二日目A-6
「あ、あと、かすがは照れ屋なので、裏腹の態度をとることがよく…。だから、佐助を嫌っているわけでは(…と思う)」
「そっかそっか〜!かすがちゃんも、ツンデレなのかぁ。俺様も、かすがちゃん大好き。面白いし(←からかいがいがあって)、優しいし(俺様には、八割方厳しさのみだけど!)」
「佐助…」
「あー、友達としてって意味ね!旦那も、姫ちゃんのことそーだって言ってたじゃん」
「姫ちゃんと言えば、元親の舎弟さんたち面白かったよなぁ。元親に、必死で言い訳してさぁ?
『だって、鶴姫ちゃん可愛いんですもん!』──って。
お前の知らない間に、バイク乗らせてたりな。
『自分の夢は、一番最初に、可愛い子を後ろに乗せて走ることで…!』ってさ」
「たくよー…フツー、同じ夢を何人も持つか?あの、腑抜け野郎どもが。…だいたい、何で鶴の字よ?もっと他にもいんだろ、格好良い女がよー」
「孫ちゃんとか?」
「そうそう、アイツなら…ってオイ!」
「なぁなぁ、元親の初恋ってどっち?姫ちゃん?孫市?」
「はッ!?」
「あー、俺様も気になるわそれ。どっちだったのよ、親ちゃん?」
「何でそーいう話になんだ?つか、何であいつらが俺の初恋?俺のそれは、…あー…中等部入って初めて付き合った、あの」
「うっそ、そーなの?今、ごまかそうとしてない?」
「ちげーよ!あいつらは、幼なじみ!兄弟みてーなもん!んな風に思ったことねぇ!」
「本当に〜…?」
「なぁ、殴っていい?こいつ、ホンッッット腹立つ、こっの顔!」
「落ち着いて〜元親」
「だいたい、初恋がまだのテメーに言われたくねぇ」
幸村は驚いて、
「佐助が?元親殿、何かの間違いでは」
「お〜、あのな?こいつはな、本当は…」
「ちーかーちゃあぁぁん!」
「──なのに、何人も──」
「旦那、無視無視!親ちゃんの言うことなんか、聞かないで!」
「…──なんだ」
幸村は首をひねると、
「『最低野郎なんだ』というところしか、聞こえなかった」
「ああ、そこ理解しといてくれりゃいーや、とりあえず」
「旦那、今は違うよ!?俺様、旦那に会って改心したの!これからは、真面目にしようって…
──親ちゃん一筋にね!」
佐助は、完全に油断していた元親に思い切り抱き付き、しかも、押し倒した。
「うぉぉ!やめ…っ、ヤメ!」
ドタンバタン、と派手な音を鳴らして、もみくちゃになる二人。
「…?いきなり、バトルでござるか?」
「何か、元気あり余ってんのかな?暑苦しいから、見ない方がいーよ」
──しばらく戦いは続き、ようやく戻った元親は、憔悴しきっていた。
「…もう、お婿に行けねぇ…」
シクシクと、慶次に泣きつく。
「俺様の愛だよ?ありがたく、受け取りな」
「キッモぉ。お前ら、マジきもい」
「政宗、我の酒がなくなった」
「はい、ただいま!」
「あれ?いつの間にか、元就が王様に…」
「佐助、元親殿が泣いておるぞ。そんなに殴ったのか?」
オロオロとなる幸村。
「幸村、俺のときは心配してくれなかったクセに…!」
「女々しい。ウザい。早う、酒」
「うぅ、何だこのご主人様…つか、女王様は…」
ブチブチと、政宗は新しい酒を元就のグラスに用意する。
「殴ってなんかないよぉ?親ちゃんは、『大切な人』だからね」
「そ、そうか」
幸村は、ホッと息をつく。
「これ…明日、外出られねぇ」
ウッウッ、と元親は、胸元を大きく広げて見せる。
──首筋から胸までかけて、大量の赤い痕が浮かんでいた。
「だーいじょーぶ、服でごまかせるって!見えたとしてもホラ、肉食系彼女なんだな〜、みたいな」
「お前のそれ、貸してくれよ」
元親は、慶次のストールを指差すが、
「──これはダメ」
「んだよ、ケチ」
「元親殿、それはッ!?」
ようやく気付いた幸村が、即座に元親の前に寄り、
「赤くなっておりまする…痛むのですか?──これは、虫刺されやじんましんというより…内出血?」
「あ、あのー…幸村…」
(んな真面目な顔で、心配されたら……どう答えりゃいんだ、俺はッ!?)
佐助を見ると、相変わらずニヤニヤしたままだ。
(あんの野郎…!)
ギリギリとなる元親だが、
「…ッ?」
幸村が、痕に指を当ててきたので、思わずビクッと固まってしまう。
「──あ、すみませぬ。…やはり、痛みまするか?」
「いや痛くねぇ、からっ」
「ここ、濡れて…?──っ、もしや血!?」
そう言うなり、幸村は元親の胸に顔を埋め──
…ようとしたのを、慌てて元親が押し戻し、さらに、佐助と慶次もそれを阻止した。
「ゆゆゆゆ幸村ぁッ!?」
「旦那、どしたの!?そんなバッチいモン、舐めちゃいけません!」
「やっぱり、こいつがいーのか?ち、違うよな?酒のせいだよな、幸!?」
「…ふぇ?」
幸村は、覗かせていた舌を、落ちそうになった唾液をすする音とともに、引っ込めた。
そして、照れたように笑い、
「明智先生の、応急処置…。──やはり、違うか…?」
ペロリと上唇を舐める。…恐らく、乾燥を防ぐための、無意識行動。
「…旦那のおバカ!何だって、そんな危険なことすんのっ。アンタってば、たまに…」
──挑発的というか、色気があるというか、俗的に言うと、エロいっつーか!
旦那に分かりやすく言えば、破廉恥だよね!
…などと言おうものなら、数秒後には、佐助が無事ではいられまい。
それがよく分かるからこそ、そこから先は言えなかった。
幸村が、狙ってやっているのではないということは、重々承知だ。
だが、無知で天然だからこそ、始末が悪いし心臓にも悪い!
(こうして、この人に妙な気起こす奴が、増えてくんだ…)
根っからのタラシ(無意識)なんだよ、しかも男女関係なく!
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