見えない調味料4
「──うーわ、美味そう!」
テーブルに並べられた料理を前に、佐助は、世辞でなく言った。
クリームシチューに、シーフードと野菜の炒め物、サラダに和え物など…
「すっげー盛り沢山じゃん!旦那──」
その言葉にホッとしながらも、立ったままの幸村に、
「…帰っちゃうの?」
「いや…お前も早く休まないと」
「せっかくだから、一緒に食べてってよ!だいたいこの量、一人分じゃないし」
「…そうか?」
では、と少し照れたように、佐助の正面に座る。…かすがに連絡するのは忘れず。
佐助は、一品一品味わうように食べ、その都度、多大な称賛を披露する。
「大げさだぞ、佐助…。だいたい、お前の料理の方が何倍も美味いし、すごい」
あまりのベタ褒めに、もう止めてくれとばかりに、幸村は赤面していた。
「いやいや、マジで!!このシチューなんかさあ…」
「ルウだが」
「やっ、俺様のだってそうだけど?でも何か、全っ然違う…。ホントに何も手を加えてないの?」
「ああ…」
「不思議だなー…。どーやったらこんなに美味く…。──あ!」
「ど…どうした?」
突然声を上げた佐助に、幸村は目を丸くするが、
「しまった…忘れてた」
「…何を?」
佐助は悲しそうに、
「撮んの忘れてたぁー…旦那の手料理」
と、ケータイを見せ、片手で顔を覆う。
「──は…?」
…さすがの幸村も、呆気にとられるばかり。
「あっ…違、これは、その…っ」
焦った佐助は、上手い言い訳が思い付けず、母親のことを話すしか手がなかった。
すると幸村は、
「──そうか。…良いお母上だな」
と微笑み、温かい表情で佐助を見た。
…佐助は何やら、猛烈にむず痒さを感じてしまう。
(何か、今日の俺様……ダメ過ぎない…?)
あんな夢を見てしまったからか、幸村への懺悔の気持ちが、未だに残っているのかも知れない。
…普通に接するのも一苦労だ。
「しかし、わざわざ登校せず、そのまま休めば良かったものを…。政宗殿や元就殿は、特に案じておったぞ?いつもの佐助らしくなかったと…」
「うっそ、あの二人が!?何て言ってた?」
「何だか、妙にお前がしおらしかったとか優しかったとか、逆に怖いとか気持ち悪いとか──とにかく、早く治って欲しいと」
「旦那、それ全然心配されてないから」
いっそ清々しい笑顔になる佐助である。
「……」
幸村は、無言でそんな佐助をじっと見つめていた。無意識なのだろうが…
その──何とも言えない威圧感に負けた佐助は、観念したように、
「えーと…。どんだけ打たれ弱いお子様ですか、…って感じなんだけど」
「…うん?」
「とてつもなく──変な夢…見て。皆出てくんだけど、現実と全然違うヤツで…何か、怖くなって。…で、確かめに」
幸村の驚く顔が目には痛いが、佐助は続けて、
「あー、皆俺様が知ってる通りの奴だったー…って安心したら、急にしんどくなってさ…眠気で。──んで、早退しちゃった」
「夢か…」
だが、幸村は呆れたりせず、
「ならば良かった。…実際に、嫌なことなどがあったわけでは…ないよな?」
佐助は、顔に出さなかったが、心の中ではまたもや驚いていた。
…彼と出会って以来、これを何度体験すれば、気が済むというのだろう。
どうしてこの人は、いつも自分の考えを裏切るのか。──それも、必ずこの心を、温かく……揺さぶるように。
何故、そんなにも優しく思えるのか。…自分とは、あまりに違い過ぎる。
そう、慶次や元親たちのように…彼も、真の思いやりを持つ人間──ということは、よく分かっていた。
…分からないのは、彼の場合だけ……そうされると、どこまでも満たされ歓喜する──自分自身のことである。
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