スキー研修A-3
研修二日目は、やはり、幸村はスキーのみにしておいた。
他のメンバーたちはスノボに手を出し、またもや彼らのコーチを驚かせている。
これでは、昨日よりも、ホテルに戻った後が大変であろうな、と思いながら眺める幸村。
「いやー…こんなに楽ができるの、初めてだわ」
真顔でしみじみ言うのが、妙におかしい。
こちらのコーチは、いかにもスポーツマンという感じの、ガッチリした風貌。
幸村の礼儀正しさを、すぐに気に入ったようだった。
「──どうも。すごいですねぇ、あの子たち。教え甲斐はなさそうだけど」
(あ…)
昨日の、幸村の班のコーチが、笑いながら話しかけて来た。
どうやら、こちらの彼と、先輩後輩の間柄であるらしい。
「私たちも、やっと追い付きました〜」
鶴姫が、ニコニコと幸村に手を振ると、
「それは何より!見て下され、皆…。もう、ずっと目が離せず、困り果ててしまいまする」
幸村は苦笑顔で、友人たちを称えた。
「あいつらも、黙っていれば見られるのにな」
「…ああいう姿だけにしておけば、幸村だって…」
「え?」
孫市やかすがの言葉に、幸村は振り返るが、「気にするな」と言われ、素直に従う。
「コーチ、滑っても良いですかぁっ?」
鶴姫の、ワクワクした声に、
「よし、俺が指導してあげよう」
と、スポーツマンコーチが、美女三人組を集める。
「先輩〜?」
「俺、昨日から何もやってないも同然なんだ。ちょっと交代してくれ」
そう言うと、三人を連れ、滑って行った。
「──あの」
「あ、昨日はゴメンね?…今朝、言われてさ」
「えっ」
驚いて聞くと、慶次から既に話がいっていたとのこと。
「すごい釘刺されちゃった。いやぁ、若いって良いねぇ」
極めて明るい笑い声。
幸村には理解不能だが、彼は楽しくてたまらない様子に見える。
「しかし、仕方がないかと…。そのような誤解をされたままなど、気持ちの良いものではないでしょうし…」
(そのままで良いと言っていたが、やはり…)
──それはそうだろう。
彼とは、ここでの付き合いしかない……とは言っても。
ましてや、あれだけ想う方がいるという心境で。
「誤解?…それは、もう解けたんだよね?」
「え?」
「や、俺がわざと嘘ついたの」
「あ──はぁ…」
幸村は、昨日のことを思い出しながら、
「何故、あのような…」
「だって、あんなにすごいのに、何でかなぁって思ってさ。あれが、きっかけになれば良いのにな〜とか」
「……?」
どうしたものか。…言っていることが、全く分からない。
「君に手を出すな──って、そりゃもう、すごい剣幕で…」
「だーんなっ、どーだった!?…って、」
「Ah〜…何だ。アンタかよ」
サッと近寄った二人は、コーチを見て、拍子抜けな顔をする。
幸村は、「あっ」と短い声を上げ、
「二人ともっ。皆すご過ぎるゆえ、自分の滑る暇がないでござる。ついつい、見てしまって…」
(〜〜〜ッ、可愛いっっ!)
(幸村、very cute!!)
困ったように笑い、少々睨む幸村に、異常なほどの興奮を抑える二人。
…ほとんど、隠せてはいないが。
「俺かよ、ってひどいなぁ。君らのコーチは、うちのメンバーを拉致してったよ。あんまり暇だったみたいで」
「あーねー…」
「慶次の奴、ダッセぇ。なーにが『幸が逆ナンされてる!』だ。──良いか悪ィか、どっちかにしろっての、目」
「しかも、コーチだし」
二人は、滑って来た方向に、ブツブツと呟く。
「へぇ〜。あんなとこから、よく見えたねぇ。俺、女に見える?」
「全然」
「あいつ、自分がデケェんで、基準がおかしいんすよ」
二人は、馬鹿にしたように笑う。(こういうときの彼らの表情は、幸村でも思うほど、よく似ていた)
「…やっぱ、すごいなぁ…。──ねぇ?」
コーチは、ますます嬉しそうに笑うのだが、
「はあ…」
…やはり、何も把握できず、首を傾げるばかりの幸村。
「君ら、仲良いねぇ」
コーチが、佐助と政宗に言うと、
「でっしょ〜?もう、似過ぎて困ってんですぅ〜」
「Hahaha、…ちょーど良い、俺らの技、どっちが上か判定してもらおーぜ」
「良いね。お願いします、是非!」
「判定かぁ…。勝った方が、お持ち帰り?」
と、コーチが幸村の肩を叩く。
「良い案ですね。俺が勝ったときだけ、それで」
佐助は笑顔で、その手を払いのけた。
「俺は、結果なんざ無視。…ま、勝つがな」
うわべだけの笑みを浮かべ、幸村とコーチをスタート地点まで連れていく二人。
(…何の話だったのか…)
やはり、よく分からないままの幸村であった。
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明日は最終日、帰るのみ──
前日の夜は、ちょうど良い大きさの会場を借り、ささやかなクリスマスパーティーが催される予定となっていた。
広めの窓からは、下のイルミネーションが見え、テーブルには豪華な食事と聞き…
朝から生徒たちは、改めて幸村と孫市に、感謝の言葉をかけ通しであった。
「はい、ようこそ〜。我がクラス委員長カップル。見慣れたペアなんで、お似合いですよぉ〜」
幹事の生徒が、冷やかすように、元就と鶴姫に声をかける。
「褒められてるのか、微妙です〜」
「フン。…さっさと撮れ」
「ハイハイ」
『パシャ』、と二人のツーショットをポラロイドカメラで撮り、写真をボードに飾った。
二人も幹事も、正装。
元就と幹事は、フォーマルスーツ──学園の仕様の物で、男子全員同じであるので、ネクタイ等小物で個性を出すしかない。
鶴姫は、可愛らしいピンク色のドレス。ハイウェストで、スカート丈は膝上の、彼女によく似合う一着。
切り替えの黒いリボンが、甘さを引き締めていた。
女子生徒は、自由な服装が認められている。…本人たちからの、強い要求の結果。
面倒な男子は、「制服で良いじゃん?」と文句タラタラだったが、男女一組になり、入口をくぐるという話が決まってからは、大人しく従う方向になった。
…彼らは、恋人を作る、ほんのわずかな機会も逃したくはない。
──と言っても、単にビンゴゲームを、そのペアでやるだけのことなのだが。
写真は、ただの記念物である。
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