一日目@-3


「元親が推してたよな、そのジャケット」
「ああ、こんなに反響生むとは思わなかったぜ」

苦笑しながら、元親が元就のジャケットを掴む。だが、元就は非常に迷惑そうな顔のままだった。

元親は、ダークグリーンとダークブラウンの中間色のようなミリタリージャケットに、中はアニマル柄のTシャツ。
白地に黒の、一見ゼブラ柄?とも思えるが、彼に言わせると『ホワイトタイガー柄』らしい。自分の髪の毛の色から、やるならそれだろ!と豪語していた。

左腰にはプロレスのマスク(もちろん、ホワイトタイガー)をデフォルメした、キラキラなキーアクセサリーと、キーチェーンを下げていた。


「けどよ、この頭自分でやったんだろ?お前って、案外こういうの得意なんだな」

政宗は、素直に感心したように元就の髪型を見て言う。

そんな彼の豹ファッションは…
紺色のジップアップジャケット──内側が豹柄で、首回りの部分はそれが見えるもの。
元就のようにシャツを開け、豹柄のスカルモチーフのキーアクセサリーを着けていた。


「…これの方が、今日の服装に合っていたからな…」

はぁ、とげんなり息をつく元就。


「しかし、よくお似合いでござるよ、元就殿」

爽やかな笑顔で幸村に言われては、元就も心の中では喜んでいるに違いないのだが。


幸村は、フードの中が茶色いボア素材の黒いパーカーに、中のTシャツは薄いピンク。
可愛くて少しシュールな猿がイメージキャラクターのブランドのもので、ややホラーでキュートなイラストが入っている。

皆と同じように、同ブランドのキャラのぬいぐるみストラップを、ベルトの片側に下げていた。


「ねーねー、姫ちゃんにキマってるって褒められたよ!」

佐助が自慢気に言うと、

「はい!皆さんも、バッチリです」

ニッコリと親指を立ててくる鶴姫。


「俺様と旦那、コレ色違いなんだぁ〜、パーカー」
「あ…ホントですね!」

「猿や羊など、それらしいものを探すの苦労致しました…」

幸村は苦笑いを向ける。

…そして、色違いだと言ったときの佐助の顔が、鶴姫に服装を褒められ、他の女の子から注目をされていると聞いたときよりも、遥かに嬉しそうなのは、誰の目にも明らかである。

それを見て、ますます眉間に皺を寄せるかすがだった。


「おう、お前らも似合ってんじゃねぇか。それで、野郎どもを大勢引っ張って来いよ」

「もっと、他に言い方ないんですかぁ?」

呆れた口調で言う鶴姫だが、褒め言葉は良かったらしい。


「つか、それどーなってんだ?下に穿いてんのか?」

元親が不思議そうに鶴姫のスカートを見た。


「はい、周りをふんわりさせるパニエっていうのと、その上にこのスカート…」

鶴姫の声は、途中で途切れた。

ふーん、と頷きながら制服のスカートをピラッと持ち上げた、元親の手によって。



『ばっちーん!』



「いっで!何しやがる!?」

元親が、思い切りぶたれた手の甲を、もう一方の手でさする。


「何って!どの口が言いますかぁッ!?」

めくられた箇所を押さえ、

「信っじられません!セクハラ!言い付けてやります!」

「誰に!?セクハラって…お前、下穿いてるっつったじゃねーか」

「…だからと言って、普通はやらんだろう」
「これだから、下品な男は…」

孫市とかすがが、呆れ返った目で元親を見る。


「Oh〜…、その歳でスカートめくりかよ」
「…小学生」
「親ちゃん、やっぱり姫ちゃんが…(一応、小声)」
「トラ親、野生の本能思い出しちゃった〜?」

皆、口々にからかい──或いは、蔑む。


「ち、違…!何で俺が、こんなお子ちゃまに」


「元親殿ォォ!某、信じておったのに…!」

顔を真っ赤にさせた、幸村からのトドメの一発。
「破廉恥なぁ!」と拳を震わせている。


「違ェェェ!確かにオリャ破廉恥だけどよ!さっきのは、んな意味じゃなくて!だいたい、鶴の字なんか色気のねーヤ──ツ…」

背後の不穏な空気に、元親の語尾が弱々しくなっていく。


「ひど…い…、あんまりですぅ…!」

うるうると目を滲ませる鶴姫。

──元親は、一気に青ざめる。


「う──嘘うそウソ!マジで!!俺、間違えた!」
「お子ちゃま…色気ない…。気にしてるのに…」
「違ェって!嘘だっつったろッ!?」


「…(グスン)」


「(聞こえてるっての!)



…………スンマセンでした」


だが、じっ…と黒い瞳で見つめる鶴姫。


う…、と元親は詰まり、周りを見ると、ニヤニヤと楽しむ六人と、オロオロしている幸村。


「…鶴姫さんは、色気あります。ちょっとロリ顔ですが、お子ちゃまではないです。…お姉さんです」

鶴姫はパッと明るい顔に戻り、


「許してあげます」

「…(何だ、このひでぇ敗北感…。てか、変わり身早!)」

「何か言いました?」
「いえ、何も!」


佐助は、相変わらずニヤニヤと、

「やっぱりお似合いだと思うんだけどなぁ」


「…何、そんなにぶっ叩かれてーのか?」


まーまー、と慶次がなだめていると、着ぐるみの希望者を募る声が上がる。


「あ、某は明日あまり働けぬゆえ、是非ともやらせて下され!」

幸村は声高々に立候補し、持参していた体操着にさっさと着替え、着ぐるみに入った。


「あーあ。せっかくオソロだったのにな〜…」

ちぇ、と佐助が幸村の服を畳みながら、口を尖らせる。


「すまぬ。明日も着るから」

最近では幸村も、佐助の機嫌をとる方法が、自然と分かるようになっていた。


「着ぐるみは、喋っちゃダメなんだよ?頭被った瞬間から、もう外側の動物になりきらなきゃ」

バイト経験のある慶次が言うと、

「承知した!」

と、元気良く頷く幸村。


それを見てつい微笑む孫市や、他のクラスメイトたち。


廊下では、元就の追っかけたちが、未だにさざめき合っている。

──元就が幸村に続いたのは、それからすぐのことだった。

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