スキー研修B-5
──全部、自分の本心…
(…で、良いんだ……こんなに、ぐっちゃぐちゃだけど)
幸村くらいだろう、こんなのを『優しい』などと言ってくれるのは。
政宗のように、今だけを見て進めば良いのに。
幸村に、すがるような真似をして。…しかも、それで心の平穏を得てしまった自分。
──やはり、本当に情けない。
けれど、してしまったものは取り返しがつかない。もう、これで行くしかないのだ。
「………」
隣で静かに眠る幸村を、見つめる。
…夜が明けるまで、ずっとそうすることに決めた。
エレベーター前で会った際の、彼の白い顔を思い出す。
考えるだけでも、ゾッとする──もし、目を覚ましていなければ。
フロントから戻り、彼の部屋へ入ったとき、胸が掴まれる思いだった。
…元の肌色に戻った彼を見れば、何もかもが震えてきて。
せっかく、また会えたのに。──離れたくない。
失いたくない。…もう、二度と。
これは、警告か何かなんだろうか?
恋人たちの運命を邪魔する、自分への。
隣を得ることができなくても、生きている彼の近くにいられるだけで、感謝ものだろう、…って?
(かもな…)
しかし、それならそうで、下る度に自分が救えば良いだけのこと。
それをも凌ぐ身勝手さ。…だが、これが今の『自分』。
(苦しませるけど……ごめん)
政宗のことだけでも相当悩んでいるというのに、…さらに。
自分を選べと言うことは、ひどく辛い思いをしなければならない現実を、彼に突き付けるのと同様。
…だからこそ、何よりも優しく大切にする。
(ごめんな……本当にしつこくて)
そう心の中で詫びると、幸村の額に唇を寄せた。
好きだよ、と小さく呟いた後、布団に入り、勝手に手を繋ぐ。
温もりに安堵しながら、次にその瞼が開くまでの数時間、飽きることなく寝顔を見つめていた。
朝が来ると、幸村は慶次に言われた通り、きちんと『忘れて』いた。
「災難であったな、幸村」
「良かったぜ、慶次が偶然通って」
朝食のテーブルで、元就と元親がホッとしたように幸村へ言う。
朝早くに、慶次が小十郎へ事情を伝え、ホテル側との話も済んだ模様。
『慶次の部屋で温まり、その後自室で寝た』
…と、自然に話す幸村に、慶次は感謝していた。
「しっかし、あいつらだったら、えれぇことになってたぜー…そりゃ」
「フロント係は、号泣であったろうな」
佐助と政宗は、徹夜でゲームをしたらしく、二人してベッドに倒れたまま。
元就は、こんなに珍しい図はないと、同じ布団で寝る姿を、ケータイで撮っていた。
政宗は、寝惚け顔で一旦ドアを開けてくれたものの、再びベッドへ入り──
…どうやら、一人でいると思い込んでいたようだ。
今頃、目が覚めて悪態をつき合っているところかも知れない。
「キレ過ぎて、こっちが謝んないといけないことになってたかもなぁ」
慶次も苦笑し、欠伸を噛み締める。
こうして、最終日の朝食は、比較的和やかなムードで終わった。
(幸って、案外演技派なのかも)
慶次は、少々驚いてもいた。あまりに普段通りの、彼の態度に。
(本当に忘れてたりして。…いやいや、まさか)
クリスマスプレゼントのことは大丈夫だよな…と、悶々していると、
「慶次殿」
「ん?」
朝食後、部屋に入ろうとしたところで、声をかけられた。
ちょうど、元親たちが、それぞれ部屋へ消えたタイミング。
「少し屈んで下され」
「?…これで良い?」
言う通りにすると、幸村は慶次の髪の結び目に、何かを挿した。
「何?」
昨日のパーティーのように、花を着けられたんだろうか、と頭に手をやろうとするが、
「部屋で見てみて下され。クリスマスプレゼントでござる」
「…えっ」
幸村は、苦笑すると、
「いえ…某の物ではないのですがな。ホテルの方が、あまりに申し訳なさそうに落ち込まれていたので、一つお願いしてみたのです。来たときから、慶次殿に似合いそうだと思っていまして」
(え…何だろう)
早く鏡を見たくて、ウズウズする慶次。
「クッキー、本当にありがとうございました。…あと、某は『忘れました』が、慶次殿はお忘れなきよう──くれぐれも」
励ますように微笑むと、幸村は自分の部屋へ戻っていった。
「………」
遅れて染めてしまった頬を、手の甲で冷やしつつ、慶次は部屋に入る。
そして、鏡を見てみると、
結び目で揺れる、白い羽根。
(え…)
スッと取ってみると、羽根の他に、雪の結晶をモチーフに象られた、シルバーアクセサリーなどが付いていた。
ホテルの談話室に飾られていた、小さなツリーのオーナメントに、確かこれと似たような物が…
(羽根と雪…)
この羽根が、自分らしいと思ってくれたんだろうか。
そして、雪という言葉に、つい自分が使う彼の呼称を連想してしまい、
(アホ……乙女かってんだ…)
乙女にも失礼だろうと、その恥ずかしいこじつけを反省しつつ、
帰ったら、アクセサリーに作り変えよう──と、大切にバッグの中へとしまったのだった。
‐2011.10.10 up‐
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
慶次、色々ですみません…
ぐちゃぐちゃなのは、私のせい。
全然書けなかったですが、とりあえずスキー編は終了しました〜。
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