一日目A-8
いつきと蘭丸は、迎えに来た織田家の車で帰り、六人は生徒会の仕事の手伝いを終え、学園を後にする。
外食して帰ることにし、割とよく行くファミレスに入ると、ちらほら学園の見知った顔も来ていた。
佐助たちの話では、あの後、愛しの小太郎に会えた鶴姫は桃色状態、しかも、一緒にイベントを見て回れるという幸運まで手にしたらしい。
その喜びようは──説明不要なほど、皆すぐに分かったものだが。
そして、元親によると、いつきの方も…
小十郎の、畑や学園での姿とは違う、凛々しくも麗しい居合いの──さらには、恐ろしく似合う袴姿に、完全にノックアウトだったらしい。
二人のツーショットは、それはそれで、なかなかお似合いだったとか。
「恋に落ちたのは、もう一人…」
蘭丸の話を、こっそり聞いた元親は、
「…マジかよ」
(ガキにも効くのか、幸村の天然フェロモン?は…)
てか、あのガキも変わってるしな。学園長に憧れてるっつーくらい──
「弟…などとは、ああいった感じなのでござろうか」
何も気付いていない幸村は、ただ純粋に、嬉しそうに蘭丸のことを話していた。
それを知ってから、その内容を吟味してみると、なるほど蘭丸の行動は、どこか何か──いちいち、引っ掛かるものがある。
(矢が刺さった後、彼はさらに積極的だったのだ…)
「旦那の弟が、あんなに生意気なわけないよ」
「まだ初等部なのだから」
幸村は苦笑し、「ちょっと…佐助に似ておらぬか?」
「はあぁぁッ!?どこが!あんなクソガキ、冗談じゃ」
「Haーha!ザーマァ」
「あー…確かに。こいつもあんくれーのとき、ホンット可愛くなかった。すっげーひねくれててよ」
元親がしきりに頷く。
「あと、政宗殿に似ておるところも…」
「Whatッ!?」
「元就殿にも──驚きましたなぁ」
「まぁ……そこだけは、甘んじて受け止めるが」
蘭丸のいつきへの思いは、幸村が転入した日の、元就の言動と、ほぼ同じだったからである…。
「佐助たちのあのくらいの頃は、こんな感じだったのだろうか…と」
「全然違ったってば。俺様、あんなにガキじゃなかったよ」
「てか、俺にはどの辺が似てるっつーんだ?」
「自信家なとこと、心を許した人の前では、甘えん坊なとこかなぁ」
代わりに、慶次が笑顔で答えた。
「ま〜、可愛いモンじゃん」
──幸村への想いさえ、なければ。
全員、気持ちは同じである。
「あのカメラマンさんも、結構面白そうな人だよね。あの写真は、最高だったし」
佐助が思い出して再び笑い、政宗と元就は、苦々しい表情になる。
「ああ、良い方であろう?撮影のときも、やりやすくしてくれた」
「うん。明日も来るんだって」
「そりゃそーだろ、明日はいよいよアレだ。…三時ぐれぇからだったか?」
政宗が尋ねると、
「フィナーレが三時からで、コンテストは四時か五時とか…そんな感じじゃなかった?」
と、佐助が応えた。
明日は、一般開放は三時前までで、その後は全生徒と教師、希望した父兄や一般客だけが講堂に集まり、後夜祭が行われる。
言葉通り、通称『フィナーレ』
女装・男装コンテストはもちろん、人気ランキングだけでなく様々な番付や、催し物のグランプリの発表、締めくくりを飾る演目など──それは、華々しいプログラムの嵐。
最後に相応しい楽しさである。
「某、必ずや勝ってみせまするぞ…!」
店にいる他の生徒に聞こえないよう、小声で宣言し、幸村は拳を握って見せる。
「旦那…っ(そんなに俺様のために…!)」
「OK、その意気だぜ幸村!(優勝しなくても、俺がスキー連れてくけどな!二人きりで)」
「我らにできることはあまりないが、応援して…見守っておるからな(──できるだけ幸村だと気付かせたくないが、優勝すれば無理な話。…複雑だ)」
「皆…ありがたい…!ますます力が湧きまする」
元就の言葉には、特に感激したようである。
「終わったら、フィナーレ、とことん楽しもうぜ!」
と、元親。
「…皆に、全部言われたぁ」
慶次は残念そうに苦笑するが、その手は、首元のストールに添えられていた。
…たっぷりと優しい瞳を、幸村に向ける。
他の皆は知らないのだ──先日の、幸村と慶次のちょっと変わった一日のことを。
今なら、優勝のための努力行為だと胸は張れるが、わざわざ話して恥ずかしい思いまでしたくはない。
かすがと慶次には、絶対に口外しないでくれと頼んである。
慶次には願ったりで、幸村からのプレゼントのことも、一切もらしていない。
今日一日、たまにストールを触っては嬉しそうにし、幸村と目が合うと、照れたように頭をかいたり、鼻下に指を持っていったりという行動を見せていた慶次。
その度に、あのときの複雑な気持ちが思い出され、居心地が悪くなる幸村だったが──
…同時に、何やらくすぐったくて温かい気分にもなるのが、実に不思議だった。
(──可愛い……などと)
また……思ってしまった。
慶次殿には、決して似合いそうにない言葉なのに。
何故、ストール一つで……あんなにも、嬉しそうに。
無意識に慶次を見てしまっていると、気付いた彼の瞳がまた笑う。
甘く──優しく。
…あの笑みを……あの瞳を見て。──彼の想い人は、一体どう思うのだろう。
見ているこちらも、息が詰まりそうになる、……熱、情……とでも、言うのか…
またもや、相手を知りたくなりそうなので、思考を中断させる幸村だったが。
…その笑みに応えるよう、力一杯の笑顔を返す。
慶次が少々頬を染めたのと、周りの三人(元親以外)が、いつもの如く眉を寄せたことには、気付けなかった。
*2010.冬〜下書き、2011.8.23 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
ホントに長くて申し訳ない…!二話に分けようかとも思いましたが、切りどころが分からなくて(;_;)
ゲームで、幸村が初めて蘭丸と戦うときの反応が(^^) 「な、何故子供が…っ」って、戸惑いまくって。
甘いなぁ…もう、って佐助の心の声が聞こえてきそうな。
元親、幸村も子供好きだと萌える。慶次は、まんまそうだし。この三人は、根が子供に通じるところがあると良いなぁみたいな。
他の三人は、また違う意味で子供(^m^)
いつき、何故かこじゅラブになりました。妄想は予測不可能…!
カメラマン、本当は誰かにさせたかったけど、しっくりくる人いなくて名無しさん;
松永さんがカメラマン…?
合わんわ!(・・;)と
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