二日目@-5
【〜寸劇@〜】
『…明日、発ちます』
黒子の二人が、幸村と孫市の台詞を読み始める。──それに合わせて演技する幸村たち。
『はい…』
コクリと頷く「ユキ」。
『…これを貴女に』
孫市──「先生」から、ユキへ手渡されたのは、高級そうなブローチ。
『先生…これは…』
『母の形見なんです』
『──!そのような、大切な物…!』
先生は、フッと微笑み(会場では、黄色い声援が湧く)──
『貴女に持っていて欲しいんです。…僕が戻るまで』
『…!先生っ…』
『臆病者だと笑って下さい。…本来ならば、国の為…貴女の為に──と、立派に言わなければならないところなのに。
…帰って来たい、など…と…』
先生の声は途切れ、それが伝染したかのように、会場の生徒たちもシン、となる。
──ユキが、先生の胸に、その身を預けるように顔を寄せたからだ。
抱き付くのではなく、軽くもたれるように。
『…待っています、いつまでも。ずっとずっと、貴方だけを。だから…きっと、帰って来て下さい──私の元へ』
『ユキさん…!』
先生が、ユキの背に腕を回し、ギュッと抱き締めた。
たちまち起こる祝福の声。
感動したのか、鼻をすする音までも聞こえる。
だが、それほどに、二人の演技は堂に入っていた…。
「──何と、素晴らしい…!引き裂かれる純愛!結末が超気になりますけど──え?
…良かった、二人はハッピーエンドになるらしいです!」
司会者がそう言うと、会場は拍手に包まれる。
演技も終わり、幸村たちも笑顔になっていた。その頬は、少しばかり染まっているが…
──てか、よくできたな、旦那(幸村、幸)…。女子に抱き付くなんて。
五人がにわかに驚いていると、彼らに気付いた幸村が、ニッコリと微笑んでみせた。
それは、まさしく花が咲くようにふんわりと。甘く、……愛らしく。
──ドスドスドス!!
彼らに、昨日の蘭丸が受けた以上の矢が、突き刺さる。
「い、たい…。痛いよ……親ちゃん、助けて…」
「うぉ、どしたぁっ!?どこが痛いって?」
「だ…だんなが…」
「──てめぇ!あいつの頑張りに、何てこと言いやがるっ?幸村がイタい?ありえねぇ、よっく似合ってんじゃねーかバカ!見てみろ、どっからどー見ても美少女」
「ち、ちが…」
「…さっきのは、ヤバい。さっきのアレは、俺を見てた。…明らかに誘ってた。そうならそうと、早く言やぁいーのにhoney」
「うわ、こいつ息荒…」
「死ね!!」
「うっ…っ!てめ、どこ殴っ……(撃沈)」
「……」
「……」
慶次と元就は、無言で、彼らから顔を背けていた。
…恐らくその顔は、照れる幸村に負けないほど、赤くなっているに違いない。
そんなことをしている内に、幸村たちはステージへ戻り、袖の中へと姿を消していた。
そして、残りの組も出て、第一審査が行われる。
「小十郎の奴…分かったと思うか?」
何とか復活した政宗が、小声で言った。
「さぁ…」
(てか、これ以上ライバル増えないで欲しい…)
切に願う慶次である。
「──モデルさんたちは、ただいま次の衣装へチェンジしている最中です。なので、一次審査は、モニターの写真を使って発表します!」
モニターには、先ほど出場したペアたちの映像が流れている。
「…さぁ、結果が出たようです」
十八組の中でも、特に光っていた九組が残り、当然幸村たちも入っていた。
発表される度に、そのクラスが沸き上がるので、誰たちがどこなのかというのも、おおよそ予想がついて来た。
幸村たちの際は、
「一組ッ!?」
「誰だよ、あれ!」
などと、他のクラスからの注目を、ひたすら浴びることとなった。…もちろん、皆口を固く閉ざしていたが。
(佐助たちや、かすがの視線が恐ろしいため)
「さぁ、では第二審査の始まりです!それぞれのイメージアクションは、一次より長いのでお楽しみを!」
「それではエントリーナンバー…──」
第二衣装は、やはりどこも気合いが入っている。
ウェディングドレスや、十二単などまで出てくる有り様だ。
「姉小路先輩、かぐや姫似合うね〜」
「尼子先輩の、織姫もな」
「何か、和服が多くない?」
「…身体の線を隠せるからであろうな」
「あ、そっかぁ」
「お市さん、海賊…?格好良いねぇ!」
寸劇も、よく知る話を少しアレンジしたりと、なかなか楽しめるものばかりである。
「──さぁ、最後の組…エントリーナンバー十五、イケメン執事『マーチ』と、キュートなお嬢様『ユーラ』のお二人です!」
『きゃあああ〜!!』
『うおーっ!!』
途端に、沸き返る会場。
『マーチ』こと孫市は、黒を基調とした執事服に変わり、前髪を上げてその端整な面立ちをはっきりと出している。
そこでもう正体がバレたも同然だが、服の下で大分肉体改造を行っているので、どこからどう見ても、スタイルの良い細身の青年にしか見えない。
『ユーラ』──幸村だが、かすがの指示通り地毛を使ってのアレンジ。
頭の右側の、耳よりかは上の場所で髪をまとめ、下の方はウェーブを巻いている。
上の方はふんわりとさせ、それだけでも可愛らしいのに、反対の左斜め上には、小さなハットを着けていた。──あの、ゴスロリのマストアイテムの一つの。
かくいう幸村自身も、そのハットが似合う、少々ゴスロリをかじったような服装なのだ。
やはり全体的に黒っぽく、腰から上は、編み上げ調。
彼のウエストは、女の子顔負けの細さなので、強調しない手はないというところだろう。
長袖で、肩の線を目立たせない作りで、スカートも下にパニエだのレースだのを重ねて、ふんわりさせている。
ショートブーツに、ニーハイソックス──鶴姫のように、細く華奢ではないが、充分無理のないスラッとした膝下。
しかも、マーチに手を取られエスコートされるユーラの姿は、どこからどう見ても淑女そのもの!
二人の表情といい、まるで、そこだけが別世界のようである。
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