見えない調味料1


孫市かすが元就幸村佐助元親

政宗、慶次は台詞なし脇役。

前回の翌日です;

ほとんど佐+幸、最後、佐+親が少し。













学園までの通学路で、幸村とかすがは、偶然元就と孫市と一緒になっていた。

他の生徒たちの目を気にしながら、コソコソと小さな声でコンテストの話をする。


「明智に借りた、あのカタログ…すごいんだ」

孫市が至って真顔で、

「本当に色々あってな。男装用の、胸を潰すための下着──なんてのもちゃんとあって」

「へえ…すごいな」

かすがも興味津々である。
もちろん、幸村は聞こえない振りだ。


「しかも、着けても苦しくない作りらしくて、写真見るとすごく自然なんだよ。むしろ、胸板厚くなって格好良い」

「ならば、それも注文だな。やるからには、完璧を目指さねば」

サラッと会話に入る元就。

「シークレットブーツもあった」
「では、それも」
「毛利、本当に衣装二つイケそうか?」

かすがが、念を押すように元就へ問う。


──昨日、あのカタログを真剣に見て候補を選んでいたクラスメイトたちであったが、二人に着てもらいたいものが多すぎて、最後には紛糾し出す有り様。

もちろん、他のクラスとカブるものは避けるわけだが。もしカブらないのであれば、これとこれはどうしても見てみたい!という二種類の衣装を見せられた元就は──


『…今年は、衣装二着にして…時間も延長させれば良い』

とキッパリ言って、さすが敏腕生徒会長様!などと、その場を大いに沸かせた。


「洋服の方な、幸村この地毛でいこうかと思うんだ。結構伸びてるからさ、こう…アレンジしたら」

かすがが少し興奮気味に言うと、


「ああ、良いな。似合うと思う」

孫市も目を細める。


「もう一つのは、明智に借りよう。やっぱり黒髪ストレートが合う」
「そうだな…。あと、ブーツだけど」
「いや、それも大丈夫。可愛いけどサイズの大きいヤツがあるんだ。ヒールは低くてぴったりの見つけたよ。真田は足、何センチなんだ?」
「ああ、えっとな…」


幸村は、いつもより盛り上がる女子二人を感心するように見ていた。

いつもなら鶴姫もいて、彼女を中心に華やかな展開を見せる三人。
クールでどちらかというと男っぽいこの二人も、やはり地は女子なのだなぁ…としみじみ思ってみたり…


「そちらは任せて大丈夫そうだな。何、我に不可能はない。ルール変更のことは心配するな」
「頼むね」
「こっちは二人を、歩き方とか表情とか、完璧にしとくから」

うっ、と心の中でなる幸村だが、昨日の誓いを思い出し、(これも試練…!)と己を奮い立たせる。


後は、他愛のない話をしながら教室に入った。

幸村たちはいつも早いので、だいたい一番乗りであるのだが…


「…佐助!」

驚いたことに、普段は人並みの時間に来ている彼が、一人席に座っていた。

幸村の声に、「あっ…」という表情で立ち上がる。


「おはよう!今日は、随分早いのだな?」
「お…はよう、皆…」

佐助は、何か眩しいものでも見たかのように、目をパチパチさせて、孫市以外の三人を見比べる。


「…どうした?」

キョトンとする幸村だが、他の二人はどこまでも訝しげになる。


「ああ──良かった…。皆、大丈夫だ…。かすがちゃん女の子だ…小っさいし、美人だし…」
「…はぁ?」

あまりにも小声の呟きなので、他の二人には聞こえていないが、聴覚の優れたかすがの耳には、バッチリ入り込んできた。


「お前、私のこと男だと思っていたのか?」

ジロッとなるかすがに、佐助は慌ててごまかす。


「佐助…何か…」
「えっ?」
「──いや」

振り向いた佐助のいつもの笑顔に、幸村は、


(…気のせいか…)


しばらく経つと、生徒が増えて賑わい始める。──政宗が来ると、佐助は珍しくも自ら絡んでいた。

席に戻ったかと思うと、バッグを手に、


「ちょっと職員室行って来んね」

と、出て行ってしまった。


そして、いつもの光景だが、遅刻寸前で慶次と元親が滑り込み、小十郎が入って来ても、佐助の席は空いたまま…


幸村は横目で後ろを見るが、元就の号令の声にハッとなり、少し遅れて立ち上がった。

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