連繋4
(口に合えば良いが…)
幸村は、缶から茶葉をティーポットに入れ、香りをかぐ。
何となく、佐助を彷彿させる気がし、手にしたものだったのだが。
「良い匂い」
「っ!」
急に背後から声がし、幸村は心の中で飛び上がる。
「お、驚かすな。全く、相変わらず気配のない…」
「旦那があんまり真剣なんで、悪いと思ってさ〜」
ごめんごめん、と佐助が柔らかく笑う。
「もうできる、座って待って」
「ううん、見てる。あ、手伝うし」
「いや、構わぬ…」
幸村は湯を注ぎながら、
「何だ、『見てる』とは」と、苦笑した。
佐助はニコリと笑い、
「一ヶ月も旦那見らんなかったから、たっぷり見とこうと思ってさ」
「──…」
幸村は目を丸くした後、はぁっと溜め息をついた。
「俺の顔は、そんなに面白いか?慶次殿といい佐助といい…」
「え、慶ちゃん?」
眉を寄せる佐助に、幸村は苦笑し、
「以前、同じようなことを言われた。…まぁ、良い。こんな顔で良ければ、せいぜい好きなだけ楽しんでくれ」
佐助は「ふーん…」と呟き、どこか一癖ありそうな表情を浮かべていたが、
「──じゃ、お言葉に甘えて」
と、幸村のすぐ傍に寄り、じーっとその顔を眺め始める。
「…近い」
「えー、そっちが言ったくせに。こんくらい近付かないと、よく見えない」
「嘘をつけ、お前視力…」
呆れながら、佐助に向き合った幸村だったが…
すぐ目の前にあった、彼の顔。
──どこか、今までと何かが違う。…急に、大人びたような。
(う…)
何故か、大晦日の晩のことが思い浮かび、幸村は内心焦る。
政宗との話を終えて以来、一度もなかったというのに。
佐助と彼女をどういう顔で出迎えるか…そればかりを考え、自分の初恋は、まだまだ先になりそうだ──と。
しかし、彼の気持ちは慶次が断言していた通りだった…
肝心なことへの認識が薄れていたようであり、佐助が自分にどうしてくるか、幸村は身構える心地になる。
「…ね、旦那。パソコン見ても良い?」
「えっ?」
突然の一言に戸惑うが、その顔は以前のような彼に戻っており、幸村はすぐに首を縦に振った。
“連絡遅くなってごめんね。色々忙しくて。
学校にも慣れて、元気でやってるよ。まぁ、ウチの学園と縁のあるとこだし、前行ったときに仲良くなった友達も多いしでさ。
旦那は元気?
俺様のこと心配し過ぎて元気なくしてたら、やだなぁ。俺様は大丈夫だからね?
まぁ…ホント言うと嬉しいけどさ。そうだと。”
“旦那、おはよー!
返事、ありがとね。そっちの様子も教えてくれて、皆元気そうなのが分かって良かった。
ちゃんと親ちゃんと一緒に帰ってるって聞いて、安心したよ。
恥ずかしいからあんま言わないけど、俺様、親ちゃんのことはスゲェ信用してんだよね。
男気溢れるあんなイイ兄貴、なかなかいないよね。俺様も、これからは兄貴って呼ぼうかな。あ、でも逆に気持ち悪がられそうだな、やっぱやめた。
何かあったら、親ちゃんに相談しなよ?
ところで、こないだこっちの美味しい魚に出会ったんだけど…”
“旦那へ。
こっちもそっちと気候似たようなもんだから、全然平気だよー。ありがとね。
そうそう、こないだ俺様何か心にもないこと口走っちゃってたみたいで、ゴメンね?
よく考えたらさ、旦那のことちゃんと分かってんのって、就ちゃんじゃんねぇ?あんなバイク馬鹿じゃなくてさ。
生徒会で忙しいだろうけど、しかも俺様がいないでしょ?雑用係とはいえ、結構重宝してたことに今頃気付いてるとこじゃないかな。
もし旦那さえ良かったら、生徒会に顔出してやってくんない?多分、大した仕事しなくても、お菓子とかくれると思うよ。
んで、皆で一緒に帰れば眼帯二人が図に乗ることもないでしょ?……”
“Dear 旦那
元気そうだね。
やっぱ、政宗がいるからかな?
こないだ、こっちで皆の写真見せたんだけどさー。政宗が、一番イケメンだって評判だったよ。旦那とお似合いだって。
俺様?うーん、残念ながら全然だねぇ。
まぁ、分かってたけどね。まーくんにゃ、とても敵わないって…”
その後も同じように続く、やたらとテンションの高い、数々のメール。…明らかに、四つのパターンでその内容は分かれる。
(…俺様、多重人格者かよ)
しかも、出した覚えがないというのだから、それはもう重症であろう。
『あいつらも俺も、幸を元気付けるために、めちゃくちゃ嘘ついたから──』
このことか…と、佐助は呆れた顔で息をついた。
「佐助?」
「…あ〜…。俺様、下んないことばっか書いてんなーって思ってさ…」
苦い笑いとともに、佐助はコタツへ戻る。
「そんなこと…あ、早く飲まぬと冷めてしまうぞ」
「うわ、ごめん」
慌てて、示された紅茶を口にし、「へぇ〜」と声を上げた。
「美味しい。すっげー良い匂いだし」
「そ…そうか?」
幸村は嬉しそうに笑み、パッと立つとすぐに戻り、
「今日のは、これだ。佐助が好きそうだと…」
と、可愛らしい缶を見せる。
(俺様が…)
すぐに佐助の胸は反応し、顔に熱が集まる。…が、どうにか必死で抑えた。
「わー、色々あるんだねぇ」
幸村が持って来たバスケットの中には、他にも様々な種類のものが並んでいる。
「これはどうだ?」
「ん?…うん、良い匂い…」
(どっかでかいだような…?)
幸村に差し出されたその茶葉は、ほんのり甘く、それでいてどこか落ち着く…
『合格祈願』と書かれ、薄桃色の背景に、愛嬌のあるダルマが描かれている。その暁には、片目を入れるのだろうか。
缶の内側には、『サクラ、サク』とあった。
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