一日目A-5







「──カメラマン、食堂にいるんだと」

と、元親はケータイを閉じた。


『ありがとうございました。早速、行ってみます』

「あ、じゃあ…すまねぇけど、俺らもうちょっと寄ってくからって、言っといてもらえるか?」

『分かりました。伝えておきます』

では、という風に頭を下げ、小太郎は、あっという間に見えなくなった。


「良かったですな、見つかって。しかし、某たちも早く…」
「いや、何かもう向こうも食ってるらしいしよ。もうちょい見てから、行こうぜ」
「そうでござったか…良かった」

幸村は、安堵の表情になる。

小太郎が、嫌な顔一つせず──と言うより、出店の前で、相当飢えた様子を二人が見せていたのか、

『どうぞ、気にしないで召し上がって下さい。初めから、連絡があるまで待つつもりでしたし』

とまで、言ってくれたので…。

とりあえず、二人の胃袋は八分目ほどまでは、満たされていた。


「向こうに、『サーターアンダギー』の出店があったのですが…」
「よし、行ってみっか。俺もアレ好きなんだよな。あんま甘くねーしよ」
「おお、良かった!…では、佐助も好きかも知れませぬなぁ」
「ん?さぁ…どうだったか…」
「甘いものが苦手だと言っておったので」
「…ああ」

奴が今ここにいれば、このくらいのことにも、きっと大喜びだったに違いない──元親は、心の中でこそっと思っていた。

サーターアンダギーをいくつか買って、モグモグしながら歩いていると、


「──あ、慶次殿…!」

幸村が、驚いたように前方へ手を振った。


「おー!」

慶次も、嬉しそうにこちらへ振り返す。

しかし、彼の両側に子供がいるのを見て、幸村は、慌てて狼の頭を被った。


「いやいや、バレてっだろ」

元親は、渡された食べ物や飲み物で手一杯になりながらも、とりあえずツッコむ。


「ほーら、二人とも!狼さんだぞ〜」

慶次の声に、愛想良く振る舞う狼。


「だから…。蘭丸を、いくつだと思ってるんだ?」
「うわぁっ!狼さんなんだか?犬でなくて?」

「(ガオー)」

両手を上げて、襲う振りをする幸村。


「…てか、さっきチラッと見えたし。朝の人だろ。あのお姉さんの、兄貴っていう」
「えっ!そうなんだべか!?」


「(…ん?)」


狼、もとい幸村は、小さな覗き窓から二人をよく見てみた。


(──ああ……今朝の)


すぐに、頭を取り外す。


「朝は、本当にありがとうな!」
「…りがとう」

蘭丸は、また無理やり言わされている感じだったが、いかにも純真そうないつきの笑顔に、幸村も大いにほだされていた。

元々子供好きなのか、二人を見る目は、いつもよりさらに優しい。

慶次が簡単に、いつきと蘭丸の紹介を幸村たちにした。


「二人とも、他に見たいものはござらんか?某、案内致しますぞ!」
「本当だかっ?ちょっと、待ってけろ──?」

いつきは、ババッとパンフレットをめくり、

「この…これ……『いあい』?だか?」
「ああ…、『居合い』で合っておりますよ。いつき殿も、剣に興味が?」
「剣?」

いつきは、『居合い』が何たるかまでは、知らなかったようである。

「片倉園の姉ちゃんたちが、小十郎先生が出るとか言ってたから」
「それは、是非とも見てあげられよ!先生も、きっとお喜びになられる」

「そ…そうかな…?」

ああ!と力を込めて返す幸村に、いつきは心なしか頬を染めた。


「始まるまで、そんなに時間ないよ。場所は…講堂?そろそろ行かなきゃ」

「悪いけど、蘭丸は違うのが見たいから。勝手に行って来てよ」

蘭丸が、一人踵を返すと、

「な、なら…別に良いだよ」

と言いつつ、シュンとなるいつき。


蘭丸は、「は?」という顔になり、

「だから、蘭丸は一人で良いって言ってるんだよ。せっかくなんだから、見てくりゃいーじゃん」
「だって…おめさん、迷子になったら」
「…それ以上バカにすると、ホント許さないぞ」

「まぁまぁ。蘭丸くんは、何が見たいんだ?」

慶次がパンフレットを見せると、

「──これ」

「『テイクD.A』…」
「ぬぉ!それは、お館様の…!」
「何だ?それ」

慶次と元親が、首を傾げる。

幸村の説明では、信玄プロデュースの『肉体的エンターテイメント集団』のことらしい。
ムキムキの若者たちが繰り広げる、様々な体技のオンパレード。

『武田』→『TAKEDA』で、そのネーミング…とのこと。

「えーと…グラウンドの特設ステージか。んじゃ、二手に別れようぜ」
「では、某はいつき殿と」

「(言うと思った)──待て待て。お前、その格好で行く気か?」
「え…」

「それで、会場うるさくしてみろ?雰囲気ブチ壊しだろ。片倉さんがキレると、そりゃー恐ろしいぞ?」

「うっ…」

幸村は後ずさり、「し、しかし…いつき殿と約束を…」

「に、兄ちゃん、気にしねぇで?小十郎先生の『極殺モード』は、ホントに怖いらしいだ」
「おっ、よく知ってんじゃねーか」
「伊達の兄ちゃんに、聞いただ」

なるほど、と納得する三人。


「んじゃ、俺が連れてっから、お前らそっち行けよ。そっちのが、混んでるだろうしな。…ま、嬢ちゃんさえ、良けりゃーだが」

「いいんだか?ありがとう!」
「おっ、良い返事じゃねーか」

元親も、うりうりといつきの頭を撫でる。

「兄妹のようでござるな。いつき殿も、綺麗な銀髪で」
「あ、ありがとー」

いつきは照れたように、

「びっくりしただよ〜。今日一日で、四人も仲間を発見しただ」
「元親の他は…三成と明智と…半兵衛か。半兵衛にも会ったんだ?」
「初め、女の人かと思ったけんど…」
「や、男だよ。(…多分)」

「舎弟は多いけどよ、妹は初めてだぜ。まかせな、終わった後で、先生に会わせてやっからよ!んで、写真撮ってやんよ」

「うわぁっ!…けど、写真って?」

元親はニヤッと笑うと、

「居合いのときの衣装だよ。袴姿…格好良いぜ〜?他の女どもが寄る前に、俺がやってやらぁ」

いつきはパァッと明るくなり、

「(何かよく分かんねーけど、)ありがとうな!頼りになる兄ちゃんだべ!」

「いいってことよ!さー、急いで行こうぜ?じゃ、そっちはまかせたからな」


──本当に仲の良い兄妹のように、手まで繋いで行ってしまった。

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