決別5
「いやぁ、皆よく働いてくれるねぇ」
「本当、テキパキしてるし、力持ちだしで」
「お嬢さん、良い人材を寄越してくれたよなぁ」
幸村たち裏方四人組を見る度、口々に称賛する神社の関係者たち。
全員笑顔で、
「いーえー、それほどでも!」
──働いて給料を頂く身でありながら、気持ち良くまでしてもらい、士気はますます上がるというもの。
チラリと耳にしたところ、売り子の三人組も、朝からずっと、売り上げを伸ばし続けているらしい。
鶴姫には、毎年通いつめるファンたちがいるとかで、元親曰く、自分の舎弟たちの中にも、何人かが入っているのだということ。
ちょっと覗いてみたくもあるが、売り場とは離れているので叶わない。
休憩時間も、全く違っていた。
今は、本格的に忙しくなる夜に備え、軽い食事をとるよう与えられた、夕方の小休止。
「片付けて参りまする」
他の皆が止める前に、幸村は全員が空けた弁当のパックを持ち、席を立った。
「働くねぇ」
休憩室として使っている部屋から、外へ消える幸村を見送り、彼以外の三人は苦笑する。
「──そういやさぁ…就ちゃん、振られたんだって?」
「あー…」
「まぁ…、本当の気持ちを言ったわけじゃねぇみてーだけど。何か、そんな感じらしい」
「そっかぁ…」
佐助は神妙な顔になり、
「やっぱ…そういう意味でも好きだったんだ…」
それで、あの夏の日、
『その気持ちは、自分と同じようなものか、それとも慶次のと…?』
という佐助の質問に、『他人にも自分にも鈍感な奴め』と、返したのだ。
結局、佐助も慶次も同じ気持ちであり、元就も…という意味が含まれていたのだろう。
「でも、今も大して変わってないけどね…旦那への態度」
「そんなすぐは無理だろ?──てか、あいつはずっとあんな感じだったみてーだから、あのままなんじゃね?」
「そうなんだろうな」
慶次も、呟くように言った。
「つかさ、俺様今日言うよ」
「何?」
元親も目を向けるが、佐助は慶次だけを見ていた。
…すぐさま、慶次の顔に緊張の色が走る。
「別に、わざわざ言わなくても…。邪魔なんかしねぇよ」
「や、言わなきゃ分かんないっしょ?二人きりにして欲しいからさ。政宗たちにも言った。二人とも、すっごい涼しい顔だったけど」
「…そっか…」
「──……」
…元親は、言葉を挟むことができそうにない。
「慶ちゃん」
「…何?」
目をそらせば、何かが瓦解してしまいそうな予感がする。
慶次は、どうにか視線を上げた。
「俺様もさ、真剣だから。…政宗と同じ。──慶ちゃんとも」
(………)
その表情は、男の自分でも見惚れてしまうほど。
…視線が固まり、そこから、一切動いてくれようとしない。
「お待たせし申した!これから、某たちは舞の宣伝の方へ…──どうされたので?」
シン、と張り詰めた空気を、戻った幸村が尋ねる。
「や、ちょっとヘバっちまったみてーでよ。お前は、まだまだ元気だよなぁ」
元親が笑うと、他の二人も幸村に笑顔を見せた。
「──では、佐助と元親殿、引き続きよろしくお頼み申す」
幸村たちの仕事の担当者がすぐにやって来て、彼と慶次を部屋の外へ連れ出して行く。
「…おー…ビビった。宣戦布告かぁ?」
「んな大層なもんじゃないよ」
佐助は、鼻で笑う。
「いやー…。おめー、ホントすげぇな。行動早ぇし、落ち着いてるしで──」
が、彼の表情に、元親の言葉は止められた。
「…落ち着いてたら、あんなこと言わない。ホント、わざわざ…」
寒さもそれを増長させるのか、色を失った両手を、互いに合わせたり、さすったりを繰り返す佐助。
…見ているこちらの方まで、胸が苦しくなる。慶次のことを思えば、さらに…
──元親は、ひとまずはその手から、目をそらすことにしておいた。
幸村と慶次が案内された部屋に入ると、どうしてか、鶴姫が待ち構えていた。
「ちょっと抜けさせてもらいました!売り場は、代わりの人に頼んであります。どうしても見たかったので」
「見たかった…?」
二人して、不思議そうな顔をする。
「ほら、これですぅ!」
と、壁に貼っているポスターを指す。
それは、祭りの宣伝用のもので、舞の写真が載っていた。
きらびやかな衣装や装飾品を着けた、二人の踊り手が写っている。
「へぇ〜…キレイだねぇ!なになに?どこで見られんの?この人ら、来てんの?」
慶次がキョロキョロすると、幸村もそれに倣う。
「今から見られるんですよ!本物の、舞台に上がるプロの方じゃないですけど」
と、鶴姫は楽しそうに笑うと、さらにその先の襖を開ける。
すると、そこには──
「これは…?」
二人して、目を忙しなく瞬かせる。
鮮やかな衣装が壁に掛けられ、畳には、帯や細々とした小道具。
待っていましたとばかりに、二人を「いらっしゃ〜い」と手招きする、お姉様やおば様方。
「えっ、何?どゆこと?」
「???」
面食らう慶次、そして、何が何だか少しもついて行けてない幸村。
「これは、レプリカの衣装なんですよ。お二人にはこれを着てもらって、舞の案内や宣伝をお願いしたいんですっ」
「え、…ええ…っ?」
「何とぉ…!?」
「着ぐるみと同じですよぉ。前田さん、こういうの着たかったんじゃないですか?」
「あ、や〜…」
慶次は頭をかきながら、
「レプリカとはいえ、神様の衣装なんだろ?てか、俺らみてーな高校生が着て良いの?」
だが、その顔は好奇心と期待に満ち溢れんばかりだった。
「そんなの関係ないですよっ。私が、前田さんたちに着て欲しかったんです!二人とも、髪の毛が長いし…イメージにピッタリです」
「確かに…。慶次殿には、似合いそうでござる」
──幸村の一言に、慶次のなけなしの遠慮は消えた。
そして、自分には似合わないと辞退を主張する幸村だったが、鶴姫と慶次の泣き落としの前では、即座に観念するしかなかった…。
‐2011.10.30 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
中途半端なとこで終わってしまい、すみませんm(__)m
メインの皆は、自分なりに疎かにしたくない…。すごく勝手な言い分で、上から目線ですが(--;)
本当は、他の全員も出したいくらいだけど。
早く終息させろとは思うのですが、どうしてもゆっくり、やり取りも入れながらしたいみたいで。というか、そうでないと進められないようです。もう、出来事の数は大してないのに、恐らく会話とか気持ちとか三昧になりそうな。
とても自己満足で、浸りきったような、寒いものが出そうです。が、もうそれで行くしかないと、恥を自覚しつつやっていきます。
…ご容赦
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