夕焼け4


「旦那って、恋とかは破廉恥言うくせに、家族愛は別なのね…」

「?何だ?」


「いや〜…『愛してる』なんてなぁ。なかなか言えないっしょ」

「……変だっただろうか」


不安げになる幸村に、佐助は慌てて、

「ううん!まーくん、すっごい喜んでたし」

「…だと良いが」


幸村は佐助を見て、「佐助、何か今日は政宗殿に優しいな…」


「俺様はいつも優しいよ〜?」

佐助はわざとらしく言った後、



「……今日はさ、政宗のお母さんが家を出て行った日、なんだって」


「――……」


その話は幸村も聞いていたのだが、時期までは知らなかった。
母親に、あまり良い思い出がないらしい…ということは、少し耳にしていたが。



『……言ってくれよ』


(それで、あのように……?)



――政宗殿も……不安に思われることがあるのだな……



「毎年、この日が近付くと、いつも機嫌が悪いか落ち込むかでさ。最初知らなかったときとか、俺様すっげー冷たい目で見てて。さすがにひどかったな〜ありゃ」

「……」


「――だって、知んなかったからさ…。てか、今年は何コレ?旦那の前じゃ全然違うじゃねーか、って。さっき、親ちゃんと話してたとこ」


「いや…」

小十郎と話す政宗を振り返り気味に、

「乗り越えられたのだろう…きっと」



「……そうなのかもね」

佐助も、視線を同じくして呟いた。


「佐助や皆が、ずっと一緒にいたからだ」

「俺様は、むしろ悪い影響だったと思うけど…ま、他の二人がね。良かったんだろうね」

でもさ、と続けて、

「やっぱり、旦那の力が大きいと思うよ。
――助かったわぁ〜。あの暴君を、すっかり手なずけてくれて」


「政宗殿は、猛獣か何かか?」

吹き出す幸村に、


(あながち間違いじゃないよ、旦那…)

と、佐助は思っていた。


(…笑えねーっての)


こういう面ではまぁ…良かったと思えるが、もれなく付いてきてしまった彼の幸村への傾倒は、正直頂けない。


「大人ぶってクールに決めてるけどさ〜、実は寂しがりなんだよね。素直じゃないし。…旦那の方が、百倍大人だよねぇ」

「そうか?」


「うん、だって……旦那は、寂しくはない?大丈夫…?」

「え……」

驚いたように見る幸村に、


「や――あの……。旦那……いつも笑ってくれるからさ。俺様たちは、それが嬉しいんだけど……こっちばっかで、旦那は…」

ゴニョゴニョと、口の達者な彼にしては、珍しい態度をとる。


しかし、幸村は微笑み、

「…俺には、かすががいたから。お館様も」


「あ――。……だよね」


「それにな、両親にものすごく大事にされた記憶は、今でもはっきりと覚えているんだ。寂しくないわけじゃないが…それと同じくらい、俺も大事なものが沢山できたから」

幸村は言いながら、


(あ――…そうか)


自分で、答えを見付けられた気がしていた。


…決して、両親のことを大事に思わなくなったのではなく。


それほどの人たちと出逢え、そして、彼らは皆生きている……


――今度こそ、より長く。
…一緒に、そして――大切に



「だから、俺は毎日楽しいし……幸せだ」


佐助を見ると、そこには温かい笑顔があった。


「…俺様も。旦那と会ってから、毎日楽しい。どーしたのってくらい」



――良かったね、旦那。


佐助は、心の中で呟く。


旦那が幸せだと、俺様も嬉しい。
その顔を見てると、こっちもほころんでくるし。


――だけど……


……その大事なもの――の中の、『一番』に、俺様はなりたいんだ。


幸村の、少し見開かれた瞳を覗き込む。


自分は、幸村の気に入るものを、上手く演れているだろうか――?



「……そうか」

幸村はニコリと笑って、「ありがとう、佐助」


「や、そこは俺様の台詞…」
「な、今日の夕焼けを見て思ったんだが」

佐助は、急に話の変わる幸村にガクッとなるが、こんなことには既にもう慣れている。


「うん――何?」

「久し振りに、あんな綺麗な夕焼けを見た」


幸村は、佐助の髪に手を伸ばし、指でサラサラと弄ぶ。


「な、何…?」


祭りのときと違い、地肌に触れる感覚が伝わってくる。
佐助は大人しくしながらも、その身を硬くしていた。

目を細め、ようやく手を離した幸村は、


「…佐助の髪みたいだと思ってな」

と、口元を緩めた。


「え――あ、……え?」

佐助はポカンとし、「これ……?」


「ああ」

至って真面目な幸村の顔。


「この髪、よく絡まれるんだよ。親ちゃんもそうだけど…」

本当に、この学園でなければ、今以上に面倒が多かったに違いない。


「羨ましいからだろうな」
「へっ?」

「二人とも、綺麗な色だから」


おっ、と幸村は声を上げ、「元親殿は、あれだな」

と、うっすら見える白い月を指差した。


「……旦那って、変わってるよね。俺様、髪褒められたの初めてだよ」
「そうなのか?」

幸村は、本当に驚いている。


「うん。…黒く染めようかと思ったこともあった」
「勿体ない。そんなに綺麗なのに」

「……じゃ、絶対やんない」
「うむ」

満足そうに頷く幸村を見て、


(…この髪で良かった、なんてのも…生まれて初めて思ったな…)


込み上げてくるものに気付かない振りをするように、佐助は少し目を伏せた。


「それに、佐助だとすぐに見付けられるしな」

「…目印?」


ひでーなぁ、と口を尖らせると、幸村はいかにもおかしそうに笑い、

「すまん、すまん」と、白い歯を覗かせる。


その顔を見ていると、何を言われても温かくなるのだから、本当に不思議だ。



……旦那は――不思議だ……



いつの間にか自分も口が緩んでいることに、佐助は気付かない。



――帰り際、佐助は元親の後ろに乗りながら、

「髪、旦那に褒められた!今日の夕焼けみたいで、綺麗だってさ!」

「そりゃ良かったな」

「親ちゃんのはね、月だってよ。――ほら、あれ」

佐助が空を指す。


「へえ、なかなか上品なもんに例えてくれるじゃねーか」

元親は月を見上げ、ニヤリと笑った。


「今日は、まーくんに遠慮してあげようかと思ってたのにさ、結局また俺様良いとこ取り――みたいな?」

「へいへい。おめでたい奴だな、いつもおめーは」



「――旦那、俺らといて楽しいって。……幸せだってさ」


佐助は、ひどく安心した顔で言った。

その伏せがちな目は、泣いているかのようにも見える。


「……そうか」


元親は見なかった振りをして、バイクのハンドルを握った。







*2010.冬〜下書き、2011.8.5 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

隻眼の方も視力あれば二輪の免許取れるって、何かで読んだ気がするので。公式で、元親バイク乗り回してたし。二人には絶対似合うもの〜(≧∇≦)

佐助は、惚れ薬編で開き直ってから、さらに甘やかすようになりました。思うがままに、したい放題。それ見て元就も増長。

皆が甘やかすんで、幸村にとってはとてつもなく居心地良くなっております(^^)
サイトのモットーだから仕方ない♪


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