見えない調味料6
幸村が帰った後、佐助はゆっくり風呂を浴び身も軽くなったところで、元親に電話をかけてみることにした。
慶次へは、幸村が夕飯を作ってくれている最中に礼のメールを入れておき、一応、政宗と元就にも。二人からは口さがない返事があり、苦笑いしたものだが。
元親は数コールで出て、
「──おう、無事かぁ?」
「お陰さんで〜」
見舞いの礼や、幸村に夕飯を作ってもらった話などをすると、
「…大した展開はなかったか。まぁ、んなすぐはねぇよな…」
「え?何が?」
「あ、いや。何でもねぇ」
何やらブツブツ言っている。
だがそんなことより、佐助は元親の声を聞く内にさらに落ち着き、もう客観的に思えるようになったあの夢を話してみる気になってきた。
初めの夢の、『サヨ』という名前に、何故かひどく驚いていた元親だったが、その内容のベタっぷりと、『ナル』と『マサミ』に大ウケし、「俺も見てみてぇ!」と、大爆笑である。
そこまで笑ってくれると、佐助もますます大したことではないと思えてくるので、助かる一方だ。
そして、次に見た夢では佐助と同様、その細かい設定などに呆れた反応を示す。
「なぁ、悪ぃけどよ…」
「ん?」
「お前…大して変わんねーぞ?その夢の…お前と」
「──へ?」
元親は再び爆笑し、
「いやいや、マジで!自覚なしか、おい!常に、『旦那旦那』ってよー…」
「や、でもさぁー?あんっな気持ち悪くはないっしょ?匂いフェチとか独占欲とか、ヤバ過ぎ。旦那に言い寄る男、全員消す的な。
旦那は無垢で純粋で──とか、何か理想?の塊にしてるとこもイタいし。や、夢の旦那もホント純粋なんだろうけどさ。
で、それ守るんだとかって言いつつ最終血迷うしね。…ホント、何なのって感じ」
「いやー…それ、そっくりそのままお前に言いてぇ」
「…親ちゃん?」
黒い冷気が伝わったのか、元親は慌てて、
「そう──だな。…うん、お前とは違うわ、やっぱ」
「でしょ?」
「…何っつーか、まぁ…。──でも、言うほどひでぇとは思わねぇけどな、俺は。ただ単に、幸村のことが好き過ぎて……幼なじみだから、気付いてなかっただけなんだろ?恋愛感情だってよ」
「……え……?」
「夢佐助は、女幸村に惚れてたんだろ?バカだから、分かってなかっただけでよ。だから、別におかしいわけじゃねーよ。キスしたくなったくれぇ」
「──は…」
…何故か、頭をガツンと殴られたような錯覚に陥る佐助。
返答に詰まっていると、
「あー…夢の中の、お前の話な?てか、そういう仕様だったんじゃねぇのか?『サヨ』編も、バリバリラブコメだしよ」
「あ──ね、…夢の、ね。…うん、ああ…なるほど、そういう──だから…」
元親は苦笑いし、
「なーに言ってっか、分かんねーけど…。ま、仕方なかったんじゃねぇ?んなことされちゃぁ、ムラッとしちまう…だろ。女幸村、なかなか大胆だよな」
「や…多分、無意識だろうけど」
「だからヤベーんだろ、きっと。わざとって分かってりゃ、こっちも構えられっけどよ…。その天然行動は、心臓に悪ィ──と、思うぜ」
あくまで一般論として、というところを、元親は主張する。
あらぬ疑いを持たれ、無自覚の嫉妬の被害に遭うのは、まっぴらごめんだ…。
「女幸村、可愛いんだろ?」
「うん。あのね、旦那より少し小っこくて、ちょい華奢で、少年ぽい…中性的な?でも、髪とか女の子らしくしたら絶対…アイドル顔負け──みたいな」
「本物と、ほとんど変わんねーじゃねぇか。昨日分かったけど、あいつ結構女顔だったもんな。ぜってー怒るだろうから、言わねぇけど」
「うん…」
「だから、仕方ねぇって。お前──夢のな──のせいだけじゃねぇよ。気の毒だが、そのつもりはなくとも誘っちまった女幸村も悪ィ。…んで、後の展開は、驚く相手に愛の告白──が、正しい。その衝動は欲情っつっても、それがゆえのヤツだろ…」
「──そっかぁ…なるほど。あれが、そういう衝動…」
「良かったじゃねぇか、疑似体験できてよ。…ま、相手が相手だから、喜べるもんじゃねぇのは分かるけどよぅ」
「うん、まぁ…旦那に謝る気持ちで、一杯だったし」
元親は再度ケラケラと笑い、
「ま、夢だ夢!気にすんな」
と明るくまとめた。
「それはそうと、お前がいなかったせいで、政宗が幸村にベッタリだったぜ?色々張り合うのはいつものことだけどよー…」
今日は、ほとんどが政宗の勝利に終わり、悔しがりムスッとなる幸村を、ニヤニヤして眺めていたり、「次は負けぬ」とか、「やはり政宗殿はお強い」などと言われ、悦に浸ったり…
勝負以外の時間では、何かと幸村の傍に行き、肩を抱いたり、ふざけて技をかけてみたり(しかも、密着するもの限定で)、髪を撫でたり、後ろ髪を弄んだり──
…それはもう、ものすごいじゃれっぷりだったらしい。
(──あのヤロー…)
もう二度と休むまい、と固く胸に誓う佐助であった。
「だから、それがそもそもお前──……や、いい」
元親はすぐに思い直したかのように止める。
キリの良いところで、「また明日」と、電話を切った。
もはや、佐助は完全に普段通りを取り戻し、早く明日が来ないかと待ちわびる気持ちにさえなっていた。
パソコンに向かい、久しぶりに父親へメールを入れ、ちょっと昔のことを思い出しながら、再びベッドへ入る。
今夜は夢を見ず、ぐっすり眠ることができ──
翌朝も早目に登校し、幸村たちをまたもや驚かせることになるのだった。
*2010.冬〜下書き、2011.8.15 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
慶次のためにも、わざと幸村一人で見舞いに行かせてみたアニキ。
佐助、相変わらず鈍いけど、少しは成長しただろうか…(・・;)
とりあえず、また執着心が募ったのは明らかです(^^)
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