一致3







「旦那、腹減らない?」


佐助が指した先は、たこ焼きの屋台。
この公園では、こういった店が何軒か点在する。

慶次と別れた後、何となく立ち寄った。


「美味いなっ」

幸村は、はふはふしながら食べ、「後で、たい焼きも買おう」

「やっぱし」

佐助は、仕方ないような顔で笑う。


ベンチで並んで座り、熱いお茶を幸村にも渡した。


「あのさー…」
「ん?」

「…ごめんね?俺様、頼りない奴で」


突然の言葉に、幸村はポカンとし、

「何が…」


「何か…全然力になれなかったってーか…。まーくんに敵わなかったなぁって。…まぁ、あいつのせいなんだから、当人にしかできなかったことなのかも知れないけど…」

「佐助…」


「俺様が、もっと…」


──もっともっと、大きな存在であれば。…旦那にとって。


旦那は、やっぱり皆のことが大好きなんだよな。…俺様だって、本当はそうだけど。
だから、本心からは落ち着けてなかったんだろう。…それは、聞かなくてもよく分かる。

だけどもし、その中でも俺がずば抜けて一番の存在であれば。…俺と二人だけの日常でも、あんな無理をした笑顔では、いなかったはずなのに。

旦那の最高の笑顔は、やっぱりこれがあるからこそ。…悔しいけど、今回嫌ってほど分かった。それを、自分がどれくらい好きなのかってことも…

あのとき言ってた『旦那の幸せな今』。…あれを、守るって──絶対変えさせないと、俺は誓ったのに。


「…旦那、俺らといて楽しくて幸せって、言ってくれた。…俺は、それを変えさせたくなかったのに。あいつは…」

責めたりできないことは、分かっている。…だけど。


「…ごめん。分かってんだけどさ。俺様は、旦那が一番だから…どうしても嫌なんだ。旦那が悩まされて…やっぱ、あいつにどうしようもなく腹が立つ」



「佐助!」



(──え)



佐助は、唖然とする。

…自身の腰に腕を回す、幸村の姿に。




「だ、旦那…?」


(これは、一体…)



幸村は顔を上げ、

「言ったであろう?…『今度つまらぬことを言えば、これの倍だ』と」



──夏休みの旅行の、最後の夜。



(…けど…)


「全然、痛くない…」

そう呟くと、幸村は笑って離れた。


「俺も衰えたか?最近は、トレーニングを怠っておったからなぁ」

正面に向き直ると、


「佐助がいなければ、俺は普通に歩くことすら、ままならなかったぞ。きっと、どこぞの溝にでもハマって、身動きができなくなっていた」

「──……」

「政宗殿を、避け続けていたやも知れぬ。お前がああして、間にいてくれたからこそ…。…確かに、完全にはいつもの俺でなかったのだろうが、お前といるときは、心からの自分だった。それは絶対だ。本人が言うのだから、間違いない」

「旦那…」


「…それに、俺もそこまで子供ではないぞ…。ずっと変わらずにいられるなど、思っておらぬ」

そう笑うと、たこ焼きのパックをゴミ箱に捨て、すぐに戻って来る。


「けど…」
「え?」



(…これは、変わらない)


──この想いは。



俺なら、絶対に悩ませたりしない。…苦しませることだって。
ずっとずっと、その笑顔を絶やせやしない。

…これでもまだ、あいつのよりも劣るってのか?


どう考えたって、旦那はこうして、俺の傍で俺の手で、ずっと心安らかに、幸せになるのが最良だ。

苦手なものなんて、わざわざする必要ない。…自分は、それ以上のものを与える。──必ず。
だから…





「──久し振り〜…猿飛クン」


ベンチの横から、突然かけられた男の声に、佐助の思考は断絶された。



「…行こう、旦那」
「えっ?」

無視して立ち上がる佐助に、幸村は驚くが、


「最近地味だな〜って思ってたら、…路線変更ってわけですかぁ?」

ニヤニヤ笑いながら、男は二人を眺めてくる。

「──ああ、でもイイかもね。へぇぇ…」
「……?」

事情が飲めず、ひたすら二人を見比べる幸村に、男は近寄り、


「俺、昔学園にいてさぁ。初等部のとき、彼と同じクラスだったんだー。名前は…」

と、手を差し出してきた。

──が。





「…触んな」


佐助が、その腕を掴む。



「佐助っ?」

相当な力の入れように、幸村が慌てて止めさせる。

「どうしたのだ、一体…」


男はクスクス笑い、

「ねぇ、本当に猿飛?…ずっと見てたけど、…気持ち悪いったら」

「………」

「ねぇ、お嬢さん。こいつ君の前では、いつもこんな感じ?だったら、気を付けた方が良いよ?昔──」


「…黙れって」

佐助の鋭い眼光に、相手は一瞬怯む。



「お、お嬢…!?あの、某は男ですが」

制服姿なのに、何故?と、幸村は混乱状態。


「いや、分かってるよ〜そんなこと。だからさ、猿飛クンの『お嬢さん』っつー意味…」


──とうとう、佐助が彼の胸倉を掴んだ。



「佐助!」

「…ね?こうやってね、昔もボコボコにされたんだよ、俺。俺だけじゃなくて他の奴もね」

「……っ」


「佐助、止めろ!」

幸村が、必死で腕を確保する。


「わー優し〜い。猿飛クンには勿体ないねぇ。彼氏の昔話、聞きたかったら、今度A高に来てよ。詳しく教えてあげる」


自分の名を告げ、男はヘラヘラ笑いながら去って行った。



─────………



(…佐助…)




「旦那。絶対行かないでよ?…A高」

「ああ…」


佐助は、いつものように笑い、

「何かさぁ、昔から嫌われてんのよ。俺様がモテモテだったもんだから、目ぇ付けられてて。…あることないこと…」

「──そうか」


幸村もそれ以上は触れず、たい焼きは買わずに、そのまま帰ることにした…

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