迷宮思考1


幸村元親佐助慶次元就

政宗は、お休み。

前回からの続きです。
相変わらず、色々クサいのでご注意(汗)

主に、佐助と慶次の想いです。
会話と思考が、ほとんどを占めてます…;;

幸村と元就の出番が薄い(><)














「あ…の…」

幸村は、真っ赤になりながらも、必死の思いで顔を上げるのだが…


他の面々は、腕を組んで下を向いたまま押し黙っていた。
その、異様なまでの張りつめた雰囲気に、嫌な汗が浮かんでくる。

しかし、唯一救いだったのが、元親だけは周りの空気と幸村を察してか、労るように笑ったことだ。
幸村には、元親に後光が射しているように見えて仕方がない。


ガタン、と音を立てて、佐助がリビングから出て行く。


「……っ」

幸村が、一瞬不安げに顔を曇らせるが、


「気にすんな。トイレか何かだろ」

元親は苦笑し、

「まー…何つーか…あいつはオカンだからよ。お前のことが、心配でしょーがねぇだけなんだよ」

「あ…」

幸村はホッと息をつき、チラリと慶次の方を見た。

さっきからずっと、慶次と目が合わない気がするのは、単なる思い過ごしであれば良いのだが…


元親の言う通り、佐助はすぐに戻って来た。

「旦那。ちょっと我慢ね」
「何…?──あ、つッ!」

幸村は目をむいて、「佐助っ?何を…」


思い切り首に当てられたのは、濡らしたタオル──しかも、激熱の。


「何って、消毒に決まってんじゃん。あの手癖の悪い、万年発情期の」

「ブッ!」

思わず吹いてしまう元親。


「な、何が」
「いや、そりゃこっちの台詞だって。なーにが、『色付けたかったが…』だ!触った時点でアウトだよ、あのバカッ。俺様ん家でなけりゃ、どこまでやってたか分かったもんじゃない!」

「い、いたっ、痛い佐助!熱いし!」
「仕方ないよ旦那、消毒なんだから。跡形もなくやっとかなきゃ」

「逆に赤くなりそうだぞ…。本当に、痛い…」
「──分かったよ。優しく拭くから、大人しくしてて」

「う…」
「で?どっちの耳?」

「……」

幸村は、無言で片方の耳を指した。

佐助も同じように何も言わず、そこへタオルを当てる。

拭きやすいように、布を広げ、その下に自分の指を差し込み、薄い耳の肉を挟んだ。

撫でるように、執拗に全体を清めていく。


「…っ…」

椅子に座る幸村の前に向き合い、腰をかがめた状態でしているので、佐助以外にその表情が見えることはない。

「──で、他は…?」
「…分か…っ…首とか、は…多分…沢…山」

「……」

佐助は、力がこもりそうな手に喝を入れる気持ちで、そのままの加減でタオルと指先を首に移動させた。

優しく触れるため、自分に言い聞かせる。


…これは、荒々しくすれば傷が付く何かだ。
そうだな、例えば…


──佐助の脳裏に、生々しいほどの白い肌が浮かぶ。


(違…ッ)


振り払うように、一瞬閉じていた目を開ける。

次にそこへ入って来たのは、少し赤く染まった首筋や鎖骨、目を細めて耐えるような顔…



(そんな顔、あいつに見せたってわけ…?)


…俺様以外、触らせるなって言ったのに。



佐助の胸に、再びドロドロとしたものが甦ってくる。


「さす…け?」

幸村は、止まった手に気付き、「もう良いか…?」


「──っああ、うん…」

佐助は隠すように、どうにか微笑することに成功した。



───………



「たくさー…告白するのに、何でわざわざ押し倒すのよ?ホンット信じらんねぇ」

「いや、俺が勝手に倒れて…」

「違うね。手をそこに置いたのはわざとだよ、絶対計算済み。──あああ、もう!何で、そんなことできちゃうわけ!?いっつも、そういう手を使ってんの!?」

「へー…じゃ、そう言うお前は、意外と普通にするわけかぁ」

「──……」
「佐助?」

「…俺様が言いたいのは…っ、旦那が、色々無知で初めてで、しかも同性だっつーのに、デリカシーなさ過ぎっていうか…!」


「今、肯定しなかったな…」

元親が言うと、コクリと元就も頷いた。


「まーまー。……幸村、政宗の言う通り、あんま悩み過ぎんな。奴がそう言うんだから、ゆっくり、たまーに考えりゃぁそれで良い。あいつの気持ちに、縛られるこたーねぇんだ。あいつが勝手に、お前のこと好きなだけなんだからよ。

お前がこの先、違う誰かを好きになってあいつを振ることになろうが、関係ねぇよ。お前が悪ィわけじゃねぇし、政宗が可哀想ってわけでもねぇ」


「元親殿…」


「あいつは、名乗りを上げただけだ……クッセー言い方だけどよ!」

自分でも耐え切れないように、元親は笑った。

「……」

「それによ、お前にほんの少しでもそんな顔させたんだ。あいつ、結構良い思いしてるだろうぜ?まぁ、佐助の言う通り、色々スゲーけど、お前がそう思うのも無理ねーくれぇ、情熱的だもんな。あいつ、一応男前だしよ…」


「──帰る」

ガタッと椅子を引き、慶次が突然立ち上がった。


「えっ?」

佐助も幸村も元就も、面食らったように見たが、

「あ…ご飯、ごちそうさま。片付けなくて、ゴメン。俺、ちょっと…」

慶次は目を伏せたまま、荷物を取って戻って来る。



「慶次殿…」

幸村の声に、慶次は一瞬立ち止まり、


「…幸……政宗は、……本気だよ」


「え──」


ハッと、慶次は顔を上げ、

「あっ…そんなの分かってるよな。俺、何言ってんだ」
「慶次殿…?」

「ごめん。…また、明後日な」
「あの…っ」

今度こそ背を向けて、慶次はリビングを後にする。


「大丈夫だよ。別に、旦那のせいじゃないって。慶ちゃんも、びっくりしただけだよ、きっと。まさか、まーくんが今日言うとは、誰も思ってなかったからさ」

「あ、ああ…」

「幸村…、しかし、元親の言う通りだ。今日のこやつの言い分は、珍しく正しい。…お前は、政宗のことよりも、自分の普段の生活や、気持ちを最優先させるべきだ」

「元就殿…」

「…おい。何か、一言多いのが気になるんだが」


「お前が、ずっとそのように沈んでいれば妹も武田先生も心配するであろうし、もちろん我らも──政宗も。あやつのせいではあるが、言っても堂々巡りだからな。

お前には、いつものように明るくいて欲しい…勝手な言い分だが。

しかし、ここにいる皆、お前のそれを、何より気に入っておるのだ。我は、それだけで毎日温かく過ごせる…」



「元就殿……っ」


「…今日は、我らも帰ろう…一緒に」
「は…い。──あ、佐助…」


自分の姿を見返すが、

「あー、いーよいーよ。今度、また返してくれたら良いし。着て帰って」



(──何かもう、大敗)


親ちゃんも就ちゃんも、何て格好良いの。

俺様結局、消毒しただけだわ…これ。


そう自嘲気味になる佐助だが、


「元親殿、ありがとうございまする。…佐助、…また、メール…とか…して良いか…?」

「…っ!当たり前じゃん!」


と、いとも簡単に立ち直るのだった。

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