実地試験!7


「でも、俺も必死だったんだ。バレないよう、知らない振り、突き通そうとしてさ…。
──てか、幸ってば、いや怒るかも知んないけど…んっとに、目立っててさ。俺、さっきのでお前へのナンパ止めたの、三回目だよ?」

「そ──んな…」

もはやポカンとするしかない。


「や、マジで。さっきは、人混みですぐ行けなくて──あ、幸が強いのは知ってるけど…でも、別に女の子としてやってたわけじゃなくて、幸だから……えーっと…何て言うか」

慶次は、顔を赤くしながら、


「お前が頑張ってるの、邪魔させたくなかったっつーか……きっと幸、邪険にできないだろうし。──って、言い訳だよな。本当ごめん…何か、勝手に守ってる精神に陥ってたかも」


「……」

幸村は、未だに目が丸いままである。


「映画館でも、お前のすぐ後ろに並んで席指定したんだ。…ストーカーかってな…」


──慶次の言葉を頭の中で整理した幸村に、猛省する気持ちが急襲した。


「あ──謝るのは、某の方でござる!申し訳ござらぬ、慶次殿…っ、本当に…!
何も知らなかったのは某の方で、慶次殿には相当な世話をかけていたのだというのに、あのような物言い…っ」


あの瞳は、最初からいつもの慶次殿の…


心を許してくれている──自分の前で見せる、あの──

そのことに安堵や喜びが生まれ、それだけ多く、慶次への罪悪感に苛まれる。


「いや…嬉しかったよ」

へへ、と慶次は笑い、


「初めてお前が、俺にタメ口きいたな」


「う──…。もう、ないと思われまする…」


小さくなる幸村の頭を、慶次はいつものように優しく撫でた。


「うん、どっちでも良いよ。幸の声が聞けりゃ、何でも」


何も恥ずかしそうにしていないところを見ると、まるきり本気で言っているらしい。

気障にも思えるその台詞に、幸村はツッコミたくてもできなくなる。


慶次はバツが悪そうに、

「後で、かすがちゃんには謝っとくな」


とどのつまり、かすがにとって慶次はハナから幸村のボディーガードみたいなものだったのだろう。


「いえ…元はと言えば、某のせいで」
「いやいや。…あのさ、」

「はい?」

慶次は幸村を優しい笑みで包み込み、


「幸は幸だから。ね」


──シンプルな一言に……万感の思いを込めて。


その真実の気持ちを理解するのは、難しかったらしい幸村だが、

胸の奥で、あのときにもズキリと痛んだものが再び積もる。



(…また、だ…)


……本当に、これは一体何なのか。

気になるところではあるが、とりあえずのモヤモヤは消えた──



「そう…だ、慶次殿…」

と、幸村は手に持っていた袋を、慶次に差し出した。


「え?」

「開けてみて下され」

慶次は、戸惑いながらも中に入っていた物を取り出す。


「──これ」

それは、アニマル柄のストール。豹柄ではなく…


「店員の方に確認したのですが、チーターなのだそうです。男が着けても、オシャレだと…。慶次殿の趣味とは違うやも知れませぬが、…似合うかと思いまして」

「…わざわざ、俺に…?」

「これだと、政宗殿の豹と区別がつくのではと──っ?」

…またもや、慶次からの抱擁。
今度は、至って軽いものだったが。


「ありがとう!すっげぇ嬉しい!うん、ホント格好良いし、超気に入ったよ。文化祭、絶対着けるな!…ずっと大事にする」

「良──かった…」


すぐに離され、満面の笑顔を目の当たりにすれば、幸村も本当に報われた気がして心から微笑んだ。


「…今日は、これをやった甲斐があり申した。それを見たとき、某も『おお、これは!』と思い」

「……。──てか、お金使わせちまったな。これ、高そうだし…」

「いえ!案外そうでも──あ、いや、そんな安物ではないのですが、その…」

あたふたとなってしまう幸村を、慶次はずっと優しい目で眺めている。


「幸って、占い通り手先は器用だけど…不器用だよな」

「う…」

痛いところを突かれ、言い返せない幸村だったが、慶次は微笑んだままだ。


「けなしてんじゃないよ。俺は、そういうとこがすごく…」

その先は濁してしまう。


「慶次殿?」
「──…家まで送るよ」

唐突な言葉に少し首を傾げる幸村に、


「あっ!女の子扱いのつもりじゃなくてさ」

と、慶次は慌てて否定する。


「は…い」

幸村も、先ほどの自分勝手なヒステリーを思い、首をすぼめる。


家に帰り着くまで、かねてより望んでいた、映画の話で盛り上がった。

映画の割引券をもらった顛末を話すと、「油断も隙もねぇなー」と、慶次は顔をしかめていたが。

そんな彼の横顔を、幸村は少し見てすぐに視線を前に戻す。


今日一日で、少し──ほんの少し、だが。

…女子の気持ち、というものが分かったような。


彼が、女性に好かれる理由も。


自分は、強い男に憧れているが──それは、自らがそうなりたいため。

同じ強さを見ても、恐らく男と女では湧く感情は違うのだろう。


今日の自分は、そんな慶次の姿を見て、
…それで、本当に少しだけ──こういう感じなのだろうか…?と。


慶次殿の恋人になる方は、きっと幸せであろうな…。


──ああ。…だから、なのかも知れぬ。


幸村は、急に理解した。

慶次のこの優しさを味わうと、つい…欲張りになってしまうのでは。もっともっと欲しくなって。…それで、不安に。

昨日の話が、幸村にも目から鱗となった。


…もしかすると、かなりマスターできたのでは…?

──幸村の心は、さらに晴れていく。


今なら、本当に負ける気がしない…!

恥も何もかも、全てを取り払って本番に臨もうではないか。

体力は使わずとも、これが今までしてきた修練の中で一番キツかった。…それを、報いなければ。

当日、俺は俺でなく。
なりきるのだ、…「彼女」に。


いつもとは違う、静かに燃える炎を胸に、新たな闘志に打ち震える幸村だった。







*2010.冬〜下書き、2011.8.15 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

どんな文化祭ですかってね…(^^;
何か可愛い気がするですよ、星座の動物、角とか。占いが好きだった小学生の頃、そういう擬人化のイラスト見て、可愛いな〜とひたすら思ってました。
高校生がこんなコスプレする文化祭、行きたいです。

占い詳しくないのに、あんなんしてすみません。私の勝手なイメージです、皆の診断は。

ファッションセンス、スルーでお願いします(^q^)幸村なら何でも素敵に;

慶次は気付いてないですね…。
女の子扱いされて怒ったんだな、としか思ってないです。
抱き締めたのは、つい。泣く子にするみたいなつもりらしいですが、人目のないとこに行くあたり、もう本能が…。


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