一日目@-4
「ほー…。それで、着ぐるみに入って。…ファンから逃れるために」
納得したように頷く官兵衛だったが、その顔は、ケッ!とやさぐれている。
「大層な理由だな」
三成も、冷めきった表情。
「はー…小生も愛が欲しい」
官兵衛が深い溜め息をつくと、
「何を言うか。我らが、充分与えておろう?」
と、吉継が不敵に笑う。
「……」
官兵衛が、沈黙せざるを得ないでいると、
「刑部。私は、官兵衛にそんなものを与えた覚えはないが」
大真面目な顔で答える三成。
「……」
「さようか。すまぬな、黒田」
「……」
三成は、ハッと、
「──刑部、もしやお前…実は、官兵衛のことを…?」
「落ち着け、三成。単なる冗談というものよ。我も、そこまで落ちぶれてはおらぬ」
「…家康よりはマシだと思ったが…」
「聞いたか黒田?良かったなぁ…三成も、ヌシへ少しは情けを持っていた」
「ああ……嬉しいねえ。涙で、前が霞んで来た…」
「いっつもこんな感じ?仲良しさんだな〜、三人」
あっけらかんと慶次が笑うと、
「…お前さんは、状況把握能力が極めて低いみたいだな。(…だから、あいつと進展するチャンスを逃し続けるんだ)」
「え、何?」
「いや」
官兵衛は再び、
「あ〜あ、せっかくの文化祭だってのに。…愛に癒されたいねえ。一人身には堪える」
と、周りにチラホラ見える仲良しカップルたちを眺めては、溜め息。
「まぁ…分かるけど」
「生まれてこのかた、モテた試しがないんだぞぉぉ…。お前らとは違うだろがぁぁぁ」
しくしくと泣き真似をする──もしかすると、本気かも知れない──フランケンシュタイン。
「何だー、言ってくれれば良かったのに!紹介するって。どんな子が好みなんだ?」
久々の恋愛話に、盛り上がる慶次。
「やったね、黒ちゃん!」
「やめておけ前田。どうせフラれる。官兵衛の得意技は、逆恨みだ。被害に遭うのはお前だぞ」
三成が、冷めた口を挟む。
「黒田、今はまだ無の状態だが、良いのか?マイナスに成り下がっても。…ヌシは、やはり相当なM──いや、自虐精神の持ち主と見える」
「おい、わざわざ言い換えるなぁ!小生は違うと、何べん言や分かるんだ?」
もー嫌だ…と、官兵衛はブツブツ頭を抱える。
そして、慶次へすがり付くように、
「こんな奴らじゃなければ、もうそれだけで!小生を気に入ってくれる奇特な人間がいたら、一生大事にするぞ!」
(不憫な…)
何だか、一緒に涙ぐみそうになってしまう佐助たちである。
「まぁまぁ、そこまで卑屈にならなくても。何か、あるだろ?優しい人が良いとか」
慶次の質問に、
「…そうだなぁ……」
と官兵衛は腕を組み、首をひねり──
「……真田」
「「……!?」」
「──みたいな奴が良いな。あんなに良い奴、小生初めて会ったからなぁ」
「──ああ」
全く同じように息をつく二人。
「──……」
「…………」
三成と吉継は、無表情かつ無言で三人の様子を窺っている。
「残念だけど、幸は──…いや、幸みたいな子は、他に知らないなぁ。あんなにすごいのは…。気持ちは分かるけど」
「そうだよ。てか、黒ちゃんてば、極端過ぎっつーの。誰でも良いレベルから、強いて言えば、旦那みたいなのって?理想、高過ぎっしょ。
黒ちゃんは、世界が狭かったから知らないかもだけど、旦那は、超希少種族なんだよ?そんじょそこらのフランケンなんかに、渡せるわけないじゃん」
「いや……だから。頼むから、その、脳内で勝手に膨らむ被害妄想やめてくれ。小生は、真田みたいな奴って言ったんだ、本人じゃない」
「当然でしょ」
「(……)──分かったよ、小生が傲慢でした。…優しい奴をお願いします、前田」
「おう、まっかせといて!」
胸を張る慶次。
「…お前は、真田の保護者か何かか?猿飛」
三成が、ハッと鼻で笑いながら言うと、
「あ、知らない?最近、俺様『オカン』呼ばわりされてんの。旦那限定の」
「オカン…」
「せめて、『オトン』か『アニキ』にしてもらいたいとこなんだけど」
とか言いつつ、その顔は満更でもない。
「オカンの方が、しっくりくるな」
「真田も、不運だったな。こんなうるさい母親になつかれて」
「…この小姑を、相手にせねばならぬとは…」
真に同情すべきは、幸村の未来のパートナーである。
官兵衛ら三人は、この、一見優しそうなのに、実態はとことん面倒くさい男を、改めて見つめ直した。
その後で、それぞれ励ますような言葉や目を、キョトンとする慶次に送る。
「──お、着ぐるみ。…真田か?」
官兵衛の目の先には、廊下の端から近付く、猿のキャラクター。
「あれは──」
佐助たちが言う前に、猿は三成たちにすり寄り、手を握ったり頭を撫でたり、様々な愛想を振りまく。
三成も、愛らしい姿と中身の人物からか、その様子に和んでいた。
一通りスキンシップを終えると、官兵衛にもハグを始める。
「おおー、ふっかふか…」
しかし、すぐに佐助の目を気にし、猿の肩を掴んで大きく離れると──
「──あ」
ころりん、と猿の被り物が転がり、その下にあった顔は…
「…何だ、お前さんだったのか」
「誰だと思っていたんだ?」
ハハハッと爽やかに笑ったその人物は。
「──す」
その低い声に、官兵衛だけでなく、佐助と慶次もビクリとなる。
「家康ゥ…」
ゆらり、と黒いオーラを発し始める三成。
「三成、来てくれたんだなー!」
ニッコニッコと、まるで何も分かっていない家康。
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