スキー研修B-4


「どうしようもなく好きになってから、思い出したんだ。…昔もそうで、振られたってこと。でも、相手は覚えていない。けど、そんなの関係なくて…。必ず、振り向かせる、幸せにするって誓った。…なのに」

はぁ、と息をつくと、


「関係ない、って思ってんのに、どうしても浮かぶんだ。…その人には、すごく大事に想う相手がいたこと。…二人は、誰よりも想い合ってた。俺は、それが幸せだった…本当に。びっくりするくらい男前なんだ、昔の俺は。今とは…全然比べもんになんない」


(『昔』…──もしや…)


幸村は、かすがと謙信や、自身のことをすぐに連想していた。



「二人は、出逢ってた──のに、記憶は戻らない。…で、ますます大きくなってった。
…でも。

二人は、昔と同じように笑う…俺の、大好きな顔で。その度、悔しくて切ないのに、…嬉しいんだ。やっぱり、この二人はそうでなきゃって。また、そうして幸せになるために、出逢った。…それは、誰よりも俺が分かることなのに」

慶次は、少し顔を幸村から背け、続ける。


「このまま思い出さなければ、もしかしたら俺にも…って。だけど、何故か俺は、それが嫌みたいで。…ってより、怖くて不安になるだろうからさ。思い出されたとき、どうなるのかって考えに、ずっと囚われて。──だから、やっぱり…思い出して欲しくて」


(…やはり、そういう話なんだろうか…?)


薄々感じてはいた。かすがと謙信も、生まれる前の──?と。…自分の夢と同じような、世界で。

であるから、彼女とは初めて会った気がしなくて。元就とも…


(…だからなのだろうか…)


元就以外の彼らにも、こんなにも強い気持ちを抱いてしまっているのは。



「…で、最近ようやく分かったんだよ、何でずっと言わなかったのかって、本当の理由」

今度こそ、慶次は自分を嘲笑し、


「俺……好きになってもらおうとしてたみたい。や、当たり前のことなんだけど。
…こっちが伝える前に、相手が自分から…俺に。って。

だったら、無敵な気がした。…思い出しても、かなりのストッパーになるんじゃないかって。…すげぇ汚いよな。てか、どんだけビビリなんだよって」


(そのようなこと…)


──しかし、声にならない。



「…二人に、思い出してもらいたいんだ。だって、すげぇことだろ…また、こうして逢えてるなんて。──って思いながらもさ」

慶次は、幸村の方に顔を向け、


「…思い出した上で、俺を選んで欲しい。俺を好きになって…今の俺を、見て欲しいんだ。
記憶がなくて、自覚もしてなかったあいつに、全然負けてる。…それは、あの笑顔を見てりゃよく分かる。…けど、

俺には、これしかないから。しつこいほどの…この気持ちしか。
でも、他に絶対負けない。これだけは、絶対…」


幸村も顔を向けると、慶次は照れたように笑った。「また、クサいこと言っちまった」と…


「相手を苦しませるってのは、分かってんだけど。…優しい奴だからさ。…けど、必ず俺が幸せに…」





「…慶次殿?」

詰まったように、そこから沈黙してしまう彼を、幸村が案ずるように窺った。


「俺……本当、カッコ悪い…」

慶次は、はは…と笑うと、



「じゃなくて……『俺が』、幸せになりたい──みたい。

カッコ悪くてガキだけじゃなく、我儘まで。ホント、ダサい…」


慶次の言葉は、再び詰まる。



「格好悪くなど、ございませぬよ。誰もが思うことではありませぬか…」


…幸村が、布団から手を伸ばし、慶次の頭を軽く撫でていた。

いつもと逆の行為に、慣れない手つきながらも、込められた思いはしっかりと伝わってくる。


「それが、あの顔の原因だったのですな。…やはり、慶次殿らしい…」

「………」

幸村の顔を直視できず、目を伏せる慶次。
それも悟りながら、幸村は手を止めはしなかった。


「…もう諦めなされ、慶次殿」

「──っえ…!?いや、それは…っ」

慌てて慶次が反論しようとすると、


「それが、慶次殿なのですから…仕方のないことでござろう。二人の幸せを願うのも、自分の幸せを望むのも、どちらも慶次殿の本心。…優しいのは、慶次殿の方なのです。

ですから、もう諦めて、全てが自分の気持ちであると認めれば良い。格好悪いとかダメなんだとか、余計な考えは捨てて下され。

誰が、このような綺麗なものを笑いましょう?某には、慶次殿の想う方が、そのような愚かな人だとは思えませぬ」


「…幸…」

ゆっくりと、慶次は視線を上げていった。


「某は、慶次殿の味方でござる。決して言いませぬ…が、分かり申した、『してはいけないこと』。…ですが、某にとっては、そのようなことよりも、慶次殿の方が数段大事。

そのお二人に、さっさと思い出してもらいとうござる。…話してみてはいかがで?刺激や、きっかけになるやも知れませぬぞ」


「──……」

驚いた表情で、幸村を見つめ返す慶次。


「あ…すみませぬ。出過ぎたことを」

幸村は顔を歪めるが、



「や……すげぇ嬉しい」


(………)


噛み締めるように呟かれた声に、返す言葉を失ってしまう。



「ありがとう。…本当は、そう言ってもらいたかったのかも」

自分の頭の上に置かれた、幸村の手に優しく触れ、

「一番しちゃいけないのに、一番聞いてもらいたかった…お前に。
…これで、絶対思い出してからじゃないと、言えなくなっちまったけど…」

「え?」

最後の方がよく聞き取れず、幸村は返すのだが、慶次は言い直さなかった。


「…何となく分かるんだ、もうすぐだって。俺もそうだったから、あいつも絶対…思い出す」

「──……」


「二人が思い出したら、必ず伝えるよ。…俺は、やっぱりこうなんだって」

ニッコリと笑い、


「…ありがと、聞いて…言ってくれて。」

「……っ」

幸村が、そんなことはない、というように首を振る。



「ありがとう…」


慶次は、もう一度礼を言うと、しばらくしてから、「…おやすみ」と優しく呟いた。

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