パラレル3


「カスガ、今日も先に行くのか?」
「ああ、今日は委員会の用事があるから」
「そうか…大変だな。無理はするなよ?」

旦那の心配そうな顔に、カスガは微笑し、


「ありがとう。――じゃな」

と、格好良く駆けて行った。
チラッと、俺様にも目をくれて。

本当は優しい奴なんだけど、朝が弱くて、俺様の顔を見るとさらに血圧が下がるんだとか。
昼過ぎには、普通並みの態度にはなってくれる。放課後、三人で帰ったりもするし。

旦那を守ってるってとこは、一応認めてくれてるみたい。



――だけど……



俺様は、気付かれないよう旦那を横目で見つめる。



……最近は、髪型とかでごまかすのにも、ちょっと無理が出て来たかも知れない。


旦那を男同然に扱ってた奴らの見る目が、この頃どうも――今までのものとは違う気がするのだ。
旦那が、モデルの何とかに似てる、とか噂されてるのも耳にした。

若干、焦りを感じるこの頃…。


あー…何で旦那、女なんだろ。
本当に、男だったら良かったのに。


「――あ」

ポトッと、下駄箱から封筒が落ちた。「参ったね〜。まーたもらっちゃったよ」

困ったように旦那へ見せると、


「佐助はすごいな、本当に」

嫌味の一つも言わず、心からの笑顔。
いやぁ、照れちゃうね。


「あ…」
「旦那も相変わらず」

はは…と旦那は少し頬を染めて、俺様と同じく入ってた手紙をバッグに入れた。
瞬時に盗み見たそれは、可愛いピンクの封筒に、キャラクターのイラスト入り。

今でこそ収まった方だが、旦那は下手したら俺様よりももらってるかも知れない。

…同じ、女の子たちから。

共学なのにこの現象とは、さすが旦那だと言わざるを得ない。


「旦那、今日も一緒に帰られる?」
「ああ!待ってるからな」

残念ながらクラスは別なので、朝はお別れ。
今から放課後が楽しみだ。


――授業は、たちまち終わっていく。



「ねーねー今日さ、ラブレターもらっちゃった」

昼休み、屋上で友人たちとご飯を食べながら、俺様は早速自慢。

同じクラスの就ちゃんと、(羨ましいことに)旦那と一緒の政宗と親ちゃん。
カスガと同じの慶ちゃんは、今日は何か用があるみたいで不在。


「あっそ、良かったな。…ちゃんと読んだのか?」

皆一斉にウザそうな顔してくれたけど、実は優しい親ちゃんだけは、相手の子の心配をして言った。


「うん。放課後行かなきゃ。断るのも結構辛いよ」
「Ha、言ってろ!てか、俺らの前じゃ自慢になんねーよ」

まあ、それもそうなのだ。
はっきり言って、俺様の友人たちは揃いも揃って皆イケメン。


「今時、手紙でなんてね〜。そーいう古風な子って、やっぱり俺様みたいな真面目そうなのに惹かれちゃうんだろーね?」

「……真田にバラすか、色々と」

就ちゃんの一言には、俺様も即座に言ったことを取り消しました。


「真田と言やぁ、最近何か女っぽくなったよなー」

政宗が嬉しそうに、「お前の知らねーとこで、彼氏とかできてたりして」

──この程度の挑発に乗るような俺様はいない。


「そりゃ、あり得ないね。ほとんど俺様と一緒にいるんだから。見逃すわけねーじゃん」
「分っかんねーぜ〜?てか、あいつに惚れてる奴ぁ絶対いんだろ」

親ちゃんも、面白がるように加わって来た。


「女の子でしょ?」
「バカ、今の話ちゃんと聞いてたのかよ、お前」
「お前が考える以上に、真田は目立っているぞ」

就ちゃんまで。…え、何?
何で皆して、そんな俺様が嫌がること言うの?

「てっかよー、お前は意識したりとかねーの?俺は、それが常々不思議でならねえ」

親ちゃんが、腕を組みながら俺様を見る。


「意識?何を」
「何って、真田を」
「旦那を?」
「…だから、女として」
「旦那は女の子だよ?」
「――……」

ダメだこいつ、とか言われ、それから三人は旦那については触れようとしなかった。

俺様も馬鹿じゃないから、本当は皆の言わんとすることは分かってたんだけど。
で、きっと皆も、俺様がわざと知らない振りをしてるって気付いてただろうけどさ。

……だって、俺様は旦那の嫌がることなんてしたくないから。

旦那は本当に純粋で、そういうのはまだまだ無理って思ってんだもん。
てか、俺様なんて旦那に不釣り合いもいいとこだし。


でも、幼なじみや親友なら許されるでしょ?



――放課後、ちょっと用事済ませて来るから待ってて、と旦那にメールして、手紙をくれた子へ断りに行った。

んで、早々に旦那のクラスへ行くと、



……いた。



教室で一人、俺様のことを待っててくれていた。

夕暮れ時になっていて、夕陽が旦那を紅く染め上げてる。
目も、髪も――旦那の全てを。





…すごく綺麗だと思った。





昔から思ってたけど、旦那には本当にこの色がよく似合う。

嬉しくて、でも胸が締め付けられて、…泣きたくなる。



「…だんな」

「――あ、……うん」


考え事でもしてたのかな?ハッとしたように、こっちを向いた。


「…帰ろう」

旦那はそれきり、家が近付くまであまり喋らなかった。
俺様の話に相槌は打つけど、ぼんやりして心ここにあらずという感じだ。


「旦那…あのさ」
「うん?」
「良かったら、今日ウチ来ない?俺様、何か作ったげる――旦那の好きなの」
「え…」

旦那は少し驚いた顔をしてたけど、すぐに俺様の意図を分かってくれたみたい。

昔から旦那が落ち込んだりしたとき、俺様は決まってそうするからだ。

旦那とカスガには両親がいなくて、二人暮らし。
すぐ近所の俺様の家によく招いては、主に旦那を餌付けしていたのだ…

旦那はおずおずと、


「じゃ、頼もうかな…」
「うん」

そうと決まればカスガにメールして、了承を得ておく。


作ってあげたのは、ハンバーグにグラタンと、カボチャのスープや彩りサラダ。
昨晩作った里芋の煮っ転がしも、ひょいひょい旦那の口に消えていく。

しかも、こんなときのために、お菓子の用意も常に万端!

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