スキー研修@-5


「だって、あの子とか特にさぁ…。見てるだけで、よく分かるし。すっごい熱烈視線」

と、ロビーの彼らに目をやる。


(え……)


「情熱的だねぇ、彼。付き合って、もう長いの?」

「…!?──あの…ッ?」


コーチは笑って、

「いや、誰にも言わないよ。…普通に羨ましいし」

──少し、哀しい目を見せる。




(……もしや……)




「…コーチ殿も、……想う、方が…?」

おずおず聞くと、


「振られたばっか。良い出会い、探し中ー」

と、極めて明るい口調で答えられた。


「………」

もちろん、幸村に上手く言える言葉など、すぐに出るはずもなく。


(謝るのも、妙な気が…)



「──ああ、まだ見てる…。すごいな、本当に。よく見付けられるよね、あんなとこから、この人混みの中をさ」

「え?」

「彼。本当に…」


幸村は、遠くに立つ政宗の姿を見て、

「あの、違いまする…!付き合ってなど」


「あ、じゃあ向こうの片想いかぁ…。そんな気もしたんだけど」

「な…」


(何故、そんなことが分かるのだ…?)

幸村は、ただ驚くばかり。


「でも、君が知ってるってことは、気持ちは伝えられ済みなんだ。すごいなぁ…」


(そこまで…)



「あー大丈夫。俺、そういうの、人より敏感なんだ。普通の人には、分からないよ」

と、席を立つと、

「彼に誤解される前に、行くね。ちゃんと、フォローしとくから」


「え、あの…!?」

面食らう幸村をよそに、コーチはロビーの方へ行ってしまう。

人だかりのせいで、政宗とどんな風に話しているかなんて、全く窺えない。


(誤解など…)


政宗は、男である自分を好いている。
…嫉妬も、女性相手だけとは限らない──という意味だろうか?

そういえば、かすがなどは、同性異性構わず嫉妬している。
彼が、同じような考えだとすれば…。


(なるべく、普通にしていたいというのに…)


せっかく、政宗もそうしてくれて、楽しい時間が過ごせていたのに。






「──大丈夫か!?」

「えっ?」


突如、性急な様子で現れた彼。

幸村は、何のことかと、再び面食らうことになる。


「嫌な思いしたんじゃ…」

心配そうに、覗き込む顔。



「慶次殿…?」


(一体、何を慌てて…)


「…あいつ、人の良さそうな顔して…。明日、俺がガツンと言っとくから」

「え?…あの、慶次殿、何の話…」

「何って──」


今度は、慶次が首を傾けながら、

「いや、さっき幸んとこのコーチがさ…」



『あの子…可愛いね、真田くん。ちょっとからかったら、真っ赤になっちゃった。困ってるかも知れないから、行ってあげてよ。…さっきのは冗談だって、君から言っといて』



「──って」



(はぁぁ…!?)


幸村は、今度こそ大混乱。



「……あれ?…もしかして…」

徐々に力が抜けていく慶次。

「…何のことか、さっぱり。からかわれてなど、おりませぬ…」


「──そか。なら、良いんだけど」

ホッとしたように、幸村の前に座った。



(…何故、慶次殿に)


そのような、嘘を…?



(──あっ)



「慶次殿、コーチ殿は、勘違いをされておられる!」

「勘違い?」

声を潜めながらも、真剣な顔の幸村に、慶次も眉を寄せて、身を乗り出した。


「慶次殿と政宗殿を、間違えておられるのだ…!」

──と、幸村は先ほどの話を、かいつまんで聞かせた。


「何故、そのようなことを言われたのかは、分かりませぬが…」

「………」

「某、説明して来まする!誤解されたままでは」

「はッ?──って、どうやって?」

慶次は、目を見開く。


「部屋の番号をお聞きしましたゆえ、今から…」



「馬鹿ッ!!」



(えっ──)


突然の叱咤する一声に、ビクリと固まる幸村。

そう大声ではなかったので、周りには気付かれてもいないが…



(慶次殿…?)



…幸村は、彼のこのような声を聞くのは、初めてであった。

すぐに不安が押し寄せるが、


「──ごめん…いきなり。つい…」

後悔したような顔と、いつもの柔らかい雰囲気に戻る姿に、ゆるゆると腰を落ち着ける。


「あの……某…」


(何か、悪いことを…?)



「や……。冗談だったみてーだけど、信用できねぇし…。お前のこと、本当に狙ってっかも知れねーじゃん…」

と、幸村の手に軽く触れ、

「危なっかしいよ、幸…。政宗とかさぁ…気を付けろよ、マジで。お前に何かあったら、…」


(…慶次殿…)



「…って、何言ってるか、分かんないだろうけど…」

「──いえ、…某にも、それくらいは」


(心配、して下さって…)



しかし、と幸村は慶次を見直し、

「やはり、明日にでも、きちんと言っておきまする。誤解されたままでは、慶次殿が」


だが、慶次は遮るように、手の力を強め、

「良いよ、そのままで。…誤解されたままで良い」


「…何故…」
「──……」

幸村は、眉を寄せて尋ねるが、慶次は何も答えようとしなかった。

…その表情からは、何の真意も掴めない。





ずきり──と、胸が痛んだ。




(…まただ。だが…)



以前よりも、さらに…苦しい。

距離が、どんどん開いていく──ような。


その心が、分からない。
何故、そんなにも辛そうな顔をするのかが、理解できない。

…自分の心配をしながら、想う方への眼差しを見せる。



──…苦しい。



恐らく、それを発する彼が、ひどく苦しんでいるからだ。…こちらにまで、伝わって来て。

どうすれば、その顔を晴らすことができるのか。
彼は、こんなにも優しく…温かいものをくれるというのに。


分からない──知らない自分が、…力が。
歯痒くて、…仕方がない。



「ごめん、本当に…。何か、偉そうに言って…」

「そのようなこと…」


いつも通りの笑顔に戻る慶次に、幸村もどうにか笑みを返すが…

すぐに、ロビーにいたメンバーたちが戻って来たので、気まずい雰囲気は綺麗に流れた。


それぞれの部屋に戻る際には、変わらぬ様子に戻っていた二人。

──が、幸村はすぐに寝付くことができず、辛い夜を過ごす羽目となったのだった。







‐2011.10.2 up‐

あとがき


ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

スキーが生かせない…(TT)
おかしいところ、スルーでお願いします。
捏造キャラが食い込み、すみません。

佐助は、ルンルンです。春、真っ盛り^^

皆、カッコ良いんだろうなぁ…スキー姿(^m^) モテモテですね、きっと。


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