とりあえずの終息4
「どーいう風の吹き回しだぁ?」
「まぁ…別に良いじゃん」
少しも笑っていない顔で、佐助は政宗を椅子に着かせた。…テーブルには、佐助の手料理。
二人は、黙々と食べ始める。
あの後の帰り道、幸村と別れてから、佐助は政宗をマンションへ誘った。
「──だよ、これ…。幸村も呼べば…」
「ヤだよ。また、誰かに襲われかねねーし」
その言葉には、詰まってしまう政宗。
「…まぁいーか。ちょうど、俺もお前に話があったし…」
「あのさ。…すっげぇ不本意だけど」
佐助は、話を聞きもせず、「一応、礼言っとくわ」
「礼?」
「うん」
渋い顔で、「…てゆーか、アンタのせいなんだけどさ。──俺様には、無理だったから」
「What…?」
佐助は息をつくと、
「旦那だよ、旦那。…アンタと話しただけで、まぁ元気になっちゃって。俺様、あーんなに頑張ったのに?普通にしてると思ってたけど、やっぱ全然無理してたんだなーって」
と、拗ねた風に吐き出した。
政宗は、恐ろしいものでも見たかのように、
「お前…大丈夫か?何か、変なもんでも食ったんじゃ…」
「しっつれいな!…ムカつくけど、旦那を元気にしてくれたことは、称賛に値する」
「…Hu〜m…」
政宗は、ニマニマし始めた。
「その顔、マジウザい」
「いや〜。幸村、そんなに喜んでたか?こりゃ、相当脈アリ…」
「あ、味薄かった?」
「Stop!stop!何しやがるっ」
政宗の食べている料理に、唐辛子をまるごと振りかけようとする佐助。
政宗は、慌てて皿を避難させる。
「──慶ちゃんさぁ、絶対避けてるよね」
「Ah〜…朝とか、普通に挨拶すっけどな。知らねぇ。別に、悪かったなんざ思ってねーぞ、俺ァ」
「旦那に対しては、反省しろって。…てか、もしかしたらさ」
「ん?」
「慶ちゃん、諦めようとしてんじゃない?アンタのために」
「はあぁ…?」
政宗は笑いそうになるが、
「だって、慶ちゃんって昔からそうじゃん。いつも、自分二の次にするでしょ?自覚ないみたいだけど」
「Ah〜…お前がガキだからな。我が儘で」
「そりゃ、アンタでしょーがよ。…ま、親ちゃんよりかは断然、俺らが色々そうさせてたのは認めよーよ」
「ふん。…で?」
「いや、それもお礼の一つでさ」
「Ah?」
佐助は笑顔で、
「したら、旦那への悪い虫はアンタだけになるから、良かったな〜ってさ。あとは、アンタが振られるだけ」
「Ahァァァァ!?」
「さーさー、どんどん食べて?で、綺麗サッパリ、散っておいで」
「ふざけんな、この」
「だってさ、……あ。で、何?俺様への話って?」
「──ああ」
政宗は、ハタ、と我に返り、
「…お前は、幸村の『一番の』親友だって?」
「え?うん。そーでしょ?」
当然、という顔で頷く佐助。
政宗は、少し目を細め、
「じゃあ、邪魔すんなよ」
「……は?」
「その権利は、『親友』にはねぇ。俺が振られるのは、あいつに想う相手ができて…しかも、それが成就したときだ。ま…その前に、俺に向かせるけどな」
「──……」
「テメーが考えてるようには、いかねーぜ?『恋なんて破廉恥なものは嫌だ』『佐助と一緒にいる方が、ずっと良い』?…んなもん、これに比べりゃ、小せぇ小せぇ」
と、自身の胸を掴む。
「俺は、必ずそれ以上に想わせてみせる。親友』なんかなぁ、所詮…」
──佐助が、政宗の襟首を取っていた。
「…だから。そりゃ、何でなんだ?おかしいだろが、お前がやってることはよ」
「何……が」
低い声で、殺気をみなぎらせる佐助。
「認めろよ。…つか、分かれよ、いい加減」
「は…」
政宗は、佐助の腕を外し、
「──ほら。…これに答えが載ってから」
(………)
佐助は、差し出された紙袋を受け取る。
「何これ?」
「ま、じっくり見てみろよ。目から鱗だろーぜ?」
嫌味ではない笑みを投げ、政宗は荷物を持つ。
「ごっそーさん。今度、またウチに来いよ。借り返すわ。じゃーな」
そう言い残し、アッサリと玄関から出て行った。
(『分かる』って、何が……)
渡された袋を開けてみると──出てきたのは、一冊の漫画。
しかも、
(えぇぇぇ!少女漫画ぁぁぁ!?)
その瞬間、政宗への評価は、マイナス中のマイナスを極めたも同然だったが。
表紙のイラストや、後ろの内容紹介を一瞥すると──
…佐助の指は、自然と動いてしまっていた。
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