連繋3


「はい?」

幸村が三人のもとへ来ると、


「スゲー綺麗だぜ、ビビった。デジカメじゃ、よく見えなかったからよ」
「実際の姿を拝みたかったな…残念だ。本当に似合っている」

「あ…」

写真を見せられ、幸村は頬を少々染める。


「ちょ、俺は?俺に対しての褒めは?」
「幸村の引き立て役としては充分」
「ひでぇ元就」

言いつつも、四人からは笑いが上がる。

しばらくして、幸村とかすがは放課後の教室を後にした。
ある事情で、今日から武田家の車が二人を迎えに来る予定となっている。


「…元親みてーに言や良いのかなぁ。こう…サラッと?」
「?何が?」

ぶつぶつ呟く慶次を、他の二人が怪訝そうに窺う。

慶次は苦笑しながら、

「俺が綺麗って褒めたら、すげぇ機嫌悪くなってさ…。さっけの言う通り、そういうの飲み込んだ方が良かったかなーやっぱ、って思ってたんだけど」

と、頬をかく。


「あー…そりゃあ…」
「──……」

「あ、やっぱそう?…俺も一応、自然に褒めたつもりだったんだけどなぁ。サラサラ〜って」

微妙な表情になる他の二人に、慶次は「下手に言わねー方が良いか、俺は」と、笑った。


「佐助やお前だから、腹立つんだろ」
「え、ショック」
「いや、じゃなくて…」

「お前たちは、いかにも軽いであろう?であるから、真面目な幸村の本能が察知し、怒りが沸くのだ。『某は男だ。そのような目で見るな、この女タラシどもめが』──と」

「えっ、え、何それ?幸、そう言ってた?」

一瞬で顔色が悪くなる慶次を、元就は涼しい顔で笑う。


「違ぇよ、(…まぁ、当たってるとこもあるけど…)」

元親はフォローしようとしたが、


「Ah〜確かにな。お前らのあいつを見る目、尋常じゃねーからな。即、危険信号が出るんだろ。『ここで隙を見せれば、タダじゃ済まされねぇ』ってな」

「そういうことだ」

政宗が加わり元就が頷くと、慶次はトドメを刺されたように真っ白になった。


「ど、どんな目…」

「獲物を前にした獣のような」
「電車で女子高生物色する、キモいオッサンの目。油っこい」

「嘘ぉぉぉ…」


(………)


情けない顔で、鏡を取り出す慶次。
覗き込み唸る姿を、政宗と元就が延々からかい笑う。
心から楽しそうな顔に、つくづく二人の性格の良さを実感する元親だったが。


(…まぁ、今日くれーは良いか…)


と、政宗へは少し優しい気持ちを、陰で懐いていた。



─────………



その頃、迎えに来た武田家の車内で…


「これは笑える一枚だな」
「ん?」

幸村の分の写真を見ていたかすがが、嘲笑とともにそれを彼へ渡す。


「…ああ…」

それは、スキー研修のときのクリスマスパーティーでの一枚。
頭に花を付けた幸村と慶次、二人の後ろで、ツーショットを邪魔しに来た佐助と政宗が写っている。


(──あ、また…)


政宗を見てみると、自分が最も好むあの笑顔をしていた。

しばらくは続くだろう痛みを甘んじて受け止め、表向きはそれを笑顔に変える。
そう約束し、また、彼との距離はかえって近くなれた。…当然、友としてのという意味合いだが。

ひどい奴だと自分を嘲りながら、そのことに心から喜びを感じてしまう幸村だった。


「そんなに変か?」

笑うかすがに、幸村は眉を下げるが、


「だって、よく見てみなよ。…こいつら、皆同じ顔」
「え?」

改めて写真を目にし、他の二人もちゃんと見てみる。


「…本当だ…」
「顔、全然違うのにな。不思議」


(──……)


幸村は、写真を封筒にしまった。


今日はメールが届くだろうか、と考えながら、窓の外の街並みを眺めていた…













時は再び進み、場所は幸村の自宅へと移る。

政宗との話を聞き終え、佐助は黙っていた。
静かに立つと、幸村のすぐ隣へ腰を下ろし、


「辛かったね…」

と、軽く抱き締めた。


背中と頭の後ろを、それぞれ優しく撫でる。
まるで母親のようなその仕草に、彼が自分の『オカン』などと呼ばれていたことが、ふっと浮かんだ。

最近では、全く耳にしなくなっていた言葉。
本当に帰って来たのだということが実感でき、幸村の胸が温まっていく。


「あいつもだろうけどさ、旦那だって苦しかったよな。…大丈夫。向こうも分かってる、全部。あいつは絶対離れない、旦那から。大丈夫だよ、旦那…」

「元親殿にも同じようなことを言われた…。ありがとう、佐助」

もう平気だ、という風に幸村は笑う。

既に一ヶ月は経っているのだ。佐助にも、二人は自然体で接し合っているとよく分かってはいた。

だが…


「うん、ごめん…分かってんだけどさ。そのときしてあげられなかった分、今…」

──幸村は、自分に一番に相談してくれようとしていたのに。慶次にも誰にも、打ち明けることのないまま…一人で。

自分への怒りに、佐助は拳を細かく震わせる。


「何を言う、お前のお陰だ。お前に堂々言えるよう、俺なりに政宗殿への言葉をずっと考えていたのだ。だから」

「でも…」

「それに、メール。あれにも随分励まされたぞ。実際会うと、やはり緊張してしまったがな、今はもう…。良かった、メール通り元気そうで」

「………」

佐助は何も返さず、その腕から力を抜いていく。

幸村はキッチンへ立ち、


「すまぬ、茶も煎れず…。かすがが新しく発見した紅茶、なかなか美味いのだ。是非飲んでみてくれ」
「あ──ありがとう…」

ハタ、と気付かされたように、佐助は彼を見上げた。


コンロにケトルを用意し、幸村はリビングの佐助を窺う。

オレンジの髪に、涼しげな横顔。


(…帰ったのだな…)


何度思えば気が済むのか、と自分でもおかしくなるが、どれだけでも確かめたくなる。

…たった一月だというのに。


ケトルの口から湯気が昇り始め、幸村は紅茶の缶を取り出した。
小振りの物で、香りやテイストによって、それぞれ可愛らしいイラストが描かれている。

かすがに連れられ一緒に店に行った際、幸村も楽しみながら茶葉を選んだ。

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