渦1
※佐助→幸村
彼なりに頑張る佐助。
幸村も、頑張って色々考えようとしてます。
乱文散文・珍妙な展開、失礼(@_@;)
(──そういえば、どこで話を…?)
幸村は、前を向き黙々と歩く佐助をチラと窺う。
自分なら、この寒空の中いくらでも我慢できるが、佐助は…。
(佐助の家だろうか?)
しかし、どちらかと言うと、幸村の家に近い道筋を行く彼。
「…かすがちゃんに電話しといたけど、年が明けたらごめんな?帰り…」
「いや、気にしないでくれ。俺からも言っておいたし、うちは三箇日が明けてからが、本番のようなものであるゆえ」
「うん…ごめん。もうすぐ、あったかいとこに着くから」
佐助は再度謝り進むのだが、幸村は彼の白い顔こそを温めてやりたくて、仕様がない。
血の気を失うほど…
──相当に緊張している。
彼をそこまでにさせる話とは一体。
…と、こちらも身を強ばらせてしまう。
「政宗に、何か用だった?」
「え?」
「や、さっき呼び止めてたから」
「ああ…」
自身の緊張をほぐすためか、ごく軽い調子で尋ねてきた。
「舞を観た際に…政宗殿の顔が浮かんで、苦しくなった」
「…そう」
己の気持ちがスルリとこぼれ、幸村は自分でも驚くが、
「こ、『恋』が題材の…。だからだと」
「そっかぁ…」
予想に反して、柔らかく返す佐助。幸村は、内心どこかホッとする。
「…前なら、旦那のことそんな苦しめて──って、ムカついてたところだろうけど、…俺様も、分かったからさ」
「分かった…」
「うん」
佐助は微笑むと、
「ごめんね、旦那。俺様の話も、旦那が一番苦手とする分野なんだけど。政宗の気持ちで悩むのが許されるんならさ…俺様のも、マジで聞いてくんないかな…」
「佐助…」
だからだったのか。…言いにくそうに、緊張気味であったのは。
相談したくとも、自分がいつもこのような体たらくであるから…
幸村は、またもや自身の無知さや幼さに、もどかしくなってしまう。
「さ、すけも……想う、相手が…?」
「──うん」
「………」
表しようのない気持ちが、一滴落ちる。
「──すまぬ」
「えっ?」
当然、佐助は驚き顔で見返すが、
「俺は、本当に鈍感だ…。いつも一番近くにいながら…気付けなかった。何と…」
何と友達甲斐のないことか。
皆が、己の程度に合わせてくれている。
それで良い、今のままの自分で良いと、誰もが言ってくれる。…だが。
──離れたくない。…対等でありたい。
ずっとそうだと思っていた佐助まで、行ってしまうなんて。
「旦那…」
「あ…」
無意識に掴んでいた佐助の服から、幸村は手を離す。
「…お前に置いて行かれるような気に…すまぬ。俺が、幼稚で…何も知らぬばかりに」
(佐助は、俺を頼ってくれているというのに、何を…)
「しかし、だからこそ聞いて…分かりたい。お前の力に」
「…もう、なったよ」
えっ、と顔を上げると、嬉しそうに笑う彼の顔。
先ほどまでの蒼白さは消え、頬は健康的な色に戻っている。
「旦那は、本当に俺様思いだよねぇ」
クスクス笑うが、からかう口調ではない。
細めた目で返してくるその視線に、一瞬見惚れてしまう。しかも、
(どこかで、見たような…?)
「もう、すぐそこだから」
「あ、ああ」
気付かされたように頷く。
(…少しでも緊張を和らげられたのか)
そう思うと、幸村の焦るような心情も、同じ分だけ消えた気がした…
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「おお、本当に温かいな」
「でしょ?」
向かいに座った佐助が、上や周りを軽く見渡す。
二人は、ある公園の中に建つ小屋にいた。
あずま屋にしては立派で、壁もしっかりした造り。冷気は入口からしか入らない。
床の中央に照明が付いており、その光が部屋の温度を上げているようなのだ。
エコエネルギーで、常夜点灯しているのだとか。
「さすがに、誰もいないな」
「…うん」
家からさほど遠くないところに、こんな場所があったとは…と、幸村は物珍しげに外を見ていた。
「あのさ…旦那が悪いだなんて思う必要、全然ないからね。自分の気持ちに気付いたの、本当に最近のことなんだ。…だからさ」
「そ、そうか…」
それを聞き、肩の力が大分抜ける幸村だった。
「今さぁ、一番したくない奴…超尊敬してるわ。こんなに──怖いんだ…」
佐助は苦笑し、
「言うの、すっごい楽しみだったはずなんだけどなぁ。…おかしいよねぇ」
「佐助…」
(何故、そのような顔を…)
──それは、嫌だ。
…どうしたら解消できる。
どうすれば、いつものような笑顔に戻れる…?
「旦那…」
「………」
幸村は、佐助の隣に座っていた。
そして、予想通り冷たくなっている彼の手の甲に、軽く触れた。
「怖いことなど、ない。俺は何があっても、お前の一番の友だ。お前の想う相手がどんな方で…どのような事情であろうと、決して見損なったりしない。嫌ったりしないし、離れもしない」
「………」
「俺が、嫌だからだ。…お前が笑ってくれると、俺も嬉しい。お前は幸せでないと、駄目だ。そうなるべきなんだ…」
もっと、違うことを、説得力とともに言うつもりだったのに。
幸村は眉間に皺を寄せ、己を恥じるが、
「──今、あり得ないくらいドキドキしてる」
その一言に視線を上げると、すぐ目の前に迫った、整った顔。
…瞳がいつもと違う色に見えるのは、下から上がる光を浴びているせいか。
『大丈夫だ』と、それを静めてやりたかったが、…何故か言葉が出て来ない。
「旦那が傍に来たから。…あったかい手で、触ってくれたから。俺の大す──」
(…え?)
急に止めたかと思うと、佐助は小さな呼気を一つもらし、
「…好き……なんだ…──旦那」
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