一日目@-6


「小十郎先生の収穫祭、すごかっただ!さすがだべ!」

「Ahー、あれか」

小十郎は、園芸部から派生した「菜園部」なるものの顧問をしており、学園の土地に、それは立派な畑を作っている。通称、『片倉園』。

彼も、いつきとは顔見知り。
何年か前に東北からやって来た彼女と、知らない内に、結構親しくなっていたようだった。
彼女は、田んぼの経験が長く、小十郎の趣味に惹かれるものがあるらしい。


「先生はいなかったから、残念だっただ」
「言っといてやるよ」

政宗の言葉に、「絶対だべ?」と念を押すいつきである。


「なぁ、ところで兄ちゃん。金髪のすっごく美人な姉ちゃんと、茶髪ですっごく格好良い兄ちゃん…知らねーだか?」

一瞬、虎を見てしまう政宗だったが、いつきは気付いていない。


「…その二人が、どうした?」
「うん、あのなぁ…」

──高等部が初めてだったいつきと蘭丸は、案内人を織田夫妻から紹介されていたらしいのだが…

朝早く開場前から来てみたものの、その人物に上手く会えず、門の前でオロオロしているところを、二人に助けられたのだと言う。
受付のパンフレットを手渡され、分かりやすい説明をしてもらったお陰で、無事に楽しむことができている──と。


「Oh、coolだねぇ」
「慌ててて、名前も聞かなかっただ。会って、きちんとお礼が言いてぇんだ…」

「…Ahー…そうだなぁ…」

ここで、虎の頭を取ってやってもいいのだが…せっかくの、二人の時間。
こんなに愛くるしいお子様の願いでも、政宗には、譲歩するという心の広さが存在しないようである。

「金髪の姉ちゃんっつーのは、一人しかいねぇから分かるぜ。俺のクラスの奴だ。今、教室にいるか分かんねーが、二年一組だ。良かったら行ってみな」

「本当だか!」

途端に、明るい顔に変わるいつき。

…嘘は言っていない。
茶髪の(格好良いのは、政宗的に一人だが)男子は、他にも大勢いるわけなのだし。
後は、かすがに任せれば良いだろう。


「ありがとう、兄ちゃん!早速行ってみるだ」
「おい、服が伸びる!引っ張るなよ」

ぶりぶり文句をたれる蘭丸に、

「だって、おめさん手を繋ぐの嫌がるでねぇか。迷子になったら大変だ」
「蘭丸は子供じゃない!」
「自分のこと名前で言ってる時点で、子供だべ。──じゃあな、ありがとう、兄ちゃん!」

いつきは、政宗に笑顔で手を振り去っていく。

「オウ、楽しんでけよ」

政宗も笑顔で見送り、虎に向き合う。

…彼は、何やら責めるような空気を放っている。


「良いじゃねーか。どうせ、俺らもこれから戻るんだからよ。あいつら、それまでまだいるだろ」

その腕を掴み歩き出すと、虎が、ある教室の前で立ち止まった。
空き教室で、倉庫のような場所になっているところである。

そこに入ろうと政宗に言っているようだ。
誰もいない場所で頭を取り、彼に話したいことでもあるのか。

先ほどの、いつきたちの件か何か…?


「…何だよ?」

中は、カーテンが引かれて薄暗い上に、机や物がごちゃごちゃ積まれていて狭苦しい。

必然的に、密着するくらいまで近付かなければならず、…さすがの政宗でも、少々緊張してしまうというもの。


「ほら、取ってやっから」

虎の頭に手をかけると、一瞬ビクッとなる相手に苦笑し、

「…んだよ、何ビビッてんだ?」


虎の口元──そこから、政宗が見えているはずだ──に顔を寄せる。

…あの、特有の甘い匂いが香った。


「何だって、こんなイイ匂いがすんだろな?同じ男だってのに、不公平だぜ」

すん、と鼻先を肩に付くくらいまですり寄せる。

虎が身をよじり、後ろの本棚に背中をぶつけた。

──頭を取ろうと、必死そうだ。


政宗は少し笑い、

「だから、今取って…」

と言いかけ、虎の背後を見上げて固まった。


「……?」

虎も後ろを振り返ると、

──そこには、グラグラと揺れている本棚が。


「!!」

ハシッと棚を両手で支え、何とかバランスを直す虎。


「た、助かったぜ…」

ホッと息をつくのも束の間、今度は棚の上の方から、本やら何やらが飛び出し、落ちてきた。


(げっ……!)


思わず頭を手で庇う政宗を、虎が、抱き抱えるような形で押し倒す。



──抱きッ!?



驚いた政宗だが、バサバサ落ちて来る物と、埃に目をつむった。


「……」

音が止み、目を開けてみると、視界は虎の頭で覆われていた。



(…Ahー…、被り物で庇ってくれたのか)



政宗は納得しつつ、

「Hey、大丈夫か?幸村」

ズルズルと、本の山から彼を救出し、ドア近くまで引っ張る。


「Sorry、俺を庇ったせいで。怪我してねーか?」

なかなか動かない彼に、ヒヤリと背中に冷たいものが走る。

あんな物でどうにかなるような、ひ弱な身体ではないはずだが…


「…おい、返事しろよ」


ようやく、虎頭を外してやると──





…固まった。

今度こそ、政宗は凍り付いた。


──冗談でなく、彼の心臓は止まりそうだった。





「…な…んで」

「──だから…説明しようと…」


下から現れたのは──





「…何で、元就…」


政宗は力なく、虎──元就の横へ倒れた。



「う…」

堪えるような元就の声に、


「あ…!どっか痛めたのか!?」

ガバッと床に手を着き、元就を見下ろす政宗。
…両手を、元就の両耳の傍に着く形で。


ハタから見ると、それはまるで…






『パシャ』






「「……!?」」



「──あ、どうぞ。気にせず、続けて下さい」


いつの間に開いていたのか、ドアの前でカメラを構えた男が、至って真面目な顔で呟いた。

……幸い、周りに人はいないが…



「…あれ?…そっちも男の子…?」



音にならない悲鳴を上げ、二人がカメラを奪取しようと飛びかかるのは、ほんの数秒後のことだった──







*2010.冬〜下書き、2011.8.21 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

本当に色々ごめんなさい!細かすぎる;
だって、絶対可愛い!女の子の、そういう格好…!

佐助たちの格好、カッコ良いイメージを浮かべて下され(^^; あの表現では難しいと思うんですけど…(--;)

皆の、ああいう距離感が好き。
ウチの三成は、ファザコンの上にマザコン(秀吉、半兵衛、刑部)。刑部、オカンですから。

佐助と慶次も、健康な男子。

いつきと蘭丸出したかった!名字捏造すみません。
蘭丸は、前髪ちょんまげも可愛いけど、現代では違う感じも良さそうな(^^)

まだ続きます…;


[ 38/114 ]

[*前へ] [次へ#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -