一日目A-4
「…姉ちゃんたちは良いなぁ。オラも、早く高校生になりてぇだ」
はぁ、と、子供らしからぬ溜め息をつくいつき。
「あっという間ですよ?」
クスクスと鶴姫は笑うが、
「今すぐなりてぇだよ…」
シューンとなるいつきを見て、ピンときたように、
「…あ、さてはいつきちゃん…──恋、しちゃってますね?」
「…!?こいッ?」
「だって…。それで、早く大人になりたいんじゃないですか?その人に似合うような──って」
「うーん…?」
いつきは首をひねり、
「早く大きくなって、畑仕事がもっとできるようになりてぇんだ。体力要るからなぁ……背も、高くなれば。どうやったら、姉ちゃんたちみたいになれるんだ?」
「畑仕事…」
ガクッとなる、女子三人。
「早く、小十郎先生の手伝いしてぇだよ。片倉園は、たまの休みにしか入らせてもらえねぇし。高校生の姉ちゃんたちが、羨ましいだ」
「──片倉園……アレか」
「片倉先生一人がやり始めたのに、勝手に女の子たちが手伝い出して、部に昇格したヤツだ」
「その子たちが羨ましいって、いつきちゃんってば…」
目を輝かせる鶴姫だったが、いつきは自覚がないようなので、無理に分からせることもないかと止めておいた。
「お前が、こんなお姉さんたちみたいになれるわけないだろ?バ〜カ」
蘭丸が、心底馬鹿にした目で言った。
「うるさいだ。おめさんだって、学園長みたいになるとか言ってっけど、それこそ絶対無理に決まってるべ」
佐助と慶次は、顔を引きつらせ、
「蘭丸くん…アレになりたいの?」
「やめときなよ…せっかく、そんな将来有望な顔なんだから」
「はぁッ!?信長様は、誰より格好良いんだぞッ?」
「小十郎先生と違って、ただの怖い顔だべ。小十郎先生は、ちょっと怖い顔だけんど格好良いし、優しいし、笑うと」
「うるさいな、あの怖い顔が良いんだよ!どうせ、『小十郎先生』もお前のことなんか、ただのガキにしか思ってねーよ」
「だから、早く大きくなりてーんだべ!」
「どーせ、あんま変わんないよ。相手にしてもらえるわけないね」
「おめさん、さっきから何なんだべッ?」
「まーまー、落ち着いて。何か食べない?オゴッてやっから」
慶次が、苦笑とともに二人を立ち上がらせる。
二人は、大きな慶次を挟んで「フーッ」と、猫のように睨み合うが、大人しく出店へ向かった。
「…これだから、子供は苦手です」
うんざりしたように光秀は首を振り、蘭丸たちのことは彼らに任せて、去ってしまった。
しばらくすると、クスクス笑ったり、「可愛い〜」などの声が聞こえ、自然そちらに目をやると、
「あ、旦那…」
虎の着ぐるみと、政宗と──見たことのない青年が、一緒にやって来た。
「あの方は、確か…」
鶴姫が立ち上がると、青年は気付いたように笑顔で近寄る。
「こないだは、お疲れ様」
「あ、はい!こちらこそお世話になりました」
ペコリ、と頭を下げると、「あの、学園付きのカメラマンの方で…」
「よろしく」
真面目そうな外見だが、どこか隙のないタイプにも見え、自然と目を引かれてしまう雰囲気である。
「旦那っ、お疲れ〜!」
彼の相手は鶴姫が受け、佐助は、ササッと虎に駆け寄る。
「てか、二手に別れたって?何で、そんな…」
威嚇するように政宗を見るが、意外にも全く楽しそうでない彼の顔に、少々驚く。
さらに、虎もどことなく哀愁を帯びているようではないか。
…ケンカでもしたのかな…(好都合だけど)
「……」
しかし、虎がゆっくり頭を取ったことで、その理由はすぐに分かった。
「──就ちゃん…」
(あれぇ…そうだったっけ?)
佐助が、一瞬混乱していると、
「ええ!風魔様がっ!?」
きゃああっ!と、鶴姫が頬と瞳を桃色に染めて、今にも舞い上がっていきそうな勢いで悶え始めた。
反して、かすがと孫市は笑いを堪えるように佐助たちを見て、
「おい、これ見てみろ!よく撮れてるぞ」
と、青年のカメラを指し示す。
瞬間、ギッと人相の変わる政宗と元就だったが──それを見て、すぐにニヤリとする佐助。
「なになに!?」
それが、あの不機嫌な顔の理由に違いない。
佐助は、二人より遥かに素早くカメラに飛び付き、
「──…こ、れ……は……」
思った以上の、悲──喜劇!!
…佐助の抱腹絶倒は、およそ十分は続き、二人はやり返す気力もないように、項垂れていた。
「や〜笑った、笑った!──しっかし、さすが就ちゃん。機転が利くよね〜」
「…まぁな。庇ってもらったしよ…」
「いやいや、そーじゃなくてさ」
佐助は、手をヒラヒラさせ、
「入れ替わってなかったら、旦那がそんな目に遭ってたかも知んない」
「……!」
「ありがと〜就ちゃん。身を呈して、旦那を守ってくれてさ」
着ぐるみの上から手を握ると、元就にも生気が戻ってきたようだ。
「…そうだ、我はその為に…」
「そうそう!報われてるって」
「Shit……!本当なら、スゲー美味しい状況だったわけか…」
「だからさ〜、そういう運命だったんだよ。…おめでとう」
「Ha?」「は?」
政宗と元就が、同時に聞き返す。
「お似合いだよ?新カップル、誕生〜」
佐助は満面の笑みで、カメラの画像を再び見せた。
「──……」
「………」
「合わないと思っていても、案外そうでないことは、結構あるしな…」
「そうだな。お前らならビジュアル的に、周りに迷惑がかかるほどじゃない」
ププッ…と、やはり堪えながら、孫市とかすがも佐助に便乗する。
「「………」」
…再び突き落とされた二人には、もはや、否定する気力さえ残っていないようだ。
そんな彼らをカメラマンは楽しそうに眺め、完全に乙女モードになっている鶴姫にも頬を緩ませるのだった。
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