スキー研修A-5







「な、何だよ〜。俺のせいじゃないだろ…?」


慶次が、困ったような、呆れたような顔で席に着く。
その隣に、溜め息をつきながら座る小十郎。
…彼らの手には、包装された箱。

丸テーブルを囲むメンバーからの、羨みと妬みの視線にうんざりする二人。


──ビンゴゲームの勝利者は、この二人のペアという結果で幕を閉じていた。


「小十郎、お前要らねーだろ。俺が使ってやるよ」

と、その手からもぎ取り、政宗は包装紙をはがしていく。

どこのガキ大将か、と呆れ返る面々だったが、

「良かったですなっ、政宗殿」

幸村だけは、同じように喜び顔。
それで、己を恥じる政宗ではないことが、ますます周りを、冷めた目にさせる。


「おう。帰ったらすぐ、お前の分も買いに行こうぜ!何なら、俺がプレゼン」

「旦那、明日の帰りにでも、店寄ってみよーよ。どんなのあるか、見に行こ?」

二人の間に座っていた佐助が、自分の頭で政宗の顔を覆うようにし、幸村へ微笑みかける。


「とりあえず、慶ちゃん見せて?」

元々欲しがっていた物なので、さすがの佐助でも、その衝動は抑えがたいものらしい。

「ハイハイ、どーぞ。明日まで貸してやるから、二人で好きなだけやってよ。で、後で教えて」

「ありがと〜!さっすが」

調子良く慶次を称え、佐助は、まじまじとゲームの説明書などを見始めた。


「──あ、姫ちゃん可愛い」

慶次が言うと、「えへへ〜」と、照れたように笑う鶴姫。

耳上の髪に、ピンクの花が咲いている。…円卓の中心に飾られたフラワーアレンジメントを、かすがから着けられたらしい。

「お二人にもっ」

と鶴姫は、両隣に座るかすがと元就に、花を飾った。元就には、胸ポケットに…だが。


「あっ、カワイ〜!」

たちまち他のテーブルから声が沸き、皆に伝染していった。

鶴姫とかすがも乗り気になり、席を立ってまで、メンバーたちに飾っていく。
それぞれの好きな色のものを──で、満更でもない表情になる彼らたち。


「お前は、髪に飾られた方が嬉しかったのではないか」

元就が嘲笑すれば、「あんだと?」と穏やかでない顔になる元親。

「昔なら、似合ったでしょうけどねぇ…」

鶴姫が、残念そうに元就へ囁く。
それから、眼帯の上に着けようとしたりと、二人して彼をからかっていた。


「お前らは、こうだな」

かすがが、慶次と幸村を見て、頷く。…二人は、髪の結び目に、それぞれ飾られていた。

もちろん、黄色と赤の花。

「??」

後ろからなので、何も分かっていない幸村。


「かすがちゃぁんっっ」

感動から、手を握ろうとする慶次を冷たく制し、かすがは席へと戻る。


「お揃いで、可愛らしいです!お二人、並んで下さぁい」

鶴姫がカメラを構えると、二人は、にこやかにポーズを決めるが…


「姫ちゃん、オッケーだよ〜?」
「早く撮れって」

…素早く二人の後ろに移動していた、佐助と政宗。


「……はぁ〜い。いきますよぉ〜?…」

鶴姫は、心の中で口を尖らせていたが、前の二人の笑顔が素晴らしかったため、気を取り直しシャッターを押した。


「…飯も、落ち着いて食えねぇのか…」

小十郎が苦笑すれば、


「たまには、ありなのでは?」

──と、幸村と同じ花を着けた孫市が、美麗に微笑んだ。











パーティーは締められ、会場の明かりは、全て落とされた。
外で開催される、『光と音のファンタジー』なるものの観覧に、相応しい環境へ。

イベントが終わる九時には、各自部屋へと戻らなければならない。
…が、既に解散状態なので、皆好きなように動いていた。

聞けば、最上階の展望ラウンジが最高にロマンチックな雰囲気らしいのだが、カップルだらけだったらしく、敗れた独り者たちは、やさぐれながら部屋に戻って行く。

会場には、ほとんど女子ばかり。
うまくいったペアたちは、二人きりになれる場所で、ゆっくり観ているのだろう…。


幻想的な光と音が、雪景色をさらに鮮やかに彩っていく。

近隣のホテルは、客室の窓の明かりを使って、クリスマスを示す絵や文字を表していた。


「旦那、あれ、このホテルもやってるらしいよ?」
「そうなのかっ?…見られなくて残念だな」
「向こうの人らも、そう思ってっかもね」

外の光に、没頭し続ける横顔。

…佐助は、ずっと見ていたい気持ちを抑えつつ、きちんと感動を共有することに集中していた。

あれはああだとか、これはこうだとかのコメントに、いちいち反応を嬉しそうに返す幸村。
…まるで、二人きりでいるような錯覚を起こしてしまいそうになる。


光に照らされる、幸村の姿。
大きな瞳に、キラキラと映る輝き。

外で次々生み出される本物よりも、数段綺麗に見えて、仕方がない。


──胸の鼓動が、速まる。

爪先から頭の上まで、感じたことのない熱が、巡っていく。
いつも冷静な自分が。…思わず、笑ってしまいそうになるが。

これまでも、彼といると、いつも温かさを感じてはいた。
…今ではそれが、遥かに上昇しきってしまったのがよく分かる。


(…旦那にも、移れば良いのに)


そうして、騙されてくれれば良い。──自分に、恋しているかも知れないと。
その勘違いを、決して悪いようにはしないから。

…必ず、本物にしてみせるから。


この気持ちを伝えたとき、彼は、一体どんな顔をしてくれるのだろう。
…自分でも不思議なほど、それを見るのが楽しみで、しょうがない。

何故か、嫌悪される気が、一片も湧かない。…きっと、自分を選んでくれる。根拠はないのに、その自信だけは、やたらとあるのだ。

気付いただけで、こんなにも強気になれるものだとは。…認めたくはないが、政宗の気持ちが、かなり理解できてしまう。


帰るのが楽しみだ、と笑み、ポケットから手を出すと、ヒラッと部屋のカードキーが、テーブルの下へ落ちた。

(やべ)

慌てて覗いたが、見える範囲に姿がない。…奥まで、舞っていったらしい。

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