スキー研修B-2
「…クリスマスプレゼント」
──と、慶次は、はにかみ笑い。
「………」
「あっ、大丈夫!旅行の前日に作ったから、まだ悪くは」
「作った…!?」
幸村は目を丸くし、「慶次殿が?」
「あ、やっぱそう思う?」
あはは…と、苦笑いする慶次。
「あ、いえ!驚いて…」
「店の兄さんに教えてもらってさ〜。初めてでも、美味く作れるヤツらしいんだけど。助かったよ、俺でも何とか出来たし」
「何と…」
幸村は感心したように眺め、
「美味そうでござる…!初めてとは思えぬほど、綺麗に出来ておりまするよ!」
と、明るく言った。
「皆も驚かれまするな、きっと!」
「え?…あー…」
慶次は笑って、「あいつらには用意してないよ。幸に作ったんだし」
「え…」
「幸、あんだけ頑張ってくれて…優勝まで。俺はストールもらっときながら、手作りクッキーとか…何の使い道もないんだけど」
「いえっ!」
幸村は急いで首を振り、
「何より嬉しいものにござる!某の好きな……しかも、手作りなど」
世辞ではなく、心からの喜びと、感謝の意を述べた。
慶次は、幸村には気付かれないよう、ホッと息をつく。
「あいつらには、恥ずかしくて見せらんないよ。絶対内緒な?さっけと政宗なんか、プロ並みだからさぁ」
でも…と、慶次は続け、
「…俺も、やってみたかったんだよなぁ。自分で作ったので、喜んでもら…──や、まだ食べてもらってもないのに、言うなって感じなんだけど」
と、照れたように頬をかく。
「…頂いても?」
「え?うん…」
夜中だけど、と思ったらしい慶次だが、早く感想を聞きたい気持ちも強いようだ。
ふわりと漂う、バニラエッセンスの甘い香り。…幸村の、好きな匂い。
口に入れると──
「…っ、美味い…!慶次殿、本当に美味しゅうござる!某の、大好きな味で」
慶次殿も!と、袋を差し出すが、
「いや、俺は味見したから」
そう笑い、
「良かった…」
(………)
幸村は、いくつか食べてから手を止めると、
「慶次殿、…ありがとうございました」
「や、大した…」
と、言いかけた慶次を遮り、自分のケータイを彼に見せた。
「また……助けて頂いて」
「え?」
慶次が不思議そうな顔で覗くと、それはメール画面になっており、
『幸、寝ちゃってんだろな〜。あの後、ゲーム盛り上がったんだけど、さっけと政宗が夢中になっちゃって。
で、もう俺らも戻ることにした。お前が来ないから、皆残念がってたけど──』
…あとは、いつもの彼らしい、『また皆で旅行したいな』とか、『おやすみ、また明日』…など。
「このメールの音で、目が覚めたので…」
「嘘っ?」
一度寝入ると、なかなかのことでは起きない幸村が。
慶次は、目を丸くする。
「寒い寒いと、夢うつつに思っていましたので、もしかすると覚めかけておったのかも分かりませぬが…これがなければ、もっと遅れていたかと」
「おわー…マジで…?良かったぁ、俺…メール魔で」
…幸村相手限定の──であるが。
「夏の海でも、助けて頂いて。慶次殿には、いつもご迷惑を…」
「いや、今回のなんか単なる偶然じゃん!つーか、迷惑とか思ってねぇし」
少し口調を強め、
「お前が俺でも、そんな風に思わねぇのと同じだよ。図々しいかも知んないけど」
「いえ、某も当然っ…」
「だからさ、俺もそうだよ。…大切な人を失くせば、自分が一番辛いんだ。だから、必死になるんだろ、皆。結局、自分が一番可愛いんだよ、それを守るためなら…」
そこまで言い、慶次は言葉を切った。
「しまった」と後悔しているのが、はっきり見てとれる。
「ごめん、何か変な…」
──慶次は、自身の目を疑った。
「幸…」
「…はい…?」
そのままの顔で、見上げてくる幸村。
(俺、『破廉恥』なこと言ったっけ…)
だとしたら撤回しなければ、と思う慶次なのだが、…その表情に目を惹き寄せられ、どうにも考えがまとまらない。
「──あ…」
すると、彼が何を言わんとしているのか、分かったらしい幸村が、手の甲で顔を覆った。
「…慶次殿のせいでござる。いつもいつも…そのように。恥ずかしげもなく…」
さらに色付かせ、わずかに責める目をする幸村。
(う…)
またも惹き付けられ、焦ってしまう慶次だが、先ほどの自分の台詞が、その原因であるということは理解した。
「あ、あー…ごめん。クサいこと言っちゃって」
(…だよなぁ)
ホッとしつつ、残念なような気持ちにもなりながら、笑ってごまかした。
幸村の赤味が引いたのを見計らい、カードキーを渡すため立ち上がると、
「慶次殿も、怒ることがあるのですな」
幸村がポツリと呟いた。
「ああ…さっきの?だって、仕方ねーだろ?ありゃ、誰だって──…幸?」
何故か微笑む幸村を、慶次は不思議そうに見返す。
「自分が虐げられても全く動じぬのに、他人のためには──ああまで。つくづく慶次殿らしい…と、心底思いまして」
と、同じように腰を上げ、幸村は慶次の前に立った。
「慶次殿は、本当に…」
幸村の顔から、笑みが薄らいでいく。
「…どうかした?」
口を真一文字に結び、視線を落とす幸村を、慶次が心配そうに尋ねる。
「幸…」
「某、恋…というものを、しておれば良かった」
「え…!?」
その言葉に、目をむいて固まる慶次。
しかし、幸村は気付かず、
「…であれば、慶次殿のお気持ちも少しは分かりましょう…?──某にも、『相談』しておったかも知れぬでしょう…」
(え…)
慶次の驚きは、すぐに別の意味合いのものへと変わる。
(お、れの…)
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