告白1
※佐助、幸村、政宗、かすが、小十郎が少し
初め、佐→幸で、短いやり取り。
後は、政→幸がほとんど。こちらも、やり取りや会話だらけ。
初め以外は、時間軸が前々回の後日〜となっております。
若干キレの悪いとこで終わってます…すみません(--;)
佐助たちが帰国した次の日は、土曜日だった。
さあ、幸村へ連絡するかとしていると、意外なことに、彼の方からかかってきて、
「良かったら、うちに来ないか?」
との誘い。
嫌がる理由もないので頷いたが、かすがを驚かせるだろうことが、少し心配ではある。
恐らく、向こうも知らぬ振りでいてくれるのだろうが…
「すまぬな、わざわざ」
玄関のドアを開け、幸村が申し訳なさそうに出迎えてくれた。
「いや、全然。…かすがちゃんは?」
「留守だ」
「そうなんだ…」
言いながら、内心ホッとしてしまう佐助だった。
上着を脱いだ後、
「これ、お土産とか」
「良いと申したのに…」
幸村は苦笑し、「ありがとう」と受け取る。
「佐助?」
「………」
お土産の袋を幸村の手から取り、床に置いた。
「どう…」
「──…」
幸村が怪訝そうにする前に、素早く抱き締める。
考えてもいなかった自分の行動に驚いたが、それもすぐに別のものへと変わった。
(…旦那)
旦那、旦那、としつこいほど、心の中で何度も呼ぶ。
伝わってくる温かさと、彼を動かす静かな音が、佐助の何もかもを溶かしていく。
涙が滲みそうになるが、それは最早、哀しみのせいだけではない。
それが占める部分は、不思議なほどに、その姿を小さく変えていた。
(最悪…)
佐助は、真っ先に胸へ浮かんだ思いに、顔をしかめる。
“もう良いや、それでも…”
昨日までは、あんなに嫉妬と独占欲に浸かっていたというのに。
──ただ、いてくれたらそれで。
自分が隣にいなくとも、あの笑顔で、幸せであるのなら。
(…あり得ない)
そのような、お人好しで馬鹿な考えを持つのは、大昔の彼だけで充分である。
自分らしくもないし、似合いもしない。
佐助は、意思を固めるが如く腕に力を込めた後、
「…会いたかった。長かったよ、一ヶ月も…。修学旅行も、一緒に行きたかった。ホント馬鹿だ、忘れてたなんて」
と、ゆっくり離れた。
当然、幸村は目を丸くして佐助を見ている。
「ごめん…あの写メの子は大切な人だけど、元カノなんかじゃない。似てるとこもあるけど、旦那を好きになったのは、そのせいじゃないし…本当は、もう亡くなってる」
「え…」
幸村が、顔を歪めた。
理由は聞かずとも分かる。
会ったこともない他人の死を悼む──惹かれて止まない、優しさの一つ。
「今はまだ言えないけど、あのときはそれしか考え付かなくて。俺様は、旦那の傍にいちゃいけないって。それで…」
「なっ」
予想通りの幸村の反応を、柔らかく制す。
「言える日が来たら、必ず説明するから。
──告白したこと自体が嘘だったんだ、って言えば、一番良かったんだけどさ…」
佐助は苦笑し、
「それだけは、無理だった。嘘でも、嘘だって言いたくなかった…」
「佐助…」
幸村は、すぐに返す言葉が見つからないようである。
(ごめんね。また、悩ませるようなこと…)
胸を痛めながらも、
「わけ分かんないことばっか言って、何の謝罪にもなってないんだけど。旦那のこと…」
「では──」
佐助の言葉は、幸村のこぼした一声に遮られた。
「見て…接してくれるのか…?」
「え?」
彼は、おずおずといったように、
「あの日のお前は、すごく遠い目をしていた。俺の目を抜け、違う誰かを見ているように思え、てっきりその彼女のことを──と」
(あ…)
佐助は、自覚のなかった事実に驚かされる。
…恐らくは、彼の後ろに昔の面影を浮かべてしまっていたのだろう。
「それだけで、充分だ。理由は、お前がそう思った際に、聞かせてくれ。別に、知らずとも俺は構わないが…」
幸村は、少し不安そうな表情になり、
「お前の方が、辛そうに見えた。大丈夫なのか…?」
(………)
佐助は心の中で再び誓い、
「ありがとう、もう大丈夫。…慶ちゃんが、修学旅行蹴ってまで来てくれたお陰」
「──……」
「ごめんね、…政宗がいるのに」
その言葉に、幸村は少し目を伏せ、
「お前に、真っ先に話すつもりだったのだ。あの日…」
──佐助は、今度こそ腹を括った。
遡ること、約一ヶ月。
冬休みの末頃、佐助にホームステイの話を聞かされる数時間前──
(…よし)
幸村は、ようやく準備を整え、ケータイのボタンを押す。
『──もしもし?』
少ないコール数で、すぐに相手は出てくれた。
「あの!政宗殿…っ」
『Oh〜、Happy new year』
「…あっ、おめでとうございまする!」
慌てて言うと、政宗が電話の向こうで笑う。
『何だ〜?珍しいな』
「あ、はい!…実は…」
幸村は、再度己を奮い立たせ、
「お話ししたいことが、ございまして。
──二人だけで」
言えた途端、さらなる緊張が襲って来る。
…が、それも何度も想像した。
流れる沈黙を耳に当て、彼の言葉を静かに待つ。
『…今からか?』
「あ、いえ!もちろん、都合の良いときで」
『Ahー…じゃあよ、俺からまた連絡するわ。多分、休み明けてからになると思うが…』
「お、お気になさらず…!某は、いつでも構いませぬゆえ」
自分も、腰を据えて話したい。
そのためなら、どれだけでも待つつもりでいた。
『OK。──良い話を期待しとくぜ』
いつもの、彼らしい笑い声。
それを最後に、短くとも大変長く感じられた会話は、無事終了した。
(………)
大晦日の晩に観たあの舞と、心の奥に落ちていった、一滴。
浮かんだ彼の笑顔が思い出され、またもや苦しくなる。
(すみませぬ…甘えてばかりいて)
ひとまず、行動には移せた。…次は、報告。
大晦日よりも以前から、何かあれば必ずそうするつもりでいた。
──というのは言い訳で、佐助と会う口実が欲しかったのが真実かも知れないが。
そのときは考えもしなかったことだが、彼が去り一人になってから、身に染みて思い知らされた。
一向に音沙汰のない佐助がどうにも気がかりで、あれから何も言って来ない政宗を密かに感謝していたのだが。…同時に、そんな逃げ腰の自分に嫌気が差す。
だから、頷いたのだ。
“その日は俺ら、dateだ──”
あれは、『合い言葉』なのであろう、と。
そう思って…
[ 10/77 ][*前へ] [次へ#]