連繋2


幸村は、俯いたまま、

「もしかすると、そうなってしまえば…などと、思っていたのかも知れませぬ。恐らく、嫌うなど無理でした。きっと…その逆で。あんな風に言っておきながら、そうなりたくもあったのかも。──最低ですな」

と、ポツポツもらす。


「…そんな風に笑うな。お前にゃ似合わねぇし、それだけ政宗様のことを思ってくれてたからだろうが。…礼を言うぜ」

「そのような…。ただ、甘えようとしていただけでござる」

「そりゃ、最高の殺し文句だ」
「──…」

小十郎が静かに笑うと、幸村も気持ちを入れ換えるように倣った。


「政宗殿は、本当にお優しゅうござる。『デート』と聞いて構えていた某のことを、よくご存知で…。だから、ドームや夜の遊園地、先生もご一緒──なのですよな?男同士でも、気にならない…」


「それだけじゃねぇ」

小十郎は微笑み、

「知ってると思うが、叔父は昔から多忙でな。政宗様は、家族旅行なんざ幼い頃から一度もしたことがねぇ。…この二つは、そういった思い入れのある場所なんだ。実はどちらも初めてだ、来られたのは」


「何と…」

パークは一度来た経験があったが、政宗の方が断然詳しかった。…それは、ドームでも然り。
改めて、胸が詰まる思いに駆られる。



(家族旅行…)


幸村は小十郎を見つめ直し、政宗がわざわざ彼を同行させた意味も悟る。


(…きっと、先生とも…)


そして、そのような特別な思いのある場所に自分を。

再び胸の内が渦を巻きそうになるのを抑え、無理にでも笑顔を作る。


「──お前を『知らねぇくせに』と言ったが、撤回する」

「え?」

唐突な言葉にキョトンとすると、小十郎は柔らかく笑み、


「…お前は知ってる。分かってるよ。じゃなけりゃ、政宗様にあんなことは言えねぇ。政宗様の気持ちが分かったから、お前はそこまで考えてくれたんだ。知らねぇままのお前なら、違ったはずだ。…違うか?」

「──……」

幸村は、返答に詰まる。
何故詰まっているのかも、よく分からなかった。


「それを最初に教えたのが政宗様だった。…って、周りの奴らは羨んでんだろうな。しかし、実際はどうか…」
「え?」
「いや…。味方の俺は、そうあってくれた方が良いって話だ」
「……?」

気にするな、と小十郎は笑う。


「お前に感謝する。…政宗様は、長い間寂しい思いをしていらした。恋人は多くいらしたが、誰にも心を許さず…。俺には、時折だが──復讐しているようにも見えた」

…母親に、と小さく呟く。


「ほとんどが、叔母に似たタイプだったからな…どうしても。妙なこと言われて気を悪くするだろうが。…お前に惚れて、良かった。ありがとう真田、本当に…」


「…そん…」

な、と続けようとして実現できなかった。


舌を噛んだと嘘をつき鼻を啜ったが、いつもの演技力の良さが効いたのだろう。

小十郎は幸村を見ず、穏やかな顔でコーヒーを口にしていた。













“──とまぁ、そういった感じだ。

あのバカにはまだ言うなよ?俺がフラれたこと。
泊まったって聞きゃあ、血相変えて戻って来んぜ。

てか、泣くかもな(笑)”



(………)


慶次は、ケータイを閉じた。

政宗から、自分と他の二人に入って来たメール。…デートだと言っていた、次の日に届いた。

昼間は楽しく過ごして、夜はしっかりフラれたと。細かいことは書かれていなかったが、そのような内容である。

しかし、休みが明けて会った幸村と政宗は、全く気まずそうな雰囲気ではない。
周りの方が気を張っていたようで、慶次たち三人は戸惑った。
…が、当人たちは無理をしている風にも見えず、三人も徐々に普段通りに接するようになっていた。


「──ほら、お前の分」
「えっ!?」

突然目の前に何かを差し出され、慶次はギョッとする。


「何ボーッとしてんだよ。これ、幸村の戦利品。さっき話した」
「皆と色違いでござる!慶次殿、お好きなのですよな?」

いつもの人を小馬鹿にするような笑顔と、楽しそうにこちらを見る明るい表情。

政宗の手から、そのキャラクターマスコットを受け取り、


「お〜ありがとー。他のどんなの?見せて見せて!」

と、慶次も彼らしい調子で輪に加わる。


「へー、結構イイじゃねーの」
「(お揃いか…)ありがとう、幸村」
「いえ!喜んで頂けて良かった」

元親と元就も、幸村の提案とあらば相好を崩しっぱなしである。


「いかがですかな…孫市殿に似ておると、政宗殿が」
「ああ、ありがとう」

幸村も同意したと聞けば、強そうだの何だのも、彼女にとっては褒め言葉。孫市は、密かに喜びを噛み締める。


「かすがのはな、政宗殿は大変褒めておったぞ?キュートでプリティーでラブリーで、お前にそっくりだと」

「…ほぉー…」

かすがは、そのマスコットの、少々邪悪な微笑と同じものを浮かべてみせた。


「Ohー、やっぱそっくりだぜ!なっ?」
「…貸せ、そっちもそっくりにしてやる」

青いマスコットの右目(ボタン)を千切ろうとするかすがの手から、政宗は慌てて逃れた。


「本当にありがとうございます!すっごく可愛い〜」

鶴姫は大感激で、パークやホテルの話に夢中で聞き入っている。


「──あ、そうですっ」

思い出したように、バッグの中を探り、

「スキー研修と、大晦日のときの写真です!ホントにお世話になりました〜」

と、メンバーに封筒を渡していく。


「Ohー、忘れてた。俺も今度持って来るわ」

政宗が孫市へ言うと、

「期待せずに待っておくよ。石田たちも言わないが、今か今かと思ってるのが丸分かりでな…」
「Ah〜…OK…」

政宗も、仕方なさそうに頷いた。


「──お、それ舞のヤツか?見せてみろ」
「ど〜ぞ〜。超男前で、我ながら見惚れてた」
「バーカ」

元親と慶次の会話に元就も加わり、写真を覗く。

「…ほう」


へー、ふーん、などと感嘆の声を上げ、

「幸村」

と、元親が彼を手招きした。

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