一日目@-2
「ネコ耳だ〜、ネコ耳!かぁわい〜い」
「動物占いってより、これ…」
佐助と慶次は、ほとんどの女子が頭に着けている件のアクセサリーを見て、こっそりニヤニヤしていた。
正確には猫ではなく、それぞれの動物の耳なのだが、狼、豹、小鹿などは、ほぼ同じようなもの。違いと言えば、その柄くらい。
ちなみに虎、チーター、ライオン、タヌキは、小さくて丸っこい耳で、これもまた可愛らしい。
猿と羊の子は、イヤーウォーマーを着け、耳や角のように見せている。
コアラと象は、その耳に見せかけた大きなリボン、ペガサスは、背中に羽飾り(もはや天使のよう)を着けていた。
それぞれ、何種類かある制服のシャツとスカート、ベストやカーディガンを自由に合わせ、リボンやネクタイをその動物柄にしてみたり、スカートの下にレースやフリル入りのインナースカートやショートパンツを穿いたりなど、色々工夫を凝らしている。
裾からチラリと出したりと、パッと見は制服と分からない感じで、一層華やか。
「うちのクラスの女の子って、結構レベル高いよね」
佐助がニコニコ言うと、
「今頃!?…これだから、美人に慣れた奴は」
と、慶次が溜め息をつく。
「慶ちゃんだって…」
「さっけよりかは、性格重視だったよ」
「…そうかなぁ」
そうだよ、と呟いた後で、慶次も笑顔になった。
彼と目が合った鶴姫が、かすがと孫市とともに二人の元へ寄って来たのだ。
「いや〜、さっすが!三人とも可愛いね〜!」
二人の締まらない顔に、かすがは気分を害されたような表情になる。
「お二人も、キマってらっしゃいます!先ほど、他のクラスの子が噂していましたよー?」
楽しそうに、鶴姫が言った。
「ありがとー!何か、さらに姫ちゃんが可愛く見えてきた。…小鹿?」
「はい!」
鶴姫は、佐助の軽口をサラッと受け流し、クルッと回って見せた。
スカートの裾から見えるボリュームたっぷりのレースやフリルが揺れる。
小鹿の耳に合わせた、茶色のニーハイソックスと、少しだけ露出した太ももが眩しい。
(ちなみに、シッポは女の子全員が標準装備である)
「かーわいーい!バンビなんて、姫ちゃんにぴったりじゃん」
「小鹿ってどんなんだっけ?」
「えっとですね…」
「…姫っぽいのは、『好奇心旺盛』『感情を隠しきれない』『人を育てたり教えたりするのが上手い』『かけひきが苦手』ってとこか」
孫市が、教室の展示を見て言った。
「そうですかぁ?」
「うんうん、当たってるかも」
慶次も頷き、
「かすがちゃんは…ライオン?」
と、金髪にセットされた丸い耳を指して尋ねる。
「…ああ」
「『徹底的にこだわる』『教え方が厳しい』『細かいところに気が付く』『装飾的オシャレ』だって。…あーねー…」
佐助が言った途端、フン、と腕を組み無視をするかすが。
ファーの付いたベージュのニットカーディガンを羽織り、ライオンっぽさを表しているらしい。
孫市は『狼』、全体的に黒で統一し、赤茶の髪に黒の耳がよく目立つ。
「かすがちゃんは、豹だったら良かったのにな〜。豹柄のピタッとした全身スーツ…あの、タイツみたいな感じのさ?で、耳とシッポね。絶対似合うだろうなぁ」
「あ〜、良いね。てか、ハマり役」
慶次も深く頷く。
「んでさ、こう…女豹のポーズ?床に四つんばいに──いや、壁にの方が良いかな…」
そこまで言ったところで、無言の凍てつく冷気というかブリザードが吹雪いてきたので、二人は静かに口を閉じた。
「元就も狼なんだよ。二人、似てるのかもね」
慶次が言うと、
「笑えない冗談だな」
と、孫市は小馬鹿にした顔で言った。
「毛利さんと言えば、向こうですごいことになってましたよ?」
「すごいこと?」
二人が顔を見合わせると、騒がしい声がし、教室の中に残りの四人──幸村、政宗、元親、元就らが入って来た。
騒がしいのは何も彼らだけではなく、廊下に集まる女の子たち──も。…恐らく、一年生や、外から来た一般客。
文化祭は、土日の二日間で行うため、他校の生徒や父兄など多くの客層が訪れている。
「毛利センパーイ!こっち向いて下さぁい!」
「写真撮らせて下さい〜!」
キャーキャーと一年生から飛ぶのは、元就への熱烈なラブコール(!)
他の女の子たちは、元就含め、美形揃いの四人組を追いかけて来た、というところか。
現に、教室の中にいる佐助と慶次も目ざとく見ては、コソコソと何やら囁き合っている。
だが、元就モテモテのこの状況に、いつもと違って彼女たちの視線にも気付かない二人だった。
「すっげー、漫画みたい!就ちゃん、人生最大のモテ期?」
「……」
相変わらず軽く失礼なことを言う佐助には、開く口がないらしい元就。
「コレですよ……『ギャップ』!」
そう言い、鶴姫は元就の格好を、両手で紹介するように示した。
本日の彼の服装は…
狼がテーマということで、黒のライダースジャケット──レザーでなく、ニット素材なのでキレイめな印象だ──に、下は制服の白シャツだが、ボタンをいくつか開けて普段着のような装い。
ベルトはゴツいシルバーのスタッズの入ったもの。腰には、黒いシッポのアクセサリー。
さらに、いつもと一番違うのが──髪型。センターでなく端で分け、片方の髪はを耳にかけている。
確かに、かなりのイメチェンであり、しかもよく似合っている…
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