パラレル4
明日は休みだし、カスガと一緒に泊まっちゃえばと提案したら、そうすると頷いてくれた。
カスガはメールでオッケーくれたけど、帰りが遅くなるみたい。
旦那は自宅でお風呂に入ってから、またウチにやって来た。
ちなみに夕飯は、何度聞いても飽きないけど、美味しいとか最高とか、佐助は天才だとかって褒めてくれた。
俺様、大感激!
髪の毛濡れたまま来るもんだから、しょーがないなーもーと言いながら、ドライヤーで乾かしてあげた。
シャンプーの匂いに混じって、甘くてとても良い香りがする。――旦那の匂い。
俺様が一番好きで、すっげー落ち着く最高のアロマ。
旦那は甘いものが大好きだから、きっと匂いまで移ったんだと、小さい頃は信じて疑わなかった。
俺様は甘いの苦手だから、頑張っても真似できないなーと残念に思ったことも。
だって、同じ匂いがするようになれば、旦那といつも一緒にいるような気になれるのに。
カスガに一度この話をしてみたら、すっごく嫌な顔――てより、蔑むような表情されたっけ。
何か、たまにカスガと就ちゃんが似てる気がするのは、そういうところかな…
ご飯のときから、旦那は大分いつも通りの元気を取り戻していた。
テレビのバラエティ番組を見ながら二人で笑ってたんだけど、その中で繰り広げられる恋愛ドラマもどきが始まると、何故か旦那が静かになってしまう。
コントとかって分かりきったものなら、旦那も破廉恥とか思わないはず…なんだけど。
「なあ……佐助」
「…んー?」
CMに入ったとき、旦那が何か小声で言いにくそうに喋り出したので、俺様はテレビの音量を下げた。
「今日、政宗殿と元親殿に言われたんだが」
「うん、何て?」
「私がな、ほら――あっ、この人!」
と、旦那はテレビを見て、「この人に似てるって。…似てる?」
それは、俺様も耳にしてたあの噂。
他の奴らだけでなく、まさかあいつらも思ってたなんて。
「あー……どう、かなあ」
これは、正直な気持ち。――だって、旦那の方が、全っ然キレイなんだもん!
「だろっ?似てないよな?やっぱり…」
と言いつつ、旦那は作り笑いみたいなのしたから、
「…何?あいつらに何か言われた?他にも」
「あっ、いや!大したことは」
「旦那ー……?俺様に隠し事するなんて、百年早いよ?」
自分のことは棚に上げまくりだけど、俺様たちのこーいう力関係は、もう幼児のときから決まってたんで。
旦那は、モゴモゴ唸ってたけど、
「…顔とスタイルは似てるけど、――む、胸…っは、似てないな、って――」
顔を真っ赤に染め上げて、下を向いてしまった。
――何ソレ。
俺様は、旦那のTシャツの胸元をチラッと見た。
少し開いた丸首のヤツで、…綺麗な鎖骨が覗いてる。
俺様的には、そっちのがヤバいと――
……いやいやいや、しっかりしろ、俺!
そりゃ、旦那はあんま大きくないよ、そこは。
いや、年頃になってからは見てないから知らないけど。あくまで服の上からだと――
けど、それが何さ?この顔、このスタイル、それにこの性格!これ以上に、何が必要?
ってか、中身だけで上等だろ!
俺様なら、旦那がたとえ幼児や小学生でも、いや年上も過ぎる中年だろうがもしくは老人だろーが、最終性別すら関係なくリスペクトできるぞ、コラ!
……ってな暴走は、時間にするとほんの一瞬、俺様の頭の中でのみ発生。
「…んなこと言ったの、どうせ政宗でしょ」
「っ、ああ」
あんの中学生が!今度シメる。
「やっぱね。親ちゃんは守備範囲広いし」
「え?」
「…いや、何でも」
いつものように笑うと、旦那はまだ何か言いたげに俺様を見るので、促すように傍に寄ってみた。
「…でも、私も思ったんだ、佐助みたいに。――あんな、女らしい人に似てるわけがない。顔だって、ちっとも。私服だと、佐助とカスガたちといても全く違和感ないし」
「え――あ、そう…だね」
――どうしよう
旦那、どう言ってもらいたかったんだろう?
今までなら男に見えるって方が嬉しそうだったのに、何かこれ…ちょっと違う気が…
「だよな?――私、何で男に生まれなかったんだろう」
「まあ……ずっと言ってるけど、それが現実だからねえ」
「男だったら、佐助ともっと近付けたのにな。…何か、そんな気がする」
シュンとなるその姿に、俺様のハートはわし掴み。――まさか、旦那が同じようなことを考えてくれてたなんて…!
どこまでも舞い上がって行きそうだったけど、旦那の元気のなさはそれだけが理由じゃないはず、というのは忘れちゃいなかった。
「――ね、他にも何かあったんでしょ?旦那、分かりやすいんだから」
たっぷりと優しい笑みを向ける。
こんなやり取りを、過去何度もやって来たんだ。こういうときの旦那の口を割らすのなんて、朝飯前。
旦那はすごく居心地悪そうな顔をしてたけど、本当に溜め込んでたらしく、その重そうな口を開いた。
「今日…その。――告白……と言うか。その……されて」
「え――」
情けなくも、絶句してしまった。
――今日おかしかったのは、そのせいだったんだ…
…くっそ、もっと目を光らせとくべきだった。
一体誰だよ、んな命知らず。
どーせ、しょうもない野郎なんでしょ
「だ……れに?」
げっ、声震えた。…ダッサい。
でもそんな俺様には気付かず、旦那は恥ずかしそうに口ごもってしまう。
「あ、じゃ…さ。何て――言われたの?」
「う…」
頭にヤカンを置けばすぐにでも沸きそうなくらい赤くなって、
「ずっと……好き、だったって……」
――絶っ対、嘘だ!!
最近の旦那を見て、興味が湧いただけに決まってる!
何だ?その一途さアピール!やめろ!!
……けど、旦那にはこんな姿、見せませんよ?
「おー…熱烈だねぇ」
「…っ、でも、私こんなに女らしくないし!変だろう?絶対!…そう思って――『からかわないでくれ』って、叫んでしまった」
「そっかぁ…」
わーい、ザマーミロ。
「そしたら、『からかってなんかない』って、逆に怒鳴られた。…私、驚いて。いつも優しいのに」
「………」
[ 16/114 ][*前へ] [次へ#]