迷宮思考3
(──政宗も、さっけも…)
「…すげぇ」
慶次は、溜め息とともに呟いた。
何がすごいって、政宗は言うまでもない。
そして、佐助は…
──思い切り、本心ぶちまけてた。
…俺が、幸に尋ねたかったこと、全部聞いてくれた。
『政宗を好きになったのか』
慶次は、ギュッと両の手の平を握った。
(……)
…俺は、何をしてたんだ。
政宗は、俺が半年以上かかってもできなかったことを、こうもあっさりやってのけた。…それも、数分で。
(はは…)
…何なんだ、自分は。
恋愛が苦手な幸のことを思って、…とか、さっけが自覚してから戦いたい──とか言ってたけどさ…
結局、…勇気がなかっただけなんじゃないのか?
言っても、気まずくなるだけだ、とか、二人が記憶を取り戻したら、やっぱり、また俺は置いてけぼりになるんじゃないか、とか。
…口では、格好付けたこと言ってたけど。
政宗くらいハッキリ言わなければ、伝わらない相手だと分かっていたのに。
…きっと、友達としてなら、俺の方が政宗よりも近い。──そんな言い方は傲慢だが、それには自信がある。
(…昨日だって、焼きもちを…)
だけど、政宗がやってのけたことに比べたら、何だってんだ?
すごい覚悟だ。…本気で惚れているんだ。
──でも、俺だって。
俺の気持ちだって、負けない。
…誰よりも最初に、幸に惚れたのは俺だぞ…
ずっと、──ずっと想い続けて来たんだ、それなのに…っ
幸村の、あの戸惑った様子ながらも、染められた頬を思い出す。
もし、俺が先に言ってたら…あれは、俺に対して…
──ズキッ──
…息が詰まりそうになるほど、胸がよじれた。
(バカだ……俺は)
…でも、
(──好きなんだ。…どうしても)
昨晩の、暗闇に見えたあの紅を思い浮かべる。
静かに寝息を立てる幸村を起こさないように、そこへ口付け…新しく痕を付けた。
こんなことなら、起こしてキスの一つでもすれば良かった。…無理やりにでも。
そうすれば、さすがの幸でも、俺の気持ちを分かって…
──って。
だからさ…
とうとう、本物の大馬鹿野郎になっちまったのか?俺は。
そこじゃないだろ、後悔するところは。
……いつから俺は、こんな風に幸に対して、真っ直ぐな気持ちでいられなくなったんだろう?
昔の俺は、紳士だったよなぁ…
あんなにも幸のことを一番に考えて、とにかく幸せになってもらいたくて。
(今の俺は…)
目をつむると、笑顔ばかりが浮かんでくる。──何よりも好きで、…欲しくてたまらない、あの。
だって、仕方ないじゃないか。
昔は、自分よりも優先させたい、あいつのあの気持ちがあったから。
だから、ああして抑えることができた。
でも、今は。
昔言ったように、女に生まれてくることは叶わなかったけど。
…また、お前に逢えて。
世間から見たら、間違ってるのかも知れないけど。
記憶を取り戻すより先に、もう惹かれてた。…俺は、やっぱりお前に溺れてしまう。
仕方ないじゃないか──昔よりも数段自由の身になったお前に、どうしても希望を持っちまうのは。
──だけど、どうしたら良い?
今言ったところでは、混乱させて…困らせるだけだろう。
幸に、あれ以上あんな顔をさせたくない。
でも、じゃあ──どうするんだ?
何も言わずに諦める?…政宗の応援でもすんのか?
『政宗は、…本気だよ』
あのときは、何を思ってあんなことを言ったのかは分からなかったけど。
多分……あいつの想いは、分かって欲しかったんだ。
それが、政宗への可能性が上がることに繋がるのは分かってる。──だけど。
…俺だって同じだから。
同じだからこそ、苦しかったし…安心した。
幸が、政宗を意識したことと──引かなかったことに対して。
(…ああ、ぐちゃぐちゃだ)
こんなんで、明後日から普通に…
「……っ!」
──突然、ケータイが鳴り出した。
取り出し、画面を覗くと、
(──何で……)
しばらく、ボタンを押すことができず固まっていると、何度目かのコールで音は止んだ。
(…どんな声で出れば良いか、分かんねぇ…)
そのまま握り締めていると、再び着信音が鳴り響く。
「──…ッ」
慶次は、力の入らない指で通話ボタンを押した。
「もしもし…?」
『!慶次殿…っ』
ほぅ、とついた息が耳元で聞こえた。
(……あ)
俺は、何拒否ったりなんか…
…こんなことで不安がらせて、バカか。
「ごめん、今かけ直そうとしてて…」
『いえっ、突然すみませぬ!…まだ、外におられるのですか?』
「あ…うん。幸は…」
『家でござる。元就殿と一緒に、今日はもう帰り申した…』
「…そっか」
『はい…』
…どうしたの?
何で、俺に電話なんてしてきたんだ?
──聞かなくても分かる。聞いてしまえば、きっと黙ってしまうだろう。
それほどに、自分は幸のことを分かり尽くしている。
…安心したいんだ。
さっけとは、さっきのあれがあったばかりだから、相談し辛いと躊躇してしまうのだろう。
また、機嫌を損ねてしまうかも知れないと恐れて。
だから、俺に電話してきたんだ。
──電話なら、顔は見えないんだから。
(踏ん張れよ、俺…!)
[ 70/114 ][*前へ] [次へ#]