一日目A-3
「あいつの思考パターンは、昔から変わっていないからな。幼なじみの縁を気にして、私と姫のどちらに入れるか、延々悩んでいたんだろう」
「…何もかもお見通しだよ、親ちゃん」
「さっすが、孫市」
呆気にとられる佐助と、爆笑する慶次。
「まぁ…元親さんてば。私たち、元親さんに入れてないのに(笑)」
「姫ちゃ〜ん」
「あっ…あんまりですよね?」
「いや、ナイス!」
佐助は、心からの笑顔で、
「俺様は、そんな二人の力関係が、大好き!」
良かった〜、とニコニコ受ける鶴姫。
彼女はどうも、元親にのみ黒くなる傾向があるらしい。
「…で、そんな元親が可哀想になった前田が毛利に頼んで、あいつがどちらかに決めざるを得ない状況を作った──そんなところだろう。三人の投票は私の勘だったが、当たったな」
フフ、と孫市は笑い、「まぁ…元親は、きっと姫に入れていただろうけどな」
「…いや、孫ちゃんスゴいね〜ホント。そうそう、だいたい当たってるよ」
「俺が孫市に入れたらさ、『じゃ…じゃあ、俺が鶴の字に入れてやんねーとな。ゼロだったら、いくら何でも可哀想だからな!』って。二票ずつ入れるっつってんのにさー」
「就ちゃんと慶ちゃんが姫ちゃんに入れようとしたら、何か言いたそうな顔するしね。ホント、素直じゃないんだから」
「小さい頃のあいつは、姫にベッタリだったからな。姉のように慕っていたんで、どうしてもそう反応してしまうんだろう」
「そうですねぇ……昔は、可愛かったんですよ、本当に」
「今じゃ、自分が兄貴的立場にいると思っているようだがな」
「まぁまぁ。今も、可愛いじゃん?そんな、『鶴姫お姉ちゃんは、僕だけのお姉ちゃんなんだ〜』みたいな」
しなを作って言う佐助だったが、
「…気持ち悪」
元就に匹敵するほどの、冷たい声と目を向けるかすがに、
「ヒド〜い」
と、苦笑いする。(そして、無視される)
「そう言えば……お前ら、今自由時間か?」
思い出したかのようにかすがが尋ねると、
「うん、そう。ここで、皆と待ち合わせてんの。お昼、まだ食べてなくてさ〜」
「──あ、片倉先生」
慶次が言うと、皆そっちに目を向ける。
「…と、明智…」
皆一様に、「うげ…」という顔になる。
二人は、五人に気付くと近付いて来た。
隣には、小学生か中学生くらいの子供二人を連れている。
「…あ!姉ちゃん、いた!」
女の子の方がパッと顔を輝かせ、かすがに駆け寄ってきた。
「お前、今朝の…」
「会えて良かった〜!朝は、本当にありがとうな!お陰で色々回れただっ。小十郎先生とも、会えたし」
ニコニコと、人懐っこい笑顔をまき散らす。
「誰?…片倉さ…先生の隠し子?そっちは、明智先生の?」
「──あァ?」
ギロッと、その強面をさらにレベルアップさせる小十郎。
「冗談だってば」
佐助は、ヘラヘラとかわす。
いつきは自己紹介と、小十郎や政宗のことを話して聞かせた。
蘭丸のことも、皆名前は知っていたようで、「こんな可愛い子だったんだ」と意外そうにしていたが、話していると生意気さが分かってきて、すぐにその印象は塗り替えられた。
いつきに無理やりかすがへの礼を言わされ、ぶっすーとなった顔で、
「お前が約束破るから悪いんだぞ、光秀。蘭丸たちを待たせて──しかも、来ないし」
「気を利かせたのですよ。デートの邪魔ができるほど、野暮じゃありませんから」
「嘘つけ。ルンルンでバンドやってたって、知ってるんだからな。というか、デートじゃない!」
「大人は、忙しいのです。あなたには、まだ分からないでしょうけど」
「分かるわけねーだろ。てか、分かりたくないよ」
「これだから子供は…」
ハタから見れば、光秀もあまり変わらない──精神年齢の話だが。
小十郎は、他の場所へ回らなければならないとのことで、二人を彼らへ預けて去って行った。
「なぁなぁ、姉ちゃん?今朝、一緒にいた兄ちゃんは…」
「幸村か?今ここにはいないが、もうすぐ」
「あの人…姉ちゃんの彼氏だか?」
「ブッ!」
危うく、飲み物を吹き出しそうになるかすがである。
「違うよ、いつきちゃん。その人はね、かすがお姉ちゃんのお兄ちゃん。二人は、兄妹なんだよ〜」
颯爽と説明する佐助。
「そうなんだべか〜。オラ、てっきり……美男美女だったもんで」
「かすがちゃんには、この美しさにさらにお似合いの、美人な彼氏がいるんだよ〜」
「そうそう。それに、幸も美男だけど、どっちかってーと可愛い系だろ?だから…」
…はた、と詰まる慶次である。
「『だから』…何だ?」
孫市と鶴姫が、何か含んだような笑みを浮かべながら、慶次を窺っている。
「えーっと…」
苦笑いでごましていると、
「分かった!そっちの姉ちゃんだな!?あの人の彼女」
「──は?」
いつきが指したのは鶴姫ではなく、何と孫市。
「……何で?」
驚く面々に、いつきは自信満々と、
「『可愛い系』には、『格好良い系』だべ?服も、甘辛コーデがオシャレとか言うでねぇか。だから…」
「…うん、間違ってない。間違ってないね。旦那の隣に似合うのは、格好良い系のこのオ」
「なぁっ、いつきちゃんから見て、俺はどっちかなぁッ?可愛い系じゃーないよな!?とすれば、ハイ!答えは」
「な、何だべ…?」
二人の、異様な雰囲気に飲まれそうになるいつきだったが、かすがが、早々に避難させた。
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