二日目A-2


「…分かりましたよ。俺様が、『大人』らしく、親ちゃんのとこ行きますよ」

佐助は渋々、元親のソファへと腰を下ろした。


(…ま、さっき旦那に嬉しい言葉もらったし、今日くらい我慢してやるかな)


残りの三人が、幸村の隣をゲットできない一人を決めかねていると、


「あ、では…こう致しまするか?」

幸村はソファの真ん中へ座り、「元就殿」と、彼の手をぐいっと引き──

「ゆ、幸村っ?」

さすがの元就も面食らい、その上焦る。

何故なら、幸村が元就を座らせたのは──自分の膝の上だったからである。



(な、な……!)



元就だけでなく、全員が愕然とする。


「昔は、よくこうしてふざけておりましたよなぁ、元就殿」

ニコニコと幸村は、元就の顔を後ろから覗き込む。
…自然、元就の腹の前で手を組み、耳元に囁く形で…


「……っ」

耐え切れない様子で、元就は立ち上がり、

「さ、さすがに今は…重かろう──!」


「そのような…某なら、平気ですぞ?」
「い、いや良い…大丈夫だ。我も、やはり向こうへ…」

若干フラフラとなりながらも、元就は、佐助の隣へと座り込んだ。


「あーああ。獣が残っちゃった。就ちゃん、良いのー?」
「……」
「大分ダメージが、デカかったらしーな」

元親も端から窺い、苦笑する。

とりあえず幸村を真ん中に挟み、佐助たちのソファ側に政宗を座らせた。

しばらく、ステージで繰り広げられるイベントに没頭する。


「テイクD.Aは、何度見てもみなぎりまする…!」

昨日も見たばかりだというのに、幸村は、飽きもせず熱中していた。


「Sorry、幸村…ちょっと立ってくんねぇ?」

政宗が、幸村の座っているところに、何か落としてしまったらしい。

「?はい」
「Thanks」

「え?──うわっ」

瞬く間に、今度は政宗が幸村を、自分の膝の上に座らせた。…しかも、横抱きの状態。

「ま、政宗殿ッ?」
「ちょ──」

いきり立つ慶次と佐助を無視し、まじまじと幸村の姿を観察する。


(…この、太もものチラ見えが、やべぇな…)


胸元も、控え目だが詰めているのが分かる。
その上に見える鎖骨が、政宗の目には見たこともないくらい艶かしく映り…

──知らぬ間に指が、そこをなぞるように這っていた。


「…っ、まさ…むね、どの…?」

ほんの少し呼気を乱した幸村に、満足そうに笑む。


「これ、本物みてーだな」

と、冗談めかして幸村の胸を掴むと、


「…っ、ぁ」

本人は無自覚なのだろうが、何とも悩ましげな声が出たので、その場が凍り付いた。



(──…な、何だ……今の…)



誰もが固まっているせいで、政宗の手は、すぐに阻まれることがなく、

「く、すぐった…、っやめ」
「(これ、本物か?…って、んなバカな)」


──ふにふにふにふに



「う、…ははっ、はっあ──ちょっ…下、くすぐ…っぁ、は」

「(……下、……)」

幸村は、その腕を止めようと必死に掴むのだが…全くもって力が入らない。


笑い悶える姿が、彼の目にどう変換されたのかは、定かではないが──

プツッと政宗の理性が切れたと同時、他の全員の、堪忍袋の緒も切れた。

(…彼らの目にも、同じように見えていたのだろう)


「──マジで殴るよ」

「もう殴ったじゃねーか!てかオイ!ここ狙うのは、よせって!使いモンにならなくなったら、どーしてくれんだよ!」

「一生使えなくしてやろう。そのような、見境いのないモノなど」

「ちょっ、二人がかりは卑怯…!単なる、スキンシップだろが!」

「どこが」
「滅せよ」

「お、い……っ」

元親は、自分の隣の席で展開される、政宗フルボッコを諦めたように眺めていた。


「幸、危なかったな〜」

よしよし、怖かっただろぉー、と慶次は、幸村の身体をぐいっと引き寄せ、いつものように頭を撫でる。

「……はぁ……」

幸村は息をつき、胸を撫で下ろす。…その表情に、また惹き付けられる慶次だったが。


「情けない…。某どうにも、くすぐったがりで…」
「だ、大丈夫!気にすんなって」

「あ──もう平気でござる」

慌てて、幸村は慶次から離れる。



(…え……何で?)


その、あまりに唐突な態度に、慶次は少々傷付いた。


孫市には、演技だから仕方ないけど…さっけなんかには、自分からあんなに強く飛び込んでって…
…元就にも政宗にも、平然としてたのに。



(思い違い…かな)


「幸……」
「平気でござる」


きっぱり言われ、…しかも自分の方を見てくれない。



(──俺、何かしたかな…)


慶次は、沈んでいく気持ちを抑えながら、


「そ、そう言やさ……演技、上手かったな、二つとも。台詞こそ吹き替えだけどさ、本当に気持ちが入ってたっつーか…」

…それも、佐助のために必死でやったのかと思うと、ズキズキと胸が痛んで仕方がない。


「ほ、本当に…?」


──やっと、こっちを向いてくれた。


(…てか、可愛いなぁ、もう…!)



「うん…頑張ったな。孫市に抱き付くの、克服すんの大変だったろ」


(──…て。俺は、何墓穴掘ってるんだ…)


幸村は、頬をサッと赤らめ、

「あ、あれは…孫市殿が、アドバイスして下さり」
「アドバイス?」

「はい。…『自分を、猿飛だと思えば良い』と」
「さっけ…」

はい、と幸村は頷き、

「孫市殿の髪…佐助に、少し似ておりましょう?某の友達の中なら、彼が一番自分に近いのでは、──と」

「そ、か…。──じゃ、今日は、さっけに向かってあんな…」


(…ダメだ。…自分で聞いといて、……)


慶次は、続きを紡げなくなってしまった。

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