった。
誰よりそうあって欲しい彼らに。


──あの夢は、ここ最近頻繁に見るようになっていた。

元就、元親だけでなく、政宗、小十郎…周りのほとんどの顔が映し出され、思い出せないことにもがき迎える朝。


(その繋がりがなくとも、どうか…)


起きて真っ先に浮かぶ願い。…幾度となく。

それを遂げられるのかも知れない。そう思うと、幸村の胸は再び熱くなり、


…痛くもなった。







‐2011.12.7 up‐

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

カオスですみません…!(震)
いや、もうずっとそうですが(;o;)

幸村は沢山の人から可愛がられ。
中でも、彼のことが大好きな政宗。幸村にも伝わり、きっと死ぬほど考えました。
幸村にとっても、特に大好きな彼ですので。


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