迷宮思考5
佐助は、心地良い眠りに抱かれていた。
頭から足の先まで、溶けてしまいそうに気持ちが良い。
浮いているような、沈んでいるような、境界すら分からないほどの──
…何だろう。
自分は、そんなに酒を口にしていたのだろうか。覚えはないのだが。
──甘い。
だけど、少しも嫌な気にならない、とても魅惑的な香り。
自分の大好きなあの匂い。
ずっとずっと包まれていたい。
余すところなく、この身体に取り込んでしまいたい。
目眩が起こるほど──いや、そのまま気を失うくらい、脳へと刻んでくれたらいいのに。
こんなに心が穏やかになるものはない。
大丈夫だ、と言ってもらえているような感覚に心底安心し、
うん、俺は大丈夫だよ──と、しきりに応えたい、切望感。
(……誰に?)
──誰…だろう。
…いるの?──見えないけど。
会いたいよ。
会って伝えたいんだ、この気持ちを。
貴方が与えてくれた、かけがえのない、唯一つのこの想いを。
ずっと願ってきたことなんだ、だから──
『…ダメだよ。──何度言わせるんだ?バカだな。お前は、本当に救いようのないバカだよ』
「そこまで言う…?」
『言うよ。…俺が言うのも何だけど、本当にお前って、自分のことしか考えてないよな。いつまで経っても、進歩ないんだから。ちょっとはその性格、改めたらどう?』
「ええ?俺様、かなり空気読める方だと思うけどなぁ…。自己中とか言われたことないし」
『お前の愛し方は間違ってるよ。そんな風にやったって、苦しませるだけだ。お前が気付かない内に、きっと離れていく。…心なんて、手にできるはずないだろ』
「──何のこと?」
『分かってるくせに。…まぁ、結局痛い目を見るのはお前だから、良いんだけど…あの人は優しいから』
「あの人、って」
『…それともいっそのこと、もう思い出させてやろうか。それも良いかなって、最近では思うんだ。充分、苦しみを味わうことになるし』
「思い出……じゃあ…」
『…いや、やっぱりまだダメだ。…お前が一番痛手を被るには、まだ早い。あともう少し…』
「そんなに痛いんなら、遠慮しとくわ、やっぱ。それと、本当にもう、…二度と現れないで欲しいんだけど」
『こっちも、同じ答えを言うのに、どれだけ飽き飽きしてると思ってる?諦めろ』
「ったく…。──じゃあ、その『時期』ってのが来るまでは、ごちゃごちゃ言ってくるなよ。俺様、超気持ち良く眠ってたんだから。邪魔しないで」
『気持ち良く…ね。──分かったよ、約束する。今度会うのは、そのときだな。それまではどうぞ、好きに過ごすが良いよ。自覚なしのイカれ野郎』
「ちょっ、口悪!」
『次会えるのを、楽しみにしてるよ』
(…何なんだ)
そこで意識は、ぼんやりと現実の世界に引き戻された。
気付くと、自分の部屋のベッドの上で、カーテンの隙間から明るい光が射し込んでいる。
あの後、元親をソファベッドに寝かせ、自室に戻って布団に入った。
──何か、すっごい良い夢見てた気がするけど、最後の方は逆で…
で、イラッとして目が覚めた。
(くっそー…)
もう一度寝るか、と佐助は布団を被り直した。
…ふわり、と甘い香りが漂う。
ん、と目を細めて鼻を布団へ埋めた。
(…旦那の匂いだ)
そうだ、昨日旦那はここで政宗に…
ジジジ、と虫が火に焼かれるような音が聞こえた。…気がした。
あいつが真剣なのは分かってる。
でも──
(…守らなきゃ)
これ以上、触れさせるか。身体にも、…心にも。
(旦那の隣は、俺様のものだ)
佐助は、布団に絡まるようにその身を丸めた。…甘い香りに、全てが包まれる。
(これは、俺だけのものだ。…絶対、誰にも渡さない…)
しかし、…その寝顔は。
鋭い決意とは全く似通わない、どこまでも柔らかく優しいものになっていた…。
*2010.冬〜下書き、2011.9.3 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
慶次は、クサいのが普通みたいで…っ(汗)
とうとう、突っついてみた元親。
しかし、佐助のあまりの方向音痴さに、改めて愕然としただけに終わった…。
心の中では、慶次を心配してるはず。
消毒タオルは、幸村でさえ熱がり痛がるほどのものだったのかなと(^^; 佐助が本気出すと、結構馬鹿力とか。
慶次の顔や態度がおかしかったんで、軽蔑されたのでは…と、思い込んでしまったらしい幸村。
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