渦2




(それは、俺とて…)



これまでも幾度か、互いに言い合った言葉。

何故、改まったように…?と、佐助を見つめ直す幸村だったが、


「違う……そうじゃないんだ」

触れた手のひらの中で、ぐっと拳に変わっていく彼のそれから、ゆっくりと離れる。

──が、すぐに掴まれ、幸村は反射的にビクリと肩を揺らした。


「逃げないで…」
「あ…」


(違う、そんなつもりでは…)


細くなる佐助の声に、自分の反応をひどく悔やむ幸村。


「さす…」

「好きなんだ……旦那のことが。誰より──何よりも。ついさっきも、また好きになった。気付く前から、ずっと。気付いてからは、毎日…一分一秒、増えてく。すげぇ……幸せだよ」

初めの方こそ少し震えてはいたが、後になるほど、しっかりしてくる佐助の語調。

真実であると、証明してみせるかのように。


「幸せだよ……旦那といると、本当にいつも。俺も、旦那が笑うと、めちゃくちゃ嬉しい。ずっと、そういて欲しい。だから、悩ませたくなかったけど、でも…」


(佐助…が…)


幸村は呆然と、変わらず自分から視線を外さない佐助と、掴まれたままの腕を見比べていたが、


(この、…瞳は…)


光のせいではなかったのか、と理解した途端、

──多大な熱が、全身を駆け巡った。


(…つ、まり…佐助が、言っているのは…)


それきり、身体の方は、ピシリと固まってしまう。



「…どーしよ」

佐助は、咳払いをするときのように、軽く握った手を口元に添え、

「想像以上…──他人のこと言えねぇかも、俺様…」


「ぇ…」

幸村も、やっとのことで声が出せたのだが、


「あ…近付かない方が良いよ?俺様、何するか分かんない」

「な…?」


佐助は、困ったように笑って、

「だって旦那が、とてつもなく可愛いんだもん。…参った」


(──!?)


「さぁッ…すけ…っ」

思わずのけ反る幸村に、変わらず、佐助は微笑を見せる。


「ああ…えっと…。旦那は、格好良いよ?男らしいし。可愛いってよく言う周りの奴らの目には、旦那がどんな風に映ってるか知らないけど、俺様は…」

うん、と頷き、

「自信持って言えるな、それ以上だって。…旦那が、可愛くてたまらない…その存在が。旦那そのものが、愛しい。まるごと好き。全部好き。どうしようもなく好き。…大好き…」


「───」

再び、声を失ってしまう幸村。


「知らなかったよ、こんな…。親ちゃんが言ってたのは、本当のことなんだ。俺様、初恋もまだだった。『好き』って、単なる挨拶みたいなもんだと思ってた。すげぇ馬鹿だよね…ついでに、最低」


(………)


「…ありがとね、教えてくれて。…で、旦那にも教えたい…この気持ち。他の誰でもない──この、俺が」


佐助のいる位置は、ずっと変わっていない。
…なのに、さらに近寄られた気がしてならない幸村。


何か言わなければ。──しかし、一体何を?

頭の中から、様々なものが氾濫しそうになる。


「必ず幸せになるよ、『ここ』なら。だから、選んで……この俺を。──大事なものが、他にいくらでもあったって良い。旦那が大事なものなら、俺もそれを守る。ただ…」

佐助は、幸村の胸の辺りに手をかざすと、


「そこに、俺を…いつもいさせて。誰より、一番に」


と、笑った。

初めて見る、哀しい笑顔。


再び見覚えがある気がし、幸村は、喉の奥から胸へと伝っていくような痛みを感じた。













「ギリギリ間に合って良かった」

ケータイの画面を確認し、佐助が息をつく。
年明けまでは、まだもう少しあるという時刻。

佐助は、幸村のマンションの下まで彼を送り届けていた。


「佐助は、一人で年越しか…」

「ああ…でも、明日の夕方には父親帰るから。外食三昧してやるよ、すげぇ高いとことかさ」

普段自炊している分、それが何よりの楽しみであるらしい。

佐助の父親も、まとまった休みがとれたらしく、冬休みが終わった後も数日いられるとの話。


「じゃあね、旦那。良いお年を」
「佐助…!」

──その声に、佐助はギクリとする。

公園を出たときから、幸村がずっと思いつめた顔をしていたので…


「な…に?」

「あの、な…」

幸村は、どもりながら、「政宗殿──」


そこから先を止めるように、佐助は彼の前へ手を出した。


「佐助…?」

「………」

佐助は、一瞬苦しそうに顔を歪めたが、すぐに笑顔になり、

「政宗と同じくらいは、俺様のことも考えてみてよ。いきなりフラれんのは、俺様でもキツいな…」

「え…?」

「あいつが一番有利だってのは、分かってるよ?旦那が、あいつのこと…ちゃんと考えてんだろうなってことも」


(佐助…)


「だけどさ、よく…考えてみてよ。旦那が、ずっと一緒にいたいのは、誰なのか。誰が、旦那を一番想ってるのか」


「あ、あ…。…お前に、最初に言おうと思っていたのだ。政宗殿の…」

──だが、佐助の出した手が頬に触れ、幸村は沈黙した。


「お願い旦那。今だけは、その名前口にしないで。…俺だけのことを、考えて…」


「………」

切ない声に、幸村はまたもや自責の念に駆られる。


「す…まぬ…」
「ううん。こっちこそ我儘で…ごめん」

「そんな…」

本格的に落ち込みそうになる幸村に、慌てて佐助は、

「ホントごめん…っ。今だけの話だから。苦しめたくなんかなくて、逆だからさ…気持ちを言ったのは」

と、照れたように笑った。


それを見ていると、幸村の不安な色も薄まっていく。


「…じゃあ、また来年」

「ああ、お父上によろしくな…」


最後は、二人とも静かな笑顔で別れることができたようだった──。

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