両家にて2
【伊達家】
「――小十郎、ちょっと良いか?」
風呂上がりの一杯をリビングでやっていると、政宗が声をかけてきた。
(…来たな…)
ようやく、と小十郎はホッとする。――帰宅してからずっと浮かない顔をしていた彼を、一体どうしたのかとかなり気がかりであったので。
彼の母親が出て行った日は過ぎたとは言え、この時期の匂いは、まだその傷に障る…
「どうなされたので?」
極めて自然な態度で見返すと、政宗は、小十郎の前に三枚の写真を並べていった。
「?」
何かと目をやれば――それぞれに、タイプの違う若い女性が写っている。
「……これが?」
意図が分からず、小十郎は窺うように尋ねた。
すると、政宗は何故か満足そうになり、
「OK。……お前、この中で誰が一番イイと思う?」
「――は?」
何の話かと思えば…
小十郎は、もう一度写真を手に取った。
一人目は、明る過ぎない茶髪のボブスタイルで、彫りの深い…と言うのか、目がハッキリしたかなり派手な容姿。
カメラに向ける笑みは、慣れているとしか思えないほど艶がある。
二人目は、黒髪ミディアムストレートで、和風なスッキリした顔立ち。一目で周りの注目を集めそうな、清楚なお嬢様という感じだ。――ただし、笑顔はない。
三人目は…
「これは――怪我でも?」
その彼女は、右側の目から上を包帯で覆っていた。
漆黒のロングヘア。…左目は、髪に負けないほど、濡れたような黒が魅力的な――
流し目に加え、こちらもしっかり自身の美貌を理解しているような、完璧な表情である。
「Ahー…こりゃ、コスプレみてーなもんだ。他に、良い小道具なかったからよ」
「はぁ…」
小十郎はよく分からない顔をし、
「政宗様のご友人ですか?…特に親しい…」
(まさか、どれを本命にするかの相談…?)
「ちっげーよ!…こないだのことなら、夏期休中に全部ケリ付けたっつったろ?だいたい、俺がこいつらなんかと付き合うわけがねぇ!お前、怖い発言やめてマジで」
「は……あ」
(何だ…?とてつもなく、性格が悪かったりするのか…?)
小十郎は、不可思議な気持ちで再び写真に目を落とした。
「――よし、質問を変えよう」
政宗は咳払いし、
「…幸村に似合うのは、三人の中のどいつだ?」
「……はい?」
意外も意外――幸村に、紹介しようという気なのだろうか?
しかし、自分が嫌がる相手を、何故…
「なあ、こんなケバい女は問題外だよな?」
政宗は、一人目の彼女の写真を端に寄せ、
「こいつもよ…愛想ないったら。幸村にゃ、不釣り合いだろ?
あの、クソ真面目でほわほわしたような奴には、こういう…一見クールな美人だが、惚れた相手には結構情熱的で、リードしつつも男を立てるみてぇな女がピッタリだろ」
「それが…彼女?」
包帯女性の写真を、まじまじと覗き込む。
「ちなみによー、小十郎のタイプはどれだ?…こいつか?」
政宗は、ニヤニヤと茶髪の彼女を推してくる。
(……)
小十郎は、しばらく考えて、
「選べませんな。…写真だけでは、どうも。案外…中身重視ですので」
「チッ、面白くねぇ…そこまで考えんなよ」
政宗は苦笑いし、「ま、良い答えだったかも知れねーけどな」
「?」
「だってよー……こいつら、男だし」
「――え」
さすがに目を丸くする小十郎。
「すげーな、マジで。そんなに分かんねえのか…。髪型の違いもあるんだろーが」
「………!?」
小十郎はバッと写真を取り、あの彼女を、今度こそ穴が開くほど見つめた。
…目の前の彼と、何度も見比べて。
「まさか…」
「結構、イケてるだろ?」
ニヤリと応える政宗。
「すると、この二人はもしや」
「佐助と元就。早速現像してみた」
「何と…」
感心したようで、また呆気にもとられた小十郎の顔に、政宗は笑いが止まらなくなる。
「な、すっげーだろ?俺らも、相当ビビったもんだぜ!特殊メイク並みだよな」
「確かに…。――しかし、またどうして?」
「Ahー、あのな…」
政宗は、放課後のことを話して聞かせた。
一応、協力者のことと、誰が代表者になったのかは伏せておく。
審査員である教師たちは、たとえ誰が出場するのか知っていても、コンテスト本番ではランダムのエントリーナンバーで登場するので、元の顔が分からない限り贔屓などできないに等しい。
さらに言えば、その結果によって彼らが損得をすることは何もないので、毎年公平な審査にはなっている。
むしろ、今回は自分のクラスが勝利すれば、スキー研修を引率せねばならないので、普通ならあまり嬉しくもない。
「楽しみにしてろよ?お前もスキーに連れてってやっから」
――実際には、立場が逆になるのだが。
しかし、もうから自信たっぷりで楽しげに言う政宗に、
「はい。…期待しておきましょう」
と、小十郎は内心の苦笑を見せず、柔らかく微笑むに留めた。
「だけどよ、マジで狙ってくれても良いんだぜ?ほら、こいつら」
政宗は不敵に笑い、他二人の写真を指す。
「政宗様…」
たちまち呆れた表情に変わる小十郎。
「ライバルが減るに越したことはねえ。――てかよ」
自分の写真を取り、「俺が女で、あいつが彼氏っつーのもアリだったよな…」
「……政宗様?」
至って真顔の政宗に、小十郎の眉が不安に歪む。
政宗は軽く笑い、
「んな顔すんなよ!心配しなくても、取ったりしねーから」
「……(何を)」
やはり、教育方針が間違っていたのかも知れない…?
小十郎は、本能にどこまでも奔放なこの従兄弟を、改めて見つめ直すような目で眺めた。
そして、あの悩める顔の原因が、こんなアホらしいことだったとは…
心底呆れながらも、しかし取り越し苦労で良かったな、と結局は甘やかしてしまっている自分を苦笑した。
*2010.冬〜下書き、2011.8.14 up
(当サイト開設・公開‥2011.6.19〜)
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
しょうもないやり取り、すみませぬ;
家族ネタは何かやりたかった…(´∀`)しかしネタになっとらん。
かすがと政宗の捏造ひどくてごめんなさい。
政宗様はちゃんと攻めです(汗)
幸村好き過ぎて、思考の許容範囲がMAX超えたようです。
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