一日目A-2


「お知り合い…ですか。某たちも、ともにお探し致しますぞ」
『しかし…』
「あー、遠慮すんなよ!そういうのも仕事だしな?」
「そうでござる!」
『…すみません』
「とんでもござらぬ!…して、どのような方なので?」

小太郎は少し考えていたが、幸村を見て何か思い出したように、


『あの、パンフレットの写真を撮ったカメラマン、覚えていますか?』
「カメラマン…。では、あの方が探し人?」

幸村の言葉に、小太郎は深く頷き、

『学園と契約しているカメラマンで、今日も文化祭の写真を撮るために…』

一応、ケータイのメールを出したらしいのだが、返って来ないとのこと。

──しかし、こんな調子で彼は、秘書やボディーガードなんてこなせているのだろうか?
元親は、不思議でたまらない。

もしかすると、カメラマンは小太郎の声を聞くために、わざとメールを無視しているのかも…という考えまで、湧いてくる。


「それならば、元就殿に話して校内放送で呼び掛ければ…」
「それが早いか」

元親がケータイを鳴らすが、二人とも出ない。

「…一年のとこ行って、出店回るっつってたな。とりあえず、行ってみようぜ」













文化祭中の食堂は開放されており、巨大な休憩所と化していた。
ガラス張りで、中庭が前に広がる。

出てすぐのところに立ち並ぶ、様々な出店で買ったものも、ゆっくり食べてもらえるというわけだ。

出店は、三年生だけでなく部活動主催のものもあり、結構多くの種類が選べるようになっている。

そこで、かすが、鶴姫、孫市の三人はお昼を食べ、まったりと過ごしていた。


「私は、断然前田さんを応援したいですっ」

鶴姫が言うと、

「…孫市は?」

と、かすがが尋ねる。


「私は、同じ生徒会のよしみで毛利か…。だが、伊達とも付き合い長いからな。あいつも、割と可愛い奴なんだ」

「ごめん、…全然分からない」

かすがが真顔で言うと、孫市はクスリと笑う。


「誰も、猿飛を言わないな。…やっぱり、あいつはないか…」

えっ、と鶴姫と孫市は驚いたように、

「猿飛さんは、『オカン』なんじゃぁ…」
「ああ…。それに、あいつは元親が」

「孫市、だからそれは違うってば…」

かすがは小さく息をつくと、


「…そうでないなら、あんな風にベッタリするの、止めて欲しい。あれじゃいつまで経っても、恋愛なんてできるはずがない」

「そこは、ほら…他の三人に頑張って頂いて」

鶴姫がフォローするように言うが、

「でも……やっぱり、前田さんですねっ。優しいし、すっごく大事にしそうです」

「しかし、毛利や伊達も、あいつ限定で人が変わったようになるぞ。誰にでも優しいよりは、良いと思うがな」

「…それも一理あるな」

かすがが、考え込むように両の手の甲に顎を載せていると、


「なになに?何の相談?」

噂の張本人たち──慶次と佐助が、三人の前へ現れた。


「俺様たちのこと言ってなかった?」

ん?という風に、佐助が首を傾けてくる。


「あ、いや…」


(耳が良いのは、昔と同じか…)


忌々しい思いで、佐助を見るかすがだったが…。


「明日発表の、人気ランキングの投票のお話をしていたんです」

全く動じない笑顔で、鶴姫が答えた。


それも催しの一つで、全生徒に配られたアンケートにより、ミスとミスターのナンバーワンが、明日決まるというわけである。

女子は男子の、男子は女子の、唯一人の名前を投票できるのだ。


「マジでッ?皆、俺様に入れてくれたの!?」
「はぁ?」
「それはヒミツですっ。でも、皆さんの中の誰かに投票しましたよ」

「おー、やったな!」

慶次も、嬉しそうに佐助と腕を組んだ。


「かすがちゃんは、どうせ旦那だろーけどね」
「まぁな」

「んで、先生部門は謙信だろ?聞かなくても分かるよな」

かすがは、愛しの謙信様を呼び捨てにする慶次をジロリと睨むが、今に始まったことではないので、文句は言わなかった。


「俺様たちも、三人に入れたよ〜」
「ホントですか?ありがとうございますっ」
「良いのか?お前ら、あんなにファンが」

孫市が苦笑すると、

「逆に、贔屓だとかって恨まれるからじゃないか?所詮、私らはカモフラージュだ」

と、かすがが冷めた声で言う。


「…なるほどな」
「ちょっとちょっとぉ、かすがちゃんてば深読みし過ぎ!」
「そーだよ!純粋に、三人が一番イイと思ってさ。誰に入れるかも、超悩んだもんな!?」
「そうそう!結局、俺様たちちょうど六人いるから、二票ずつ手分けることに…。それでも、誰が誰に入れるかで、すっげーモメたんだから」

「ほう、それは光栄なことだな」

孫市はフッと笑って、「当ててみせようか」


「えっ?」


「…かすがに入れたのは、真田と猿飛。私には、前田と伊達。姫に、毛利と元親。

──どうだ?」


佐助たちは、ポカンとしていたが、


「元親さんは、絶対私じゃないと思いますよ?」

鶴姫が、笑いとともに言うと、


「いやいや──びっくり!」

佐助も慶次も目を見開き、


「ドンピシャ!何で分かったのッ!?」

「…あら?本当に?」

今度は、鶴姫が目を丸くする。

孫市は軽く笑って、


「簡単なことだ。真田が、かすがに入れるのは分かりきっていることだし、オカンのお前が、そうするのもな。(と言うより、真田のご機嫌取り。こいつは、サラッとその権利を入手するに違いないし)

…で、そうなると、伊達は適当に私に入れるだろう。一応、昔馴染みだしな」

「うんうん、当たってる!『孫市も、きっと俺に入れてるだろうから、こっちも返してやんねーとな』とか、ほざいてたよ」

「気持ち良いくらいの勘違い野郎、かつ自信家だな」

かすがが、唾を吐きかねない勢いで言った。


「で、モメたって言うのは…どうせ、元親のせいだろう」

「何で分かんの!?マジすげぇ!」

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