エントリー5
幸村は、佐助の腕に触れると、
『起こしてくれ』
ちょっとバツの悪そうな笑みをもらす。
佐助はホッとして、『どーしたのよ、甘えただねぇ。珍しい…』
『いや…──あっ、すまぬ、勝手に部屋に…!着替え、借りようと』
『や、こっちこそゴメン。置いとかないでさ』
『あの…政宗殿に、ここにあると聞いて』
『あ、そーいや、まーくん帰ったよ。今日、お父さん早いんだってさ』
『そ…そうか』
『ん?旦那、熱でもある?顔…』
『だ、大丈夫だ!何でもない』
───………
……とか言ってたけど…
何か、怪しい。
俺様の部屋…何かマズい物とか置いてたっけ…
考え巡らすが、思い当たる物はない。…と言うか、目のつくところにはない、というのが正しいのだが。
うーん……
分かんないなぁ。
でも、とりあえずまーくんの株下げる『アレ』のことは、バラしちゃお。
旦那も、元に戻るかも知んないし…
───………
夕食もほとんど食べ終わり、歓談に移行した和やかなムードの中、佐助は、
「だ〜んな、イイ物見せたげる」
と、あのデジカメをテーブルの上に置いた。
「えっ、見せんの?」
慶次や元親が、面食らったように佐助を見る。
「いーのいーの。自業自得」
「何だ?」
元就も首を傾げている。幸村もだが、興味は薄そうだ…。
「これ…右に押してったら、順番に見られるから。ハイ」
「……?」
幸村は、言われた通りにしてみる──隣の元就にも、見えるように。
「これは…昨日の」
それは、昨日幸村が女装した姿の写真。
新しいものから過去のものへという順番で、初めの方は、ステージから降りた後で撮られたものだ。
「ねぇ、こんなのいつ撮られたのよ」
佐助の口元は笑っているが、顔はそうではない。
もっとも、幸村はそのことに気付いていないが…
「あー…着替えに行こうとしたときだな。皆と別れた後、政宗殿だけ戻って来て」
「──やっぱり…。トイレ行くとか言って…」
「幸、付き合い良すぎ。何枚あんだよこれ。どうせあいつが、無理言ったんだろうけど」
「…何か、アングルが…」
元就が呟くと、
「ヤベぇだろ?…これなんかよ…」
元親がカメラを幸村から取って見せると、元就も頷く。
「?何が…」
「あーあー、お前は気にしなくていい!ホラ」
と、幸村にカメラを返した。
そこからずっと過去を遡っていくと、コンテスト中の写真もいくつか現れ、
「多分、片倉さんに撮らせたんだろうね。…たく、いつの間に接触してたんだか」
「何が、『小十郎、分かったと思うか?』だよ。最初から教えてんじゃん」
慶次も、口を尖らせる。
「……」
そのまま無言で見ていると、画面は文化祭以前のものに切り替わる。
体育祭での写真。…明らかに、幸村と政宗、二人で撮ってもらった物が多い。
「俺様が一つも写ってないってとこが、さすがとしか言えないよ、もう」
「隠し撮りではないか、これは」
元就が憤然とする。
さらに、夏休みに遊んだ写真の数々…
こう見ると、どの場面でも幸村は必ず政宗と二人で写っている。
肩を組んで、いかにも楽しそうに笑う二人。
政宗は、よく大人っぽい表情や笑い方をするイメージがあったのだが、自分とカメラに向かうときはこんな風に笑っていたのか。
カメラを向けるのが、小十郎だということもあるのだろうが。
──自分と同じような、…子供のような顔。
幸村は、先ほど見た全く別人のような政宗の姿を思い出す。
顔が熱くなるのと同時、胸が突かれるように痛んだ。
…もう、このように笑うことはないのだろうか。…二人で。
「ね〜、キモいっしょ?まーくんてば…」
佐助の語尾は、戸惑うように変わり、「…旦那?」
「幸、どうしたの?」
「幸村…?」
他の三人も、心配そうな表情になる。
「…え…」
幸村は、今にも泣きそうな顔で、その写真を見ていたのだ。
もしや、と慌てて頬に甲を当てたが、濡れてはいない。──幸村は、安堵の息をもらす。
「何でも…」
「ないことないでしょ。…どうしたんだよ、旦那?わざと聞かなかったけど…何かあったんだろ?アンタ分かりやすいんだから、皆気付いてるよ」
「あ……」
「別に言いたくなかったら良いんだよ、幸。んな怖い顔すんなよ…さっけ」
「いや、俺様はそんなつもりじゃ」
「どこが。そんな、責めるような」
そのとき、幸村のケータイが鳴った。
「──……」
画面を見て固まる幸村だったが、
「どうした?早く出ないと」
元就の声に、我に返る。
「…もしもし」
幸村は椅子から立ち、和室の方へ移った。
「──…んだよ…」
佐助の呟きに、
「もう、何怒ってんだよ。顔こえーってば。それ、幸を心配してるっつーより、政宗に写真撮らせてたことに、キレてるだけだろ」
「はぁ?」
「へいへい、図星な」
「親ちゃんまで──」
「それともあれか?政宗との写真を見る幸村の顔に、嫉妬したか」
元就が言うと、佐助は絶句した。
「元就もだろ」
と慶次が笑うと、
「お前もな」
フン、と笑い返す元就。
佐助は呆然とし、
(アンタらと一緒にしないでよ──)
と、言い返したいのに、…声にならない。
すぐに幸村は戻って来たが、誰が見ても分かるほどに動揺している。
「ど、どーしたの旦那?電話、誰から…」
「あああの、某、急用が…」
「え?──あ、ちょっと待って」
色んな着信音が重なり、全員がケータイを取り出す。
──真っ青になる幸村。
「何?…まーくんかよ」
舌打ちしそうな顔でメールを見る。
他の三人も、覗いていたが…
「…幸村……本当なのか?」
元就が、自分のケータイを幸村に見せた。
そこには…
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