告白2




──いたのだが。



………………………



「え…!?」

「ほら、急げ。下着くれーで充分だからよ」
「は、ぁ…、のっ?」

面食らう幸村をものともせず、政宗は勝手に彼の部屋へ向かう。


「ちょっ、政宗殿…っ?」
「何なんだ、朝からいきなり…おい、勝手に入るな!」

慌てる幸村と、怒鳴るかすがだったが、


「お前も早く『お泊まりセット』用意しろよ。女は、何だかんだ要るんだろ?特にオメー、化粧品だけでボストンバッグ一個は使」

「これは地顔だ!殺す!!」

「行きに、謙信様んとこ連れてってやっから。今日はお前、あっちで世話になるってことで、話付けといたからよ」


「「はぁ!?」」


唖然とする二人を、政宗はさっさとマンションから連れ出す。

下に降りると、小十郎の車が停まっていた。


「──謙信様、待ってるって…」
「あ、ああ…それは構わぬが…」

車の中で謙信に確認を取ると、二人は、上機嫌な政宗を訝しげに窺う。

小十郎は、申し訳なさそうに溜め息をつくばかり。


「言ったじゃねーか、『date』だって」

「し、しかし、一泊だとは」
「貴様、何を企んで…」

「土産もん買って来っから。何が良い?」
「…そうだな、南の島の豪華ホテル」

「Oh〜、OK。結婚祝いにくれてやろーとしてたんだがな。じゃあ、また別のモン探さねーと」

「………」

もちろん冗談であるが、彼にとっては実現可能な所業。…結果、かすがのイライラを増やしただけだった。

そんな二人をなだめている内に、謙信の家へ着く。

最後まで仏頂面のかすがだったが、政宗のしつこさに辟易し、一応は許可をした。
そして、佐助や元就と同じように、政宗が近付けば全て破廉恥と思え、と何度も念を押す。

──が、車を降りた後は、即座にとろける表情へ変わっており、


(まぁ…良かったか…)

と、そこだけは温かく思ったのだった。


「…んな顔すんなって、せっかくなんだからよ」
「──…」

苦笑する政宗に、幸村はどう反応して良いか分からない。


「ちゃんと聞くから。夜」
「夜…」

「デートっつっても、小十郎もいるんだしよ。…それまで付き合ってくれよ」

な、と最後に呟いた顔は、あの日見たものと同じく緊張の色に染まっていた。…だが、それ以上に心細そうに見え、胸が掴まれる。


「…分、かり申…した」

「──OK!」

たちまち政宗は笑顔になり、今日の予定を嬉しそうに話し始める。


(…夜までは、許されるだろうか…)


これを最後の甘えにするつもりにし、幸村は、純粋に彼の話へと耳を傾けた。













着いたのは、幸村も手放しで喜んでしまった場所だった。


「某、ドームは初めてでござる!」
「Haha…そりゃ良かった。──これ、チケットな」
「いくらでござろう?…あ!」

政宗が、幸村の財布を奪い取る。


「よく聞け。…今日は、俺のbirthdayだ」
「えぇ!?」

「だから、今日は一日、俺の好きなようにさせろ。You see?」
「…誕生日は、終わったではありませぬか。第一、バイクの免許…」

しかし、政宗は聞き入れもせず、財布を幸村のポケットへ戻し、

「ちょっと、あの店覗いて来る」

と、建物の外に立っている出店へ走って行った。


──プロ野球の観戦は、テレビがほとんどである。
小学生の頃、何かのイベントで観に行ったことがあったが、野外スタジアムだったので…

楽しみでたまらないが、高価な値段が気になるのは当然のこと。


「…そう気にするな。叔父の会社の関係で、格安に入手できるんだ。悪いとは思うが…最後の我儘だと思って、甘えちゃくれねぇか」

小十郎が、仕方ないように…だが、苦笑しつつ言った。


「『最後』…?」

不安げになる幸村に、


「いや、変な意味じゃねぇが──」

と、小十郎こそが戸惑う表情になる。


(…そういう話なんじゃないのか…?)


政宗の気持ちを小十郎が知っているとは思い到れず、幸村は、彼の心情を解することができない。

だが、先の言葉はよく噛み締め、チケットの支払いのことは、もう口にしなかった。


──幸運にも、その日のゲームは少しも退屈のしない展開で、接戦も接戦、ホームランも数回。
途中で催される華やかなパフォーマンスも、気分を一層高めてくれる。

メガホンでの応援はもちろん、風船を飛ばしたりなど、小学生の頃も嬉々としてやったことを、再び同じテンションで行っていた。


「Hey、幸村!あれ見ろ!」
「──おおっ!」

スタジアムの大きなモニターに、幸村たちの姿が映る。

カメラがどこにあるか分からないので目線は違っているが、二人は大はしゃぎで、手を振った。

ちなみに、小十郎は二人に気を遣い、わざと番号をずらしたのだろう。少し離れた席にいる。



(政宗殿…)


幸村は、顔から少しずつ笑みを落としながら、モニターに映る彼を見つめた。

今まで見たこともないくらいの、本当に子供のような、その笑顔。…以前見た写真とは、比べものにならないほど。


…胸が、熱くなる。


告白をされた際に感じた熱とは、また違う。
彼が見せる笑顔の中で、最も引き付けられるということを、突如自覚した。


(…どうしてなのだろう)


幸村の視線は、モニターではなく、すぐ隣へと向きを変えていた。


「──何見てんだよ」

政宗が、居心地悪そうに…だが、少し照れたように苦笑した。

「あ、いえ」
「あまりの男前っ振りに、惚れ直してたか?」

その台詞には、幸村でも笑ってしまう。

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