回帰3




(俺様…何で…)


何故、あんなことが言えたのだろう。
きっと、平気ではいられなかっただろうに。

良い奴だ、と言ったのは、…嘘ではない。
彼との付き合いは、幸村よりも長いのだ。


(馬鹿だ…)


「──で、大人しく引き下がるさっけさんじゃーないよな?」

慶次が、ニヤニヤしながら佐助を見ていた。

…自分でも分かる。
以前のように、嫉妬にまみれた顔をしているのだろう。


「あ、でも観光はしてから、帰ろうな?せっかくなんだから」

慶次は慌てて言うが、

「呑気だねぇ。これから略奪愛とか、ヘビーなことしなきゃなんないのに」

と、佐助は呆れた様子。

いつもの調子になってきたかな、と思っていると、慶次も同様だったようで、嬉しそうな顔を向ける。


「帰ってから、存分に苦しみゃ良いんだよ。それまでは、楽しく堪能するぞ!よろしく!」

その顔に、それもそうかな…と、思い直した佐助だった。













「また会えるなんて、思ってもなかったよ」

佐助は、笑みとともに彼に駆け寄る。


──夢の中。

あれ以来、影の彼が出て来た試しはなかった。


『お前が、呼んだんだ』
「会いたいって思ってたからかな」

『…何の用で?』
「用ってほどのもんじゃないけど、今日俺様と慶ちゃんがした話、聞いてたかな〜って」

『………』

佐助は微笑むと、

「聞いてたなら、良かった。…一言言いたくてさ」
『……?』

影は、戸惑ったように佐助を見る。


「ありがとね、思い出させてくれて。…絶対良かったよ、これで」

『──っ、』

影は、驚いたように佐助を見た。


「アンタ、すげぇ男前だよね。旦那への愛、どこまでもデカいし」

影は返答しなかったが、佐助は気にせず、

「すげぇよ…。旦那から、ずっと片想いされてたなんてさ。…そんな人が俺様の一部とか、びっくり。俺様のこと褒めてくれたけど、そっちのが全然すごいじゃん」

『──……』


「アンタが褒めてくれたこの気持ち、ホント馬鹿だけど、また旦那に伝えてみるよ。…あの笑顔は、必ず守…」

手を差し出し、小さく笑むと、


「守ろう、一緒に。今度も……今度、こそ」


知らぬ間に、佐助は一人になっていた。

先ほど感じた記憶の温かさ──それが自分の中に溶けたのが、はっきりと感じられた。













あれから数日後、──帰国の日。


佐助の父親も意外と息子思いらしく、またしても長期休暇を取り、二人を存分に観光スポットへ連れて行ってくれた。

何を見ても何を食べても、二人から出る言葉は全て、幸村や友人たちのことばかりである。

慶次が、すぐお土産を大量に買おうとするので、佐助はその度に苦労させられた。

父親も、彼のことは昔から知っているので、終始楽しそうにしていた。

幸村に告白する前であれば、ホームステイの話は断固拒否したことだろう。
…父親に対しては良かったかな、と、その顔を見て思う佐助だった。


帰る日も飛行機も、前田一家と合わせた。

席も隣のものが取れ、慶次は窓にかじりついて、小さくなっていく街を眺めている。


「写真、沢山撮ったし!しっかし、想像と実際じゃあ、全然違うもんだよなぁ」

「そんなもんでしょ、どこも。良い悪い、どっちの意味でも」


佐助が、ヘッドホンを着けようとしていると、「あ!」と、慶次が短く叫んだ。

「何?忘れ物?」

慶次は、「あれ!」と大きく頷き、

「さっけの彼女──すっかり忘れてた!」
「…あー…」

佐助は、曖昧な表情になる。


「あ、やっぱ嘘だったんだな?何て説明すんだよ、幸に」
「そのときが来たら理由を話すよ、って正直に謝るしかない」

「納得してくれると良いけど。…写真まで使って、小細工してまぁ。誰だったの?元カノの誰か?」
「慶ちゃん、会ったよ。あっちで」
「え、嘘!?」

思い浮かべてみるが、あちらで会ったのは、外国人ばかり。


(幸、それでも信じたのかなぁ…)


「ほら、この子」

と、佐助が一枚の写真を見せる。

綺麗な少女だが、外国人には見えない。


「…てか、会ってねーし」
「会ったよ〜。昨日」
「昨日…?」

観光も夕方までに切り上げて、夕食の前に墓参りに行った。

猿飛親子の知り合いのようだったが…


(あ…)


「…やっぱ、亡くなってたのか?」
「うん」

佐助は、写真を眺めたまま、


「これ、俺様の母親。若いときの」

「──はい!?」

唖然となる慶次。


「旦那、結構鋭いからさぁ…信じてもらうために、俺様も苦心したわけよ。ここを悪くして死んだのは、本当だし」

「………」


佐助は写真を見つめたまま、

「ずっと、行きたがってたんだって、父親と一緒に。どーいう手を使ったか知んないけど、墓あっちに建てて。…ま、親戚が向こうのに入れるのに、すっげぇ反対したからってのもあるけどさ」


「そうだったんだ…。だから、おじさん研究してんのか…病院で」

「だろーね」
「………」

もしかしたら、佐助は考えたことがあったのかも知れない。

亡くなったと思っていた母親が、実は父親の手で助かっていて──


「…んなわけねーでしょ。そんな無駄なこと考えないよ」

顔に書いていたらしく、佐助は呆れたように笑った。


「幸から一発殴られる覚悟、しといた方が良いよ」
「…そだね」

佐助の背中が、ヒヤリとする。


「あとさ、あいつらも俺も、幸を元気付けるために、めちゃくちゃ嘘ついたから。もう、合わせるしかないと思ってよ?」

「はぁ〜?何よ、それ」

「俺らに何も言わずに行った罰だよ。…ま、安心しなって。お前が思ってそうなことしか言ってねーから。平気、平気」

慶次は笑い、

「もう、あいつらも旅行から帰ってるはずだよ」

「──……」

佐助は、頭に浮かんだ幸村と政宗が並ぶ姿を消すように、前のモニターに集中した。

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