決別3




(………)


政宗も、ようやく元就の様子の原因を、何となく悟り、

「Ahー…知らねぇな」

「撤回してもらわねば」


(…お。まだ諦めてねーんじゃねぇか)

思わず、横目で元就を見下ろすが、


「あやつの初恋は、成就してもらわねば」

「Ah?──って、佐助の心配か?お前がっ?」

と、大げさに後ずさる。


「誰がだ」

元就は冷たく見返し、

「ではなく、幸村のだ。…あやつには、このような悲しみは似合わぬ…」


ああ、何だ…と、政宗は息をつき、

「安心しろよ。あいつのfirstは俺になるから、実る」

「──……」

途端に、白けた表情になる元就。いつもの、人を見下すような失笑をもらした。


「んだよ、マジで言ってんだぜ?」

「だからこそ笑えるわ。…お前は、実に大した男よ」

「全然嬉しくねぇ」

政宗がブスッとなると、元就は今度はその顔を和らげた。


「分かってしまった、…今度こそ確実に。あの瞳に、我は映らぬ。──この先も、決して」

「………」


元就は、着いていた柵から手を離し、

「今夜は飲む。お前の家に邪魔させよ」

と、バイクの方へ歩き出す。


「…っておい!小十郎いるっての!」

「部屋で飲めば、バレぬだろう。元親も呼んでやるか?」

「ま、まぁ…下僕は一人よりか、二人のが…──じゃなくてよ!」

「早く出せ、時間が勿体ない」


「──…OK…」

諦めたように、シートに跨がる政宗。

ヘルメットを被る前に、少しだけ後ろを向き、


「俺は、お前も結構男前だと思うぜ。…皆、羨ましがってんぜ?一番初めにあいつに会えて…何年も一緒に、色んなこと二人でやって。…まぁ一番はよ、あの妹だけど」

軽く笑い、

「で、俺のが断然男前だがな。…心配すんなよ。きっと、あいつの初恋は、あいつのことをすげぇ好きな奴──になるんだろうよ」


「お前か、あやつらか…という意味か」

「…孫市って可能性もあるな」

政宗が眉を寄せると、元就は意地悪そうに笑った。


──その晩は、とことん飲んだくれ、結局、朝方三人仲良く、小十郎に説教を食らうことになったのだが。

酔った勢いで、普段は決して見せない、元就の幸村に対する可愛がりようを、他の二人は心に留め置くことにする。(あまりにも別人じみていて、怖ろしかったため)

それが九割だとしたら、一割だけは、政宗に対して感謝の言葉を述べていた。
…それだけで、結構満たされた政宗は、知らぬ間に調教されていたのかと、少々ゾッとしないでもなかった…。













「旦那、おはよ〜」

「おはよう!今日も冷えるな、佐助」


白い息を吐きながら、佐助に近寄る幸村。


「しかし、立派な神社であるなぁ」


──目の前の、大きな鳥居を仰いだ。



やって来た、大晦日の朝。
今日は、鶴姫の家でもあるこの神社で、労働に従事する予定のメンバーたち。

バイトと言うよりは手伝いに近く、終わりが夜の十時以降であるが、小十郎も目をつぶってくれていた。
慶次も、いつものバイト先は休業日なので、特に問題なく参加できることに。


「上で待ってよ?ここ、寒いし…」
「そうするか」

現地集合で、二人が一番乗り。

幸村は寒さに強いが、佐助は見るからに耐えられなさそうだ。
そんな彼のため、幸村もすぐに頷く。

「佐助、早かったな」
「うん。旦那、絶対もう来てるだろうなと思ってさ。予想通り」
「何だ…気を遣わずとも、良いのに…」

「いやいや」

佐助は笑うと、「早く旦那に会いたかったし」

「…?」

幸村は、何か約束でもあったかな…と、首を傾げる。


「ちょっと、久々だねぇ。二人だけっての」
「?…そうだな…?」

嬉しそうに笑う佐助の横顔。
見ている幸村まで、同じような笑顔になってしまう。

「楽しそうだ」

幸村が、思ったままを口にすると、佐助は「うん」と答え、

「皆といるのも楽しいけど、旦那と二人は、もっと好き。旦那、独り占め」


「──……」

幸村は、絶句してしまう。
…次に、熱の上がる頬。


(そういえば、こやつはこういう奴であった…)


恥じらうことなく言う上、冗談ではないのだ。
もちろん嬉しいに決まっているが、不意討ちには幸村も弱い。


「こ…、子供のようだな、佐助…」

幸村なりに、からかうような調子でツッコむ。

「だよねぇ。親にも、こんなの言ったことないよ。恥ずかしい奴だよね〜俺様」

明るく答える佐助に、幸村は、『もう良いか…』と、考えるのを止めた。


「ねぇ、旦那」
「ん?」

佐助は、上着のフードに付いたファーに首をすぼめ、


「今日終わったらさ、ちょっと聞いて欲しい話があるんだ、…けど」

「話?」

うん、と頷き、

「長くなるかも知れないから、今は無理かなって。…二人だけでさ…」


何かの相談事だろうか?

どこか、言いにくそうに顔を固くする佐助に、一抹の不安がよぎる。


「──ああ、違う違う。心配させるようなことじゃないから」

幸村の心をすぐに察知したらしく、佐助は慌ててなだめた。


(ならば、良いのだが)


「…分かった。終わった後にだな」

幸村がホッとしつつ言うと、佐助も同様に一息をついた。


「ありがと。──あー…何か、緊張してきたぁ…」

佐助が苦笑すると、


「手伝いとはいえ、初めてのアルバイトであるものなっ。力仕事なら、大いに振るわなければ!」

両手の拳を、グッと握る幸村。

その純粋な思いと瞳の輝きを前に、全く違うことで緊張していた佐助は良心が痛んだが、


「…だね。いっちょ、頑張っちゃいますか」

と、にこやかに返す。


半ば願掛けの如く、本日の『お仕事』に精を出してみるかと、珍しく力を込めたのだった。

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