とりあえずの終息5







「よう」


元親と元就が、店を訪れたのは、夜の八時前のことだった。

二人とも、私服に着替えている。


「めっずらし!…え、二人で?わざわざ帰ってから?」

慶次が目を丸くすると、


「もうすぐ上がりだろ?帰り、どっか寄らねぇ?飯は食べてんだっけ?」

ショーケースの中のケーキを物色する元就を、横目で苦笑しながら元親が尋ねた。


「終わってから、まかない食わせてもらうんだけど…じゃ、今日はそのまま出るわ」

「おう。俺らも家でつまんだ程度だから食い直す」

腹が減ったと、文句を言う元就に急かされ、慶次は、すぐさま裏口から出る。


制服の上着はバッグへ押し込み、ジャケットを着込めば、高校生にはとても見えない。
それは他の二人もそうで、三人は夜の街で行き交う人々の目を、大いに引き付けていた。

駅の近くの、遅くまで開いているイタリアンの店に入る。
パスタ以外にも様々な料理が楽しめる、若者に人気の場所。

周りは、カップルや大学生グループ、社会人など、色々だ。


「あー、生き返った!」

慶次は、ガッツリとした肉料理を半分ほど食べ、息をつく。


「最近、皆で帰ったり遊んだり、してねーよなぁと思ってよ。元就捕まえてから、お前んとこ行こーぜ、って話になってな」

「結構家近いもんな、お前ら」

慶次はモグモグしながら、二人を見比べる。


「…そろそろ期末も近いしよ、もう騒ぎも終息するよな?」

元親が溜め息をつくと、


「お前は、要領が悪過ぎる。我のようにやれと、何度も言ってやったであろう。いちいち全てに応えるから、面倒臭いことになるのだ」

「だって俺…お前みてーに、忙しいわけじゃねぇし…」
「嘘も方便という言葉を、知らんのか」

「あー…、モテる男は辛いねぇ」

慶次がしみじみ言うと、


「お前が言うっ!?──そっちこそ、大変そうじゃねーかよ」

「俺は、そーでもないよ?『好きな人がいるんだ、ごめんな』って、誠意を込めてお断りしてるから」

「…いーよな、それ。俺いねーもん、そんなの」
「佐助だと言っておけば、良かろう。すぐに治まるぞ」

「やめろーマジで。…てか、アイツがその手を使ってねーか、不安になってきた」

「さっけなら、やりかねないね」

ははは、と慶次は笑った。


「既にもう、陰で言われていそうだがな。お前も佐助も、理由もなく断り続けておることだし」
「そりゃ仕方ねーじゃねぇか、いねーんだから」

「いいなーって子もいないんだ?元親ってば派手だけど、実は硬派だもんなぁ」

「それよりよ、政宗からメールあってな。…何か、ちゃんと幸村と話したみてーで、ようやく気まずさから解放されそうだぜ?」


慶次は一瞬ピタリと止まり、


「そっか…良かった」

と、再び口を動かす。


「…慶次、あれから、幸村とあまり口を聞いておらぬだろう。まさか、避けておるのか?」

元就の、見透かされるような目の前では、何かを取り繕うのは極めて困難である。


「いや、別に避けちゃいないけど。本当に色々忙しくて。バイトとか、他のことでもさ。文化祭前はバイト減らしてたから、このところ、みっちりさせてもらってたんだ」

「…お前、変に気ィ遣ってんじゃねーだろうな?政宗に」
「んなわけねーじゃん」

「それほどの愚行はないぞ?政宗は遠慮なぞ知らぬ男だ。チャンスは、わずかでも見逃すまい」

「分かってるって。てか、元就の方こそ、どうなんだ?いつも通り、涼しい顔だけど」

「何が?」

慶次は空にした皿へフォークを置くと、


「一度、聞いてみたいと思ってたんだけどさ……元就、幸のこと、どう思ってんの?」

「何よりも大事な存在だ」
「おわっ、即答」

元親がツッコむが、慶次は微妙な表情のままである。


「それは分かってるけど…俺や政宗みたいなのじゃないってことかい?政宗がコクっても、全然動揺してなかったからさ」

「お前は、これでもかというほど、していたものな」


慶次は口を尖らせ、

「俺のことは良いんだって。…で、どうなんだよ?」

「………」

元就は、しばらく黙っていたが、


「──分からぬ」

「えぇっ……?」


「分からぬ。──それが、正直な気持ちだ」

「…マジで?」


「幸村が政宗に惹かれて、二人が上手くいくのも、もしくは政宗ではなくお前や…佐助であっても、幸村が選んだ相手ならば、間違いないのではないかと思える。
幸村がそう思えたなら、本物なのだろうと。きっと、あの笑顔を、ずっと絶やさずにいられるだろう」


「…自分がそうしたいって、思ったりしないの?」

元就は息をついて、


「だから、分からぬというのだ。ふとしたときに、もうそちらに身を任せてしまいたいと思うこともある。錯覚してしまうのだ…二人でいると。だが、お前と幸村が話しているのを見ると、目が覚める。我は、やはりその立場ではないなと」

「え…何だよ、それ。何でそんな、無理やり思い込むような…」


「そういうつもりではない。…ただ我は、幸村が幸せならば、何だって良いのだ。相手が誰であろうと。…それが自分であれば──と考えると、逆に恐ろしくなる。予測がつかぬ…自分がどうなるのか。

それに、この『幼なじみ』というポジションは、実は相当気に入っておる。理解し難い考えかも知れぬが、我にとっては、この関係を保持することの方が重大なのだ」

と、元就は食後のコーヒーに口を付け、


「…ゆえに、むしろ政宗には『よくやったな』と感心したくらいだ」


慶次は、圧倒されたような表情で、


「本当に、想ってんだな…大事に…」


まるで、大昔の自分のようだ。…少し羨むように、元就を見た。

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